先生が付き添い
「アパートができたじゃない?」
おー二棟な。千種邸と俺の祖母の家だった敷地に冬から工事が入り、建物が建った。
かたや橋本薫さんの小料理屋を1階に持ち、もう一つは1階に「なかよし水泳会」などの事務所が入ると聞いている。
建設会社当初こそ進捗を見に行ったりしてたけど…。文字通り死にかけたり、野球の予選があったりして、足が遠のいていた。予定通りなら既に完成しているはずだ。
「それで?」
促すと結菜はこう告げた。
「今晩お母さんの店でささやかなお祝いあるからね」
千種に知ってた?と問うと、肯定の首肯。
そっか。
「おめでとう…だな」
「将来のあたしの城なんて、お母さん言ってるけど…引退すると思う?」
あのパワフルな薫さんなら生涯現役だろう。
「幸平にはあたしから連絡してってお母さんから言われてさ。千種って朝少し機嫌悪いから」
そんな情報初耳なんだが。
当の千種は俺の右腕を抱きしめている。
珍しく不安定な彼女をこの朝初めて認識した。
「分かった。今日ちょっと遅刻する。千種も一緒だ」
「どうしたの?」
「後遺症の有無の診断」
あーお大事に、と結菜はすぐに電話を終えた。
俺は嘘を躊躇わない人間のようだ。
・・・
それから千紗さんに連絡をすると、すぐに出てくれた。
衒いなく千種の状況を伝える。
「今晩にはそっちに行くけどこれからすぐは無理ね」
どうする、千種?と千紗さんは電話越しに千種に尋ねる。
この母娘は存外に仲が良く、互いの信頼が厚い。
「どうしよう」
母の前では本当に娘らしく、無邪気にその本来の性格を現す。
そして千種が保護者として母に依頼したのは…。
北玲さんだった。
・・・
担任を午前休ませてまで召喚していいものだろうか。
ましてや日本のトップアスリートに。
「すぐ行くわ」
そしてそれを簡単に受ける日本の巨星。
ずいぶん贅沢な日本一の使い方だこと。
まっどうやら新妻の絆とか言う、よく分からない仲間意識がお互いにあるらしく、当人同士に口を挟めない小物の俺は、ただ付き添う他に術がない。
と言う経緯で…。
俺と千種は産婦人科の近くで玲先生を待つことになった。
さすがに去年の経験があるから恥ずかしくなんかないんだからね。
待っていた間に同級生が数人通りかかったけど、千種に挨拶をする割に俺に視線を合わせなかったのは…理由を先生に聞いてみよう。
教師ならうまいこと誤魔化して…くれるよね?




