室賀千紗
初めはたった1人の娘を守ろうとしたことだった。
その娘がたった1人の男の子を見つけてきて、わたしたちに向かって宣言した。
あたしはこの人の嫁になるのだと。
どこにそんな気性を隠していたのか、非常に娘は嫉妬深く…愛情も深いようだった。
初めて知る娘。
他人からは静けさがまるで湖のようだと評されていたのに、その静かな水面の底には測りきれない深さを秘めていた。
そしてその愛情と言う水の量もまた測りきれない。
娘さえ守りきれればそれでいい。夫に姓を捨てさせ、わたしの旧姓、室賀となったことでおそらく千種は巫女候補から脱出できたことだろう。
だが。
・・・
わたしの横でそわそわして落ち着かない夫に寄り添い、遠巻きに娘たちを見ていた。
娘の彼、幸平くんはいつものように飄々としている。
彼のいとこもまた似ているようだ。
あまりにも有名人のため、そして夫の崇拝する遊佐晶さんの盟友、依田日向さんを初めて等身大で知ることができるチャンスだ。
夫を気遣い前面に出ず話を聞いていると、依田日向さんは幸平くんに対してこの地に住むことを決めたと言った。
果たして自覚があるのか。
六条家の忘れ形見が2人ともこの地に揃うことになる。
サナメノツガイ。
またも娘の周りを覆う悪いイメージがわたしを混乱させる。まだどうなるとも分からないのに、歴史を修正しようとすればするほど、まるで命があるかのようにサナメノツガイはその形を取り戻そうとする。
誰にも悪意を見せないまま。
なによりも娘が唯一恋をした相手は早名幸平くん。
本家の正統と言って差し支えないほどの血と…なによりその資質が、彼をただの地位には押し留めない。本人が意図せずとも周りは彼を上げようとする。
それぞれの運命は幸運と呼べるはずなのに、その枠組みは確かに気持ちの悪いものに形作ってしまうのは、あまりに…。
もし…清さんが…幸平くんのお母さんの清さんが生きていたら…どうするだろう。
わたしは。
もしかしたら清さんの夫になるはずだった行朝さんと結婚した。別に早名一族とかそんなことは知ったことではなかった。
わたしは行朝さんに恋をしたのだ。
だから。
清さんになんの負い目もない。
あっていいはずがない。
それでも。
清さんは名前の通り清らかなで同じ女としても憧れるような存在だった。
その人の遺児も、そして娘も可愛くて仕方がない。
だからね、清さん。
わたしは決めた。あなたが苦しんで、もしかしたら命さえ亡くした元凶を。
サナメノツガイを。
この手で。
壊してやる。
筆を起こして一年半。やっと室賀千紗さん立ちました。




