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地獄耳のジャスティーナ 〜音量調節魔法は意外と結構、強いです!?〜  作者: 彩紋銅


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20/33

20圧がすごい仕立て屋さん

 ◆◇◆


「こちらなんていかがです?」


「え、えーと……」


 翌日の午後、私は潜入用のドレスを選ぶため、エル様とパーシーさんに同行して、街の仕立屋を訪れていました。

 王宮に呼ぶのは憚られるので、お店の方に見に来た形です。


「何があるか、わからないからな。動きやすいドレスがいいだろう」


 というエル様の意見で、最近流行っているパニエを使わないドレスを主に選んでいます。選んでいるのですが……。


「マーメイドライン? ああ、確かにそれっぽいシルエットかもしれんな」


「でも、動きやすくはなさそうっすよね?」


「だな〜」


「では、こちらはいかがです?」


 女性店主が次のドレスを見せてくれます。


 ちなみに色はネイビーにしてもらいました。少しでも目立たないようにするための、ささやかな抵抗です!


「ドレスの裾が短いっすね」


「動きやすそうではあるが、足を見せすぎではないか?」


「最近はこういったドレスも、人気なんですよ〜」


 らしいですね。正式な場ではまだまだ認められてはいませんけど、特に学園生や平民の方々に人気らしいです。


「こういったものもありますね〜」


 次に店主が持ってきたのは、一見するとシンプルなマーメイドラインのシルエットですが、裾が足首(アンクル)丈で、左側に膝くらいまでの、スリットが入っています。


「おお、これなら良いのではないか?」


「ええ、いざという時は動きやすそうっすね!」


「では、試着してみましょう!」


「え? あ、あの……」


「さあさあ、どうぞどうぞ!」


 こ、この店主、圧がすごすぎます!


 こうして押し切られるまま、ドレスの試着をすることになりました。


「あら、お客様とても肌が綺麗ですね!」


「恐縮です……」


「それにとてもメリハリのある体! 絶対に似合いますわ!!」


「ちょ、大声でそう言うのは〜!」


 どんなにダイエットしても、胸と腰回りにどうしてもお肉がついてしまう体質なんです〜。

 普段は着痩せして見える服を選んで着ているので、目立たないんですけどね〜。


 うちの家訓で、ダイエットは運動してやせろと言うものがあります。なので食事制限禁止というのも原因かもしれません〜。


「さあ、完成しました。鏡で確認してください!」


「は、はあ……」


 鏡に映った私は、自分でも驚くほど体のラインがはっきり出ていました。

 上はショールかストールでも羽織れば大丈夫そう? 下はまあ、動きやすいのは確かです。恥ずかしさに目を瞑ればね!


 あ、でも仮面舞踏会だから、仮面してしまえばなんとかなります? むしろこのくらいの方が丁度いい?


「さあ、お連れの方にも見せて差し上げましょう!」


「え? 流石にそれは……。え? ──ちょっ!」


 この店主、なぜか逆らえない凄みがありますっ!?


「さあ、どうですか?」


「……」


「……」


 エル様とパーシーさんの視線が集中して、とても居心地が悪いです。


 というか、無言はやめていただきたい!


「あ、あの……」


「さあ、お二人とも、見惚れていないで、感想をお願いします!」


 店主の言葉にハッとするお二人。


「あ、ああ、とても似合うと思うっすよ?」


「うん。とてもセクシーで、エロい! 綺麗だ!」


「エル様、語彙力が死んでますよ。でもジャス様、本当に良くお似合いっす」


「ありがとうございます?」


 まあ、好評なら良いのでしょうか?


「では、こちらをベースにできる限り、手を加えさせてもらいますね〜」


「ああ、頼む」


 こうして、ドレス選びは完了ですね。早く着替えたいです……。


「あとは靴と、アクセサリーですね!」


「あ、イヤリングやペンダント、扇子はこちらで準備するから、それ以外の装飾品を頼む」


 あ、まだ着替えることは、できないみたいです……。


 ◇


 というわけで、お買い物は終了。

 ドレスは後ほど届けてくれるそうです。


 空が茜色に染まってきているので、結構な時間がかかってしまいました。


「今日はこのまま送っていこう」


「ありがとうございます」


 馬車に揺られていると、ふと違和感に気づきます。

 今日はエル様が、なんだかおとなしいです。

 あと、いつもは対面に座るのに、隣に座っています。


「──やっぱり、俺がジャスと一緒に舞踏会に出たかった」


「え? ど、どういう意味ですか?」


「そのままの意味だよ。ジャスが美人でスタイルが良くて、仕事ができる女性だって事は、俺だけが知っていれば良かったんだ……」


 そういって、私の髪を一房、手に取るのです。


「え? え?」


 そういったことに免疫のない私は、何も言うことができません。

 っていうか、顔が熱いです。絶対真っ赤になっています! 火を吹きそうです!!


「ん? 照れてる? かわいいなぁ!」


「〜〜〜〜っ」


 な、なんなんです? 冗談!?


「あの〜、そういうのは、二人きりの時にやってください」


「──っ!」


 そういえば、パーシーさんもいたのでした。

 助かりましたわ……。


「ん? いたのか、パーシー」


「ずっといましたよね?」


「こういう時は、気を遣って気配を消すものだ」


「婚約者でない男女が親しくしているのは、ダメでしょう」


「え? エル様婚約者いないのですか?」


 意外です。

 公爵家や王族は、今でも幼い頃から婚約者がいるものだと思っていました。


「ああ、アンブローズが結婚するまでは、作らないつもり()()()


「なんて言っていますけど、立場が微妙でモテないだけですけどね。あと中身が残念で……」


「パーシー、余計なことを言うんじゃない! 中身が残念ってそう言う意味だ!?」


「そのままの意味っすね〜」


「なんだと!?」


 確かに、エル様はちょっと残念な方ですね〜。

 夜会で出会った時は、猫をかぶっていたのですね〜。


「あれ? でも昔は婚約者いませんでしたっけ?」


「いたこともあったが、俺が王太子にならないと知ったら、向こうから断ってきた。

 まあ、権力目当てだったんだろ? 相手からも嫌われていたし。それ以降はいないな!」


「そうなんですね……」


 確かに昔、そんな話を聞いた事があります。


 相手は確か、パトリス・ペスカ様。

 ペスカ公爵家のご令嬢ですね。私と違って、正真正銘の淑女です。

 王位継承権問題で王家が揉めた時に、婚約が解消されたということでしょうか。だとすると、確かに五〜六年ほど前ですね。


 でも、パトリス様も確か、つい最近まで婚約者がいなかったような?


 これ、実はパトリス様はエル様のことが好きだったけど、家の方針に逆らえず的な悲恋のやつでは?

 ちょっと、興味ありますね。

 今度、調べてみましょう! ワクワクですわ〜。


「だからって、婚約者でもない男女がいちゃつくのはくないですよ?」


「ふむ、だったら、婚約してしまうか!」


 ……ん? なにか、不穏な言葉が聞こえましたね。気のせいでしょうか?


「ジャスティーナ、俺と婚約しよう!」


「は!? なんでそうなったんです!?」


 本当に、なんでっ!?


「俺は、ジャスとイチャイチャしたい!」


「で、でしたら、恋人でも作ってはいかが?」


「恋人は別れるかもしれない」


「婚約しても、別れる時は別れますけど?」


 現に私は、ナイジェル様とは別れましたしね!


「でも、書類上は俺のものだ!」


「書類上だけですわね?」


「し、しかし……」


 あ、捨てられた狼モードはやめてくださいね!?

 断れなくなるんで!


「あ〜、そろそろジャス様の邸宅に着きますので、話はその辺で。そういう話は後日しましょう」


「え〜? 仕方がないな……」


「ですね」


 助かりましたわ〜。


「ジャス、婚約の事は事件が落ち着いたら、また話し合おう! 逃げるんじゃあないぞ!」


 そう言って、エル様は去っていきました。


 ……婚約の話し合いに関して、ですよね?


 まあ、私とエル様では釣り合いが取れないですし、どうせ有耶無耶になるでしょう。


 あら? でも、アンブローズ殿下よりも権力を持たないという意味では、我が家は悪くないのでは? 

 アンブローズ殿下の婚約者は公爵家の方ですし。

 我が家は中立、経済的にも歴史的にも問題はありません……。


 いや、もし本当に婚約となったら、パトリス様に睨まれそうですし、そもそもわたしにエル様を制御するような気概はありませんわ……。

 側から見ていると、楽しい方ではあるんですけどね〜。顔も良いですし。


 なんて、ありえないことを考えていても仕方がないですね。

 今は、どうやって仮面舞踏会を乗り切るかを考えましょう。


 何事もなければ良いのですが……。



 ◆パーシー視点◆


「……で? どこまで本気なんです?」


「何がだ?」


 ジャスティーナを送り届けたあと、二人になった馬車内でパーシーは、自分の主に問いかけた。


「ジャス様の事ですよ。婚約したいとか言っていましたが?」


「本気だぞ! 俺はジャスのことが好きだ!!」


「……珍獣的な意味で?」


「パーシー、失礼なことを言うんじゃない」


「すみませんっす。じゃあ、その、本気で? 恋愛的な意味で?」


「もちろんだ。一目惚れってやつだな!」


「へぇ〜」


 ジト目になるパーシー。


「パーシー信じていないな?」


「はいはい。明日も仕事ですから、頑張りましょうね〜」


「お前、絶対信じてないだろ……? まあ良いけど!」


 窓の外に目をやると、見知った街並みが流れていく。

 すっかり日が暮れ、街灯の明かりが道を照らしていた。


(一目惚れは本当なんだが……)


 ふと、昔を思い出す。

 久しぶりに会った彼女は、以前にも増して美しくなっていた。

 果たして自分は、それに釣り合いが取れる男になっているのだろうか?


 それを確かめるためにも──。


「なあ、やっぱり仮面舞踏会は、俺が……」


「ダメです」


 ダメだった。








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