21怪しい紳士との出会い
◆◇◆
そうして、あっという間に仮面舞踏会の日がやってきました。
私は一度登城して、そちらで身支度を整えることになります。
家族には一応、仕事で夜会に潜入するとは伝えてありますが、特に心配されることもなく、頑張れと言われたのでした。何を〜?
「イヤリングは小型の魔動通信機、ペンダントは記録装置。指輪は位置情報がわかる魔動具だ。扇には一応、防犯装置も組み込まれている。危険だと思ったら、使ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
エル様に用意していただいたアクセサリーは、どれも秘密道具味がありますね……。
ドレスも既製品ながらも手が加えられています。ネイビーの生地にキラキラした糸で刺繍が施されているのです。
見る角度や、光の加減によって煌めくので、夜空に散りばめられた星の様です。二週間弱でこの出来は、正直すごいと思うのです。
とても素敵ですが、やっぱりセクシーすぎるんですよね〜。
上にストールを羽織るので、少しは誤魔化せると良いのですが……。
「なあ、パーシー。やっぱり俺と密かに入れ替わらないか?」
「ダメっすよ。エル様と僕は、背の高さも体格も違いますから、すぐバレます」
エル様は最後まで参加する事を、諦めていない様でした。
正直、私と代わって欲しいのですが……。
仮面舞踏会は、パートナーを伴う必要がないので、友人同士で参加しても良いのです。
ちなみに、エル様は長身で筋肉質のガッチリ体型で、パーシーさんは背はエル様より低くほっそりした体型(細マッチョ?)です。
「では、いきましょうか。ジャスティーナ様」
「は、はい」
馬車に乗り込もうとすると、パーシーさんがエスコートしてくれました。
「パーシー、ジャスのことはちゃんと守るんだぞ? だが、手は出すなよ!?」
「はいはい。わかってますよ〜。では行ってきますね〜」
「ジャスは自分の身を守る事を優先して欲しい。パーシーのことは見捨てて構わないからな!」
「え、え〜と? がんばります〜」
そうして馬車は出発しました。
馬車は家紋などのない、黒塗りのやつです。
ちなみに仮面はまだ着けていません。会場についてからつけます。
「ジャス様も大変っすね」
「いえ、皆さんほどではありませんよ」
「しかし、ジャス様は、その、肝が座っていますよね?」
「そうですか?」
「普通の令嬢なら、卒倒しそうな場面でも、えーと、元気ですし。どんな場面でも物怖じしませんよね?」
パーシーさんは何故? と言いたげな目で、こちらを見てきます。
「まあ、そうですね〜。多分、我が家の教育方針のせいですかね〜」
「教育方針?」
「我が家の領地には、魔の森があるのですが──」
我がサルビア伯爵家の領地には、魔の森があります。
ダンジョンが形成されるほど、魔素が強いわけではないのですが、その範囲が広く、定期的に増える魔獣を間引く作業が発生します。
発生する魔獣自体もせいぜい中級くらいの強さなので、冒険者や騎士団に協力要請はせず、領民たちと討伐します。その時に領主である両親や私、妹も参加するのです。
これは、『自分たちの領地の守護は、他人任せにしてはいけない』という家訓ゆえで、我が家に生まれたものは性別を問わずに討伐に参加します。
「──そのせいでしょうか?」
「そ、そんな事を?」
「ええ。討伐した魔獣は自分たちで解体するので、まあ、そういうのにも多少は耐性があるかもです」
そのおかげで、うちの領民たちは老若男女問わず、筋肉質なのです。でも、なぜかサルビア伯爵家は戦闘系の特異魔法が発現する人が少ないので、困りものなんですけどね〜。
妹のルイザみたいに、たまに魔法が得意な人は生まれるんですが……。
でも魔の森のおかげでうちの領地が裕福なので、魔の森には感謝しかありません。
「なるほど。特異魔法については? ご家族の皆さんは〝音〟に関する特異魔法を皆さん、発現されていますよね?」
あら、それも調べ済みですか。まあ、王族の傍で働くなら当然ですけどね。
ちなみに、父とルイザは私と同じく音に関する特異魔法を、母は他者の能力を上げる特異魔法をもっています。
「う〜ん、ご先祖様に神様、あるいは魔族に恩があり、そのおかげで授けられたという、嘘か本当かわからない昔話はきいたことがありますが、よくわかってはいないですね〜」
ちなみにうちの家系の始まりになったご先祖様のお話です。
たぶん、この国の創世神話に倣って作られた作り話だと思いますけどね。
「そうですか……。っと、そろそろ会場に着きそうですね。仮面を準備しておいてください」
「わかりました」
私は白を基準とした仮面。飾りの羽がわさわさしています。
パーシーさんは、カーキグリーンの仮面。ちなみに服装は黒を基準とした、ごく一般的な正装です。
ザンの夜会会場は、その時によって変わります。
今回は西部第二翼区にあった、とあるお屋敷が会場となっていました。
元は買い手のいない廃墟だったらしいのですが、現在は煌びやかな夜会会場へと様変わりしています。
しかし、夜会が終わると元の廃墟に戻るというのです。そして、彼(彼女)にはこちらから接触することはできないそうで……。
故に、ザンという人物を国は捕まえることができないのです。
おそらく、魔法の類を使っているらしいのですが、よくわかっていません。だとすると、相当な魔法使いということになります。
「さあ、いきますよ」
「はい」
仮面をつけて、いざ会場へ。
◇
仮面舞踏会には初めて参加しましたが、なんとも不思議な感じですね。
当たり前ですが皆さん仮面をかぶっていますし、大道芸人や謎の生き物(魔獣?)の見世物や曲芸、奇術師などが来場客を楽しませています。
この辺りは通常の夜会と違うところですね。
でもそれ以外は、そこまで変わったところはありません。
軽食も充実してますし、メインホールではダンスを楽しんでいる方々もいます。
ただ、時折男女でどこかへ消えていく方もいます。それは、そういうことなのでしょう……。
ちなみに、開始時間よりも少し遅く来ているので、会場は既に温まっています。
「さて、当たり前ですが、皆さん仮面をつけていますから、誰が誰やらといった感じですね」
と、パーシーさん。
「そうですね……」
「とりあえず、周りを探って……おや?」
「これは……」
その時、天井から花びらが降ってきました。
手を伸ばしてみますが、触れる前に消えるので、魔法を使った演出の様です。
「あら? 今日は変わった演出ね」
「幻想的だが、視界が少し悪いな……」
そんな会話が周りから聞こえます。
いつもある演出ではないのでしょうか?
「……この花びら、ちょっと邪魔ですね」
「そうですね。仮面しているから余計に……。わわっ!?」
その時、吹雪の様に花びらが舞い出しました。
「気をつけてください、ジャス様」
「はい! でも、これって……」
なんだか、私たちの周りだけ花びらが多いような?
「ジャス様!?」
「パーシーさん!」
そして、花びらは私たちの視界を完全に覆い尽し──。
「──っ!?」
花の嵐が去り、気づけば私は、別の場所に立っていました。
「え? ここは……」
どこかのバルコニーの様です。
人気はありませんが、おしゃれなガーデン家具が置かれており、テーブルの上には火が灯ったキャンドルがいくつか置かれています。
少し遠くで、仮面舞踏会で奏でられている音楽や人々の喧騒も聞こえるので、どうやら会場内の別の場所の様です。
とりあえず、特異魔法で辺りを探ってみる事にします。
『今の花びらの演出すごかったわね。もう終わりなのかしら?』
『綺麗なルージュですね。とても情熱的だ……』
『もしよかったら、一晩わたくしと……』
『お嬢様、その人はやめたほうがいいですね……』
『ああ、なんて素敵な方……』
『今宵だけは、あなたの恋人です……』
こういった場なので、そういう会話が多いですね……。
「今宵の夜会は、お楽しみいただいておりますかな?」
「うわっ?」
すぐ近くから声をかけられて、私は急いで聞き耳を中断し、その人を確認します。
目の前にいたのは、燕尾服に身を包んだ男性です。
シルクハットをかぶっており、目元には黒い仮面をつけています。
声の感じからして、若い男性のようですが……。
「……あなたは?」
いつの間に? こんな場所にいるなんて、怪しいです!
「これはこれは。申し遅れました、私、ザン・フィーバーフューと申します」
「え? あなたが!?」
この仮面舞踏会の主催者じゃないですか! いきなり、大物が目の前にいるんですけど!?
マズイですわ! パーシーさんに連絡を……。
「おっと、失礼」
「──!?」
通信機に伸ばそうとした手を、ザンに掴まれてしまいます。
「せっかく二人きりになったのに、無粋なことはしてはいけません」
「……私をここに連れてきたのは貴方ですか?」
転移魔法でしょうか?
「そうです。貴女と話がしたかったので」
「私と?」
「それが彼の最後の望みでした」
彼とは誰のことでしょう?
「一体何を? どうして私を?」
「……あなた方は『崩壊病』について調べていますね?」
「良く、ご存知ですね」
「ベンジャミン・ターフ子爵は、嘘を言っています」
「それは、知っています」
「え? ……そ、そうですか」
あら? 今の返し、間違えましたか?
「ンンッ、彼は元婚約者を裏切って、現在の妻と浮気をした。彼女と結婚するために、仲間と共謀してピエリス子爵家を没落させたそうです」
「なんですって?」
「そのために、色々と酷い事もしたそうだ。調べてみてください」
「なぜ、それを──」
「貴方が一番話しやすかったからですよ。それに、私に肉体を提供してくれた青年の無念を、誰かに知ってもらいたかったのです」
「それは……」
ピエリス子爵の関係者、でしょうか?
「さて、せっかくの舞踏会です。踊りましょうか!」
「え? あの!?」
急展開です!
彼に手を引かれたまま、再び花の嵐に包まれます。
そして気がつくと、ダンスが行われているメインホールに立っていました。
正面にはザンがいます。
え? 本当にダンスを踊る感じですか? ダンスは少々苦手なのですが……。
「おや? ダンスは苦手ですか?」
「は、はい……」
「では、私に身を委ねてください」
「……」
音楽が始まってしまったので、仕方なく従います。まだ何か、情報を得られるかもしれませんし……。
「……黄緑ヒヨコ王子は来ていないのですね? せっかく招待状を出したというのに」
き、黄緑ヒヨコ王子……。エル様のことでしょうか?
「え、えーと、エルドレッド殿下でしたら、諸事情で……」
「ああ、大治療院の事ですね? 謹慎ですか? まったく、昔から全く変わっていない。そして、タイミングが悪い……」
当たり前の様に知っていますね。エル様とは知り合いなのでしょうか?
「それで? 彼と婚約するのですか?」
「え?」
「彼に、熱烈なアプローチを受けていたでしょう?」
そこまで知っているのですか!?
「それは、まだわかりませんが……」
「では、もし彼の求婚を断るなら、私と婚約しませんか?」
「え?」
謎のモテ期、到来ですか?
でも、微妙に嬉しくないのはなぜでしょう……。
「彼も私も、貴方を気に入りましたので、この肉体が滅びるまでの間は、一緒にいても良いかなと思うのです」
「……ご冗談を」
「冗談ではありません。貴方と深い仲になれば、彼の面白い姿が見られるかもしれませんしね!」
多分、こっちが目的ですね……。
曲の終わりが近づきます。
「さて、そろそろ彼に返しましょう」
「彼?」
「ジャス!」
ザンから離れた手を、その人がとります。
黄緑色の若葉の様な髪色の……。
「──エル様?」
なんでいるんです──っ!?
★おまけ★
『──そうですか……。っと、そろそろ会場に着きそうですね。仮面を準備しておいてください』
『わかりました』
「ぐぬぬ、パーシーの奴、ジャスと仲良くお喋りしてやがる……」
エルドレッドは、ジャスティーナに持たせた魔道具を通じて、二人の会話を盗み聞きしている。
こちらの会話は、向こうへは聞こえていない。
「エルドレッド様、盗み聞きしいないで、早く報告書まとめてください」
「盗み聞きだなんて、人聞きの悪い事を言うな! 何かあった時のために、警戒しているのだ!!」
「はいはい」
◇
花びらの嵐で慌てるジャスティーナとパーシー。
『ジャス様!?』
『パーシーさん!』
「ジャス!? 何があった!?」
「……通信が、途絶えましたね」
「〜〜っ」
「エルドレッド様?」
エルドレッドは、どこかへ行ってしまう。
しかし、すぐに戻ってきた。
「俺が、ジャスの救援に向かう!」
「エ、エルドレッド様、何を言っているんですか!? それに、その格好は!?」
エルドレッドはネイビーの正装に身を包み、白い仮面をつけていた。
それはまるで、ジャスティーナのドレスと色を合わせたようで──。
「では行ってくる!」
「は? ちょっ、待っ……」
こうして、エルドレッドは仮面舞踏会へと向かった。
「はあぁ!? 何考えてんだ、あの残念王子!!」
ロナルドの声が、王城に響いた。




