セーフティバント
投の大杉光太郎、打の五明寛。
一応の高良の看板であり…しかし実は陽気なアメリカンがムードメーカーであり、支柱だった。
打では苦手なコースがなく、しなやかな肉体、独特のリズム感、ベンチで喋りっぱなしの性格。
史上最強の助っ人と呼び声高い父、鉄人と呼ばれ40代にして競泳の金メダリスト、または哲人の側面から五輪委員として人格者の母を持つ…ある意味ではサラブレッド中の駿馬。
光太郎、ブートと共に三馬鹿でもある規格外。
説明だけで原稿用紙1枚じゃ足りなくなるな。
先発に名前がないだけでも、相手チームは混乱しただろう。
…いや昨日もいなかったか。
スタンドでは黄田のランニングホームランの余韻がまだ残っているかのようにざわめいている。
相手は5回頭から投手を交代させるのではなくあえて4回2/3で代えたことに何かしら意図があったのだろう。
だがアンダーとサイドの違いこそあれ、昨夏からバッピは俺だ。ロゼ太郎は見慣れている。まさかこのタイミングで代打とは向こうも計算外だったのは間違いないところだ。
外野はフェンス間近に遠のいた。内野も深い。シングルヒットなら上出来…守備陣形はそう雄弁に語る。
セーフティバント。
大前監督はそうサインを出した。この大会初めての采配だ。試合に来たのも初めてだけど。
コンっ。
3塁手がボールを掴んだ時にはロゼ太郎は1塁を駆け抜けていた。
これはなんの意図だ?
7点差で代打のスラッガーに初球セーフティ。
プロじゃないから批判はされないだろうけどね。
とりあえずワンナウト1塁。
1番の俺は…どうすりゃいいんですかね?監督。
……。
またセーフティ?
サインはそうだった。
じゃあまあ遠慮なく。
コンっ。
今度は1塁側に転がしオールセーフ。
2番の沢村が3球見逃す間にダブルスチール。
ロゼ太郎も脚は速い。当然2、3塁となるわけで…。
じわじわと圧力をかけてるってことか。
自分が相手投手の立場なら…かなり嫌だな。
ふと思い出す。今投げているのは俺と同じ2年生。まだあと1年間は戦う可能性があるってことだ。ましてや強豪校の2番手。来年までにうちと当たるなら登板の機会は必ずあるだろう。
沢村は内野ゴロに終わったが、市川は四球。前の打席のセーフティといい、本職のピッチャー以外だとそのクレバーさは際立つ。
「あいつの親父さん、市会議員なんですよ」
後藤が児島の代わりに解説してくれた。
…どう繋がってるのか良く分からないけどな。
とにかく。
7点差でツーアウト満塁。打席に五明が入る。




