医師、スカウトから見た六条家
「野球部のやつらには話してるんだがな…」
幸平が千種と共に結菜たちの方に行ったため、依田日向と玲夫妻の席にはほぼ人がいなくなり、逆に所在なげにしていた大前宝が流れてきた。
「なんすか?」
「頭のいい学校出て、プロ野球選手になってもそれだけじゃどうにもならん」
大前の経歴は概略ながら日向も承知はしている。最高学府からプロ野球選手になったのは史上指折り数えられる程度だ。
だがドラフトにかかるのは最高学府に入学できる以上の難関。大雑把に言えば、ドラフトを2回経験したような…かなりのエリートと言えなくもない。
「まあ、大スターのおまえに零したところでみっともないだけだけどな」
「リハビリが何年もかかると診断したのは先生じゃ」
「まあ…なあ。まあ…まあ…」
「珍しく歯切れが悪いすね」
「…おまえの怪我…プロ入り前が理由だろ?」
その通りだった。玲を庇っただけではなく、自暴自棄になって命を惜しまない喧嘩を日向自身が犯したからだ。
その時、ふっと和田夫妻が美也子を伴い近くにも着席する。
日向は特に緊張もしない。
実母の華と幾度となく近年は会い、大人同士のやり取りができるまでの間柄になっている。むしろ美也子が落ち着かない風情で、日向と華の顔を交互に見やる。
六条猛が他界しなければ…華が離婚しなければ、この3人は家族であったはずだ。
しかし現実は、華は和田華となり、日向は依田日向となり、一人美也子だけが六条美也子である。美也子は華との交流を通して、その空白を埋めつつあるが…。
「家族だったんだってな、おまえら」
さすが大前宝。微妙なことをズケズケと話す。
「そうすよ、先生。やっとこさ疑似家族みたいに同じテーブルを囲めるようになったんすから、茶化すのはなしで」
日向もまた大胆に言う。
「野球の大スターのおまえの妹が、北玲の秘蔵っ子ってんだからすげえ兄妹だよな」
この席が始まる前に大事な話を大杉美樹と終えていた依田玲は、美也子を見る。明らかに水泳の才能を持ってはいても、その人間性は成長させなければ、非常にアンバランスな人間になる…と玲は危惧していた。
だが、むしろ…ほぼ孤独な中学時代を危ういながらも問題なく過ごせたことが奇跡的だったように思える。美也子の兄は…死を選びとることすら放棄したように…怪我をした。
それが回り回って、今日に至る。
兄より激しそうな気性の妹がなぜ曲がりなりにも平穏に中学時代を過ごせたか…大前のスカウトで鍛えた観察眼は、違う席にいる少年を捉える。
(早名幸平か…)
雑務に追われてやっと仕事の終えた相原一家が到着した。一人娘の愛らしさが華を添える。
それぞれの思いが交錯する宴は夜半にまで及んだ。




