光太郎の電話
「来ないの」
何が?
「なにが」
退院の日以降してないはず。俺の子じゃないぞ。高校生で父親になるのは早いもの。
「そうじゃなくて」
違うのか。まずは安泰。
「生理」
……。
・・・
およそ心配のど真ん中を貫く一言。
甲子園の切符を掴み取った次の朝はそんな自称嫁の衝撃的な言葉で始まった。
千種はこの手の冗談を嫌う。
そして俺たちは大きな問題もなくうまくやってきたはずだ。
おまえに限って見に覚えは…
「噛みちぎるわよ」
…だよな。すぐに妊娠の可能性は消えた。
残念ながらそうとなると俺の知識は乏しい。
さて、どうしよう。
「医者にかかるのが一番だよな」
思い起こすのは一年前の御地行きの時のこと。あの時は確か産婦人科の前から始まったはずだ。
あの時は姉がいた。だが今はその姉が身籠っている。こういうのって保護者が必要なのでは…。千紗さんに連絡すべきだな。
それにしても、昨日は決勝のベンチでマネージャーしていて、そんな素振りが全く見えなかったぞ。
「あたし、できる妻だもん」
…古風だが、個人の考えでいる範囲なら問題ないのかな。
おっと、そんなことより千紗さんに。
・・・
なぜか千種は俺から連絡してほしいと言い、今さら恥ずかしがる関係ではない俺もまた気軽に千紗さんの番号を選ぶ。
まさにタップしようとした瞬間に俺の携帯が着信を告げ始めた。
ちなみに非常に束縛の激しい千種は女性からの俺への連絡を、すべて自分経由にしている。
…学内の女神様って言ってもサイコっぽいのが知られてないだけだからね。俺の美脚好きと同じで、たくさん失敗して経験して、世の中の常識の範囲に収まっていくんだろう。
美脚好きの失敗…。したいようなしたくないような…。
「逃避してないで早く出なさい」
そうだった。
画面には光太郎の文字。こんな朝早くからかかってきたことがないから、こちらも何かトラブルかと身構える。
「おはよ。どうした?」
およそ普通に。何事もありませんようにと念じながら。
「あ、幸平?」
昨日あれだけの活躍をしたから別人になったのか?そんな可愛らしい声になるなんて千種が勘違いするだろ。
「何言ってんの?あたしよあたし」
薄々誰か気づいたが、千種の前でどう答えれば正解なんだよ…。
「おー久しぶり。美樹から電話なんて珍しいな」
「違うでしょ」眼前の女神様。
「失礼ね」電話主。
毒食らわば皿まで。
「放課後のデートなら待ち合わせはいつものとこな」
「「死ね」」
千種にも橋本結菜にも罵倒される。
とりあえずこちらから落ち着かせないと。
千種の右手の黄色いミサンガを撫でる。
「またあんたたちいちゃつこうとしてないよね?」
生き残るためにはなんだってするさ。




