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高良フェノミナン2nd  作者: カラー
第9章:交錯する夜

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マリーの提案

 母が引き受けた仕事は水泳選手のマネジメント、道を挟んだ二棟の管理だ。

 その雑務一切を相原さんと共に立ち上げたことになる。そこに幸平くんのお姉さん夫妻…プロ野球選手として超一流の遊佐晶さん、名前こそ世の中に知られてはいないが、ヒット作2本の主役を務めた葉さんが加わる。詳しくは聞いていないものの…依田日向さんもおそらくは。


 わたしがこれまでに負った将来の負債…ここ1年の母、弟、わたしの生活を含めた一切の費用、そしてなにより母の療養費。

 それは返済すべきものと認識している。

 だからこそ。

 しばらく前に提示された将来の職業(どう言えばいいのか分からないので、仮になかよし水泳会の仕事と呼ぼう)は、本当にわたしのことを思ってのことのはずだ。

 最短のルートは、高良大の法学部に進学すること。そう思い描いていた。

 それはとてつもなくありがたい道筋であり…同時にそれ以外にはあり得ないはずでもあった。


 ・・・

 世界を見てきなさい。

 玲先生は端的にそう表現した。あなたはまず見聞を広げるべきだと。


 そう言われてもわたしは自分の知る世界がはたして狭いのかどうか…それすらも自覚できてはいない。

 おそらくは先生のおっしゃることが正しいのだろう。仮にもアメリカに留学され、その後世界の様々な地域を巡ったと聞いている。


 今年のレースはたまたま先生に先着できている。世間では大杉美樹がいよいよ本格化して北玲を越えた、と記事を書いているようだが…それは()()が続いただけのことだ。

 練習中に玲先生に常に負けている。


「これで玲先生より速くなったわけではないから」

 数少ない友人であり、今までの誰よりも優秀なサポート役の室賀千種ちゃんは冷静にわたしに釘を差す。

 常に。


 正直に言うと、これはきつい。

 ヘタレなわたしの心は負けそうになる。

 そしてまた…それを救ってくれるのも千種ちゃんであり、橋本結菜ちゃんだった。


 鬼のような千種ちゃんの一面を軽くいなしている幸平くんは、もしかしたらすごい人なのかもしれない。

 授業中は寝ているばかりだけれど。


 ・・・

「留学ですか?」

 そう、と玲先生は頷いた。

 わたしは判断ができない。

「具体的なんでしょうか?」

 マリーからの提案なの、とさらに先生は明かす。

 先生の先生。マリーさんに対してはそんな認識だった。

 …そう。まだわたしはマリーさんから直接の指導さえ受けてはいなかった。最初に会ったときの言葉から、世界でも有数のコーチに直接教えていただけるものだと思ったのだが…。


 マリーさんは妻であり、母であることをどうやら優先しているのではないか、と最近は思うようになった。

 既に実績も名声もある方だ。その方の判断をわたしが推し量る意味などあるわけがない。


 にも関わらず玲先生の次の言葉がわたしを揺さぶった。


 マリーの目がいつ見えなくなるか本人にも分からないから、だと。

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