ミコさんの決断
そもそも夏休みに入っていたことを知らない生徒会長がいるんだろうか?
いるんだな。俺だ。
なあ千種。
「ん?」
去年はバッピで夏が過ぎたけど、今年はどうしようか。
「あなた甲子園に行かないつもり?」
昨日の県予選決勝で一区切りついた気分なんだ。
「全国の球児を敵にまわすんだ」
そういうわけでは…。ならもう少しだけ。
「センバツの後にあたしの胸で泣いたの誰よ」
…俺だ。
・・・
とりあえず野球部は今日は休み。だから折井と黄田のデートが成立したわけで…。
夜までどうするよ、千種?
「……」
え。ここでだんまり?なぜ。
「御地」
ん?あの?
「主よ」
オクターブ低い声が千種の肉体から発せられた。ミコさんか、久しぶり。
「驚かんのか?」
散々驚かせてきていまさら、です。
「まあ、良い。わしも暇じゃ」
一年前にあれだけ脅かしておいて、何を呑気に。
「現役時代のわしにそんな口をきいたら即、首が胴体と離れとったぞ」
間借り人のくせに。
「ほほ〜。ずいぶんと偉くなったもんじゃな」
御地でしょ?行くけど、何をしに?
「わしもデートがしてみたい」
あなた古代日本史のヒロインでしょうが。男がすなる日記を書きたい、みたいななりすましなど必要ありますか?
「あんな二流作家と比べるなど失礼じゃな」
誰なら一流なんでしょうね。
・・・
と言う理由でやって来ました、御地。いつ以来だろ。
デートなら別にここでなくても良かったんじゃないの?
「もはや落ち着いて話せるのはここぐらいしか知らなくての」
二千年近くも眠ってればそうでしょうね。
「主は何がしたい?」
えらく茫洋とした質問だな。将来ってこと?
「うむ」
千種に聞かれたことも何回かあるけど、まだ分かんないです。正直に。ただ…。
「なんじゃ?」
サナメノツガイ。
「ああ…。優しいの」
そんなつもりでもないんですけど。
「この娘のため?」
一番はそれですし、他に考えても仕方ないのかもしれませんが…。
「主を殺めようとした娘のことか」
彼女は犠牲者じゃないかと思うんですよね。
「うむ…」
ミコさんは沈黙した。そして…やがて
「原因はわし、じゃな」
直接的では決してないですよ。むしろあの構造を作り出した人間の業と言うべきものか…。
「くだらぬものゆえ放っておくこともまた間違うことになる類じゃな」
16歳にはこのくらい答えるのが精一杯です。
「サナメ、か。主たちの世の仕組みがわしは嫌いではない」
どういう仕組みのことですか?
「卒業と言うものが一年半後なのじゃろ?」
は?まあ、そうですが。
「この娘だからできることがある」
それきりミコさんは黙り、俺はミコさんが鬼道を悪用するんではないかとヒヤヒヤしたのだった。




