いとこ
ちわす、と野球部員のように日向さんに挨拶する。仮にも甲子園に出場する高校の部員だものね、バッピだけど。
「よっ。いとこ」
おかしな呼び名で気軽に返事をしてくれる日向さん。それにしたって…いとこ?
「美也子ちゃんがいとこなら、お兄さんもそうでしょう?」
千種の言葉。
…あー。そう言えばそうなるのか。
おそらく戸籍とかは全くの別人だろうが、俺の母と日向さんの実母は姉妹だものな。血縁関係で言えば、そりゃいとこ、だ。
それでも拭えない違和感を胸に
「なんかいきなり親戚が増えたみたいで」
と日向さんに答える。失礼には当たらないだろう。
「率直だな。高校生の分際で結納するくらいだから、そのくらい度胸ある方が、らしいのか」
うっすらと笑顔を浮かべ、きゃんきゃんと騒がしい美也子を宥める和田…華さんをチラリと見た。
正直、日向さんと華さんの関係はどうなんだろう。六条家に嫁いだ華さんが、実子である日向さんに愛情を注げないが故に、離婚することになった経緯を、俺は美也子と華さんの再会時に耳にしている。
「あっ、なんか心配してんのか?」
あっさりと日向さんは喝破した。
打者を読むことで最多勝を獲得した優秀なピッチャーだ。俺ごときの心理など手に取るように分かるのだろう。
「美也子と華さんの再会時にいたもので…」
ふーん…と日向さんは俺を見据えた。
「いとこだな」
え…?
「なんか思うことがあるんだろ?俺が読み取れないんだから、おまえも食わせものってことだ。そりゃいとこらしいわな。俺のな」
自虐ともとれるようなことを言う。
似たようなことを午前中にダンディー医師に言われたような。
「まっ俺は依田、だ。それに親父のこともあってここ数年は会ったことも一度や二度じゃない」
…華さんと。
当人同士の話だから、おまえは心配しなくていい…と日向さんに言外に言われたのだろうか、今。
黙って日向さんの横にいた玲先生が、千種がするように優しく日向さんの左腕を取った。
本当に自然な仕草で、長年の恋人のようだった。つーかもう一年経った夫婦だった。
「誰にだってなにかしらあるもんだろ?」
えらく漠然としたことを言ったあと、ちょいちょいと俺を手招きして、耳を貸せと真似をする。
はあ…。
「俺は玲にしかたたねえのよ」
はあ!?
耳打ちされた内容は結構ショッキングだったけど。
再び周りに聞こえるくらいの声量で日向さんは続けた。
「似た者親子?ってことになるんだろうな」
内容を知らなければ分からないようなシニカルな口調だった。
子供を愛せない親と、たった1人しか異性を感じられない子供。それは似た者同士になるんだろうか?
返答できないでいると
「おまえはどうなんだ?」
と日向さんの問いかけ。
あー……。
瞬時に悟る。
俺は。
俺は日向さんの側の人間らしい。
右腕を抱く千種を見て、なくしちゃいけないのだと初めて理解した。
この章の最終話です。




