北玲のすべてを
千紗さんには今晩会えるのだけど、娘さんを心配しているだろうから、やはり早く連絡するに越したことはない。
わたしはそう判断して電話をかけた。
様々な内外のストレスに起因する生理不順…そう担当医の見解を伝えた。検査結果は後日として。
「そう…良かったわ」
おそらく娘の前では見せないであろう嘆息をして、ひとまず千紗さんは安心したようだ。
「担任としてはいかがですか?」
千紗さんはわたしの意見を促す。千種さんとはまだ1年ほどの付き合いでしかない。しかもわたし自身、教育に携わって程ない。およそ母親に言えることなどないはずではあるが…。
「アンバランスですよね」
忌憚ない意見…になるんだろうか。内面などうかがい知る由もないが、それだけ室賀千種と言う少女は不安定に見える。
知性はもちろん優秀。感情は幸平くん絡みで左右されるけど、概して落ち着いている。
そしてあの懐の深さ。
なのに幸平くんが死に瀕して髪を削ぎ落とす様は鬼のようだったと、相原さんからお聞きした。
彼女のイメージではないのだが。
反面それが室賀千種だと言われて納得してしまう自分がいる。
そう。まるで二人の室賀千種がいるようだ。
アンバランス、と千紗さんには表現したけれど。
「中学までは手のかからない…困らせてほしくなるくらい自分の意志を見せない子だったのだけど…」
その評判はわたしも耳にしている。
「幸平くんが初めて高良に来た夜に勝手に家を抜け出して…。そんなこと初めてだったのよ。次の日には自分は幸平くんの嫁みたいな振る舞いで…。ほんと行朝さんが怒り出さなかったのが不思議なくらい」
「幸平くんが怒らないでやってください…なんて顔をするから…。どこでそんな機微を身に着けたのか、それも不思議なんですけど」
それは度々わたしも目にしている。彼もまた、アンバランスと言えるのもしれない。
「娘には、少なくても娘には幸平くんが必要だと思うの。だから結納なんて」
まだ早すぎるはずなんだけど…と千紗さんは続けた。
その結納が依田日向との再会の場を与えてくれた。わたしにとってかけがえのない日になった。
それだけにあの二人はわたしにとってかわりのないものなのだ。勝手にだが、わたしはあの二人が幸せにならなければ自分の人生に嘘を吐くことになる…それくらい重要だと思うのだ。
「詳しいことはまた夜に」
とりあえず急ぎの報告はした。
わたしもそろそろ次のことを考えねばならない。今年は大杉美樹に全敗している。教え子に負けることがこんなに嬉しいことだと知ることができたのは幸いだ。 マリー先生にはそのことをきちんと報告した。
引退は来年。依田玲として生きていくためにもあと1年。
北玲のすべてを今度こそ。
気が付けば2ndも100話目でした。お読みいただきありがとうございます。




