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地獄耳のジャスティーナ 〜音量調節魔法は意外と結構、強いです!?〜  作者: 彩紋銅


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23照れる王子様

 ◆◇◆


「──エル様!?」


 なんで、仮面舞踏会(ここ)にいるんですっ!?


「ザン・フィーバーフューだな?」


 仮面をつけ豪奢な正装を着ているエル様が、私を後ろに庇いながら、ザンと対峙します。


「ふむ、まさか途中参加をするとは。でもまあ、私の目的は果たしましたので、これにて」


「は? ──待て!」


 ザンの姿が、花びらに包まれて消えてしまいました。

 あの花の嵐は、彼の魔法のようですね。


『夜会は予定通り行われますので、どうぞ最後までお楽しみくださいね!』


 そんな言葉を残して……。


「くっそ、また逃した! 魔封じしている暇がなかったんだが!?」


「エル様?」


「あ? えー。ここでは少々目立つな! 場所を移そう!」


 どうしてここにいるんですか? という目で彼を見ると、エル様は慌てて、休憩室の一室へと私を連れて行きます。

 そこには既にパーシーさんがいました。


 誰も見ていないので、仮面は外します。


「ジャス様、大丈夫でしたか!?」


「なんとか大丈夫です。パーシーさんは?」


「僕はなんとも。ジャス様を探しまくっていました。

 ロナルドに応援を頼もうとしたんですが……」


 パーシーさんはエル様を見ます。


「なんでエル様が来たんですか? ロナルドかクライヴが来ると思っていたんですが……」


「クライヴ様がですか?」


「『梟』は人員が少ないので、王太子殿下が協力してくれることになったのです。本人は嫌そうでしたが」


「え、えーと、ジャスがいなくなったと聞いて、いてもたってもいられなかった。

 後でちゃんと怒られるので、許して欲しい!」


「ジャス様のドレスの色と合わせた、正装まで準備していたのに、ですか?

 それあの仕立て屋に、頼んでいたやつっすよね?」


「こ、これは、ちょうど新しい正装が必要だったのだ! ジャスのドレスの色と被ったのは偶然だ! 本当だぞ!!」


「まあ、エル様のことは、後でロナルドに任せるとして……」


「え゛?」


「ジャス様は何があったのですか?」


「それが、私はザンの手によって、人気のないバルコニーへと転移させられていたみたいです。そこである話を聞かされました」


「なんだって!?」


 その時、休憩室のドアが激しくノックされました。


「──なんだ?」


「僕が出ます。お二人はいざという時の為に、逃げる準備を」


「わかりました」


 仮面をつけたパーシーさんが、扉を開けました。


「何か?」


「あ、あの、こちらに、ジャス……いや、紫の髪の女性が来たと思うのだが、会わせて欲しい!」


 この声、ナイジェル様!? どうしてここに!?


「……ここは仮面舞踏会の場です。相手の素性を探るのは、マナー違反ですよ?」


「し、しかし……」


「ちょっと、アンタなにやってんのよ!? その人の言う通りだよ!!」


 女性の声が、ナイジェル様を諌めるのも聞こえます。

 この声、もしかしてミキャエラ嬢でしょうか? 


「ふむ、この声、ジャスの元婚約者か?」


「え、ええ。申し訳ありません」


「ジャスが謝る必要はない。もう関係ない相手だろう? よし、俺がなんとかしてやろう!」


「え? どうするんです?」


 というか、何する気です!?


 エル様は仮面をつけ直し、タイの首元を緩めてから扉に近づきます。

 そして、外のナイジェル様たちに、気怠げに声をかけました。


「……何の騒ぎだ?」


「──申し訳ありません。こちらの方が女性と話をさせろ、と」


 エル様の意図を察したのか、パーシーさんが何も知らない風にエル様に伝えます。


「女? ああ、彼女は既に人前には出られぬ姿でな。用件は俺が聞こう」


 んん? それって、どういう意味です?


「は? え? それは──」


「察しの悪い男だな。これから俺と彼女は、愛し合うのだ。邪魔をするなと言っている……」


 マズイですわ! その言い方だと、私とエル様が、その、()()()()()()をするような感じになってしまいますが!?


 あ、でも、仮面舞踏会なら相手が誰かはわからないのでは?

 紫の髪の女性は貴族にもそこそこいますし……。


 な、なら大丈夫でしょうか?


「そん、な……」


「ちょっと、二人とも! 仕事を放棄して何してるんだい?」


 そこへ、聞いたことのない女性の声が響きます。


「あ、リビー。ごめんなさい、こいつが暴走して……」


 ミキャエル嬢がその声に答えます。

 声の様子から、本当にナイジェル様の暴走だったようですね。


「申し訳ありません。彼の知り合いにお連れの方が似ていたようです。

 何分、失恋したばかりで傷心していたもので……」


「そうか、君にも良い出会いがあることを、願っているよ」


 そこで、エル様によって扉が閉められました。


「……」


「……」


 何だか気まずい沈黙が訪れます。


「あ、あの、エル様……」


 エル様は、なぜかこちらを見ません。


 あら? よく見ると、耳が赤いです。


「エル様?」


 顔を覗き込むと、仮面をしていても分かるくらいに顔が真っ赤になっています!


「え? 大丈夫ですか? 体調が悪いのですか!?」


「いや、その、あんまり見ないでくれ……」


「え?」


「あ〜、大丈夫です。ジャス様。エル様は照れているだけです」


「照れている!?」


 エル様でも照れることがあるのですか!?


「まったく、そういったことに免疫がないくせに、無理するから〜」


「だ、だが、ジャスの婚約者は撃退できたぞ! これでもう、近寄ってくることもあるまい!」


「仮面してたんだから、別人で通しても良かったんじゃないですか?」


「え? ま、まあ平気だろ!」


「でも大丈夫ですか?」


「ん? 何がだジャス?」


「まず、この国で黄緑色の髪色の若い男性は、エル様しかいません」


 貴族や王族には、ですね。平民の方々はわかりませんが。


「そうだな」


「そうなると、エル様が仮面舞踏会で遊んでいた、という噂が広がりませんか?」


「……あ!」


「何で髪色を変えてこなかったんです? そういう魔法具ありましたよね?」


「忘れていた……」


「まったくこの、ポンコツ残念王子は……」


「ぐぬぬ……」


「まあ、エル様は良いんですが──」


「良くないぞ!」


「問題は、ジャス様ですね。エル様のせいで余計な噂が立つかもしれません」


「でも、紫の髪の女性は、貴族にもそこそこいますよね?」


()()()()()()()()()()()()()()()は、ジャス様だけですね……」


「え?」


「元婚約云々はまだしも、会場から二人で消えたというのは、おそらく何らかの噂にはなるかと……」


「……」


 これは……。少し、マズイです?


「だったら、やはり俺と婚約するべきだ!」


「ひぇ!?」


「責任は、取らなければならないからな!!」


 エル様は仮面を外し、私の両手を取って宣言します。


「い、いえ、あの……」


 エル様のキラキラした笑顔が近いです〜!


「それは置いといて──」


 パーシーさんが、私とエル様を引き離します。


「なんで置いておくのだ!」


「話を戻しましょう。ジャス様はザンから、何を聞いたのです?」


「あ、ああ、そうでした」


 何だか色々あって、忘れていました……。


「ザンがおっしゃっていたのは──」


 私は、ザンが話していたことを説明します。


 ターフ子爵が嘘をついていること。

 彼が元婚約者を裏切って、ノーリーン夫人と結婚したこと。そのために仲間と共謀してピエリス子爵家を没落させたことなどです。


 そして、ザンに肉体を提供しているらしい青年がいることなども。


「やはり、ターフ子爵が隠していることが鍵か……」


「没落したというピエリス子爵家についても、もう少し調べたい所ですね。

 ザンに肉体を提供した青年というのも気になりますし……」


 ピエリス子爵は、三年ほど前に貴族籍を返上した家ですね。

 うちとはあまり交流がなかったので、詳しくは知らないのですが……。


「そうだな。しかし、人員が足りないかもしれん……」


「そういえば、特殊調査部隊『梟』の人数は、全部で何人なのですか?」


「正式なメンバーは、俺とロナルドとパーシーとジャスの四人だな!」


「よ、四人ですか!?」


 思ったよりも、めっちゃ少ないですね!?


「現在、メンバー募集中だぞ! 良さげな人物がいたら、スカウトして欲しい!!」


「いましたら、声をかけてみますわ……」


 この組織、大丈夫でしょうか?


「ヒントを得られたのは僥倖だが、ザンに教えてもらったというのは、イラっとするな!」


「エル様は、ザンと知り合いなのですか?」


 ザンも知っていそうな口振りでしたね……。


「あいつ多分、俺の学園時代の同級生だ。認識阻害の魔法を使っているのか、まったく思い出せないがな!」


「ええ!?」


 エル様の交友関係、どうなっているのでしょう?


「あら? でもエル様にも効くのですね、その認識阻害の魔法」


 この国の王族には、毒や呪い、魅了や精神操作系の魔法を無効化する加護があると言われています。


「あいつが使っているのは、王族(俺たち)を害する物ではなく、自分の正体を隠すものだから、俺にも効くらしい。忌々しいことにな!

まあ、魔族が使う魔法は、人間(俺たち)にはよく分からないものも多いからな〜」


「そういうモノなのですね〜」


 こうして、初めての仮面舞踏会は、なんとか終わったのでした──。



 ◆ナイジェル視点◆


「……」


 ナイジェルは、呆然と閉まったドアを見つめていた。


「ナイジェル、もう行こう」


「あ、ああ……」


 ミカに促され、ようやくその場を離れた。


「大丈夫かい?」


「はい……」


 リビーの問いにも、心ここに在らずといった様子で、機械的に答えている。


 その様子に、ミカとリビーは顔を見合わせる。

 これでは、いざという時に使い物にならない。


「ナイジェル。君は先に馬車に戻っていろ」


「……わか、りました」


 ナイジェルは、おぼつかない足取りでリビーの言葉に従う。


 二人は持ち場を離れるわけにも行かないので、それを見送った。


 ◇


 その途中で、ナイジェルはとある人物とぶつかりそうになった。


「あら? ごめんなさいね〜」


 酒に酔っているらしい、若い女性だ。

 ブルーラベンダーの髪色が、ジャスティーナを彷彿とさせる。

 赤いドレスは下品に着崩しており、甘ったるい香水の香りが鼻につく。


「あら? もしかして良い男? 暇なら、あたしと遊ばない? 

 一緒に来るはずだった馴染み客が、急病で来れなくなって暇なのよ〜。遅めにきたから良い感じの男はみんな、相手が決まった後だったしさ〜」


 どうやら、どこかの貴族男性を相手にしている、娼婦のようだ。

 こういった場では、そのような女をパートナーにして参加する男も少なくはない。


「……ああ」


「そう? やった!」


 二人は、別館にある休憩室に向かった。

 会場から少し歩くので、比較的空いている場所だ。

 ミキャエラ達やジャスティーナ達がいるのとは別の建物になる。


 その夜、ナイジェルは乱暴に女を抱いた。

 その身を蝕む絶望を、ほんの一瞬でも忘れるためには、必要な行為だった──。








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