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地獄耳のジャスティーナ 〜音量調節魔法は意外と結構、強いです!?〜  作者: 彩紋銅


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18/33

18五人目の罹患者天窓をぶち破った王子様

 ◆◇◆


 ターフ子爵とイーモン様のお宅を訪問してから五日後、事態は最悪な方向へと進んでしまいました。


 残念なことに、その間にイーモン・ファーン男爵子息が亡くなり、そして、新たに『崩壊病』の罹患者が出てしまったのです。

 イーモン様の遺体もかなり酷い状態だったらしく、早々に火葬されてしまい、検視することは不可能でした。


 そして新たな罹患者は現在、枢機翼区の大治療院に入院しているとのことです。


 また、エディくん家から預かったミックさんに宛てられた手紙ですが、魔力鑑定などをしましたが、特に証拠になりそうなものは出ず、使用された紙もインクも、ごく一般的に流通しているものでした。

 そちらはパーシーさんが、職場での関係をもう一度洗い直しているそうです。


 魔法師団の方で、呪いについては調べているのですが、もしこれが誰かの命を利用して行われた呪いなら、解呪は不可能とのことです……。


 ちなみに私はその間、エル様やロナルド様のお仕事をお手伝いしていました。学園やお父様に教えていただいた書類作成に関する知識が、こんなところで生かされたのは僥倖でした。


「新たな罹患者はダニー・モス。モス男爵家の次男だな」


 執務室に集まった面々に向けて、エル様が告げます。


 ダニー・モスと言えば……。


「ベンジャミン・ターフ子爵の友人、ですね?」


 と、ロナルド様。


「ああ。どうやら、ターフ子爵が何か知っているのは確実だな」


 ターフ子爵の奥様ノーリーン夫人は、彼が昔婚約していた方が、恨んでいるのでは? と言っていましたが、それだと平民のミックさんとティモシーさんが同じ病に罹患したのがちょっとわからないのですよね……。

 ミックさんは脅されていた様ですし。

 それに元婚約者は、すでに亡くなっているそうですし。


 ……まさか本当に死者の呪い?


「今回は俺と、ロナルド。それにジャスを連れて行こうと思う。パーシーは引き続き、ミック・サプリングの方を頼む」


「わかりました」


「了解っす」


「ジャスもいいか?」


「はい」


 こうして、私たちは枢機翼区の治療院へと向かいました。


 ◇


  枢機翼区は、王城を含む王都の中心部です。

 王城を中心に、神殿や貴族院、魔法師団や騎士団の本部、この国で最も蔵書がある王立図書館などがあります。

 そして、大治療院も。

 それらが、東部、西部、南部、北部の枢機翼区に分布しています。


「さて、ここか」


 大治療院は北部の枢機翼区にあります。

 王城からは馬車で十分程度。実は歩いた方が早かったりしますが、エル様も一応王族なので、仕方がないのです。


 事前に先触れを出していたため、面会はすんなりと行うことができました。


「失礼する。ダニー・モスだな? 話を聞きたい」


 病室は、入院棟の四階(最上階)の個室でした。貴族向けの上等な部屋です。


「あ、あなたたちは……」


 ベッドの上のダニー・モス男爵子息が力無く応答します。

 茶髪に青い目の、軽薄そうな男性ですね。


「特殊調査部隊『梟』のものだ。俺はエル。こっちはロナルドとジャス。俺の部下だ」


 エル様が紹介してくれたので、私とロナルド様は頭を下げる。


「そういえば、噂で聞いたな。第一王子の道楽で新組織を作ったって」


 あら? 随分な言い様ですね。自暴自棄になっているのでしょうか?


「その道楽で国が良い方向に向かえるのなら、良いのではないか?」


「まあ、そうですね……」


「それで、何があった?」


 ダニー・モス男爵子息によると、数日前から左手の指先が黒ずみ始め、そして真っ黒になったかと思ったら、グズグスになって崩れ落ちたということです。


「……何か心当たりはあるか?」


「心当たり?」


「誰かに恨みを買ったとか、そういう類のことだ」


「恨み、恨みか……。それなら、オレたち三人はいろんなところで買ってますよ……」


「何?」


「ベンジャミン・ターフとイーモン・ファーン。そしてオレは領地が隣同士位だったということもあり、子供の頃からつるんでいました。

 どの家も領地が裕福で金がありましたからね。


 貴族学園もさっさと通って卒業したので、時間もあった。しかし、後継ぎというわけでもなく、なりたいものもなかったので、暇を持て余していました。

 まあ、ベンジャミンはターフ家の後継でしたけど、他に兄弟がいないので余裕があったみたいです。


 そうなると酒と、賭博と、女に溺れるワケです。まあ、そういった各方面で、恨みは買っているんじゃないですかね? 

 金銭や酒のトラブルも起こしたし、女を無理やりなんてこともありました……」


 う〜ん、控えめに言ってクズですね。

 人は、お金と時間に余裕があると、ろくなことをしないというのは世の常です。


「お前たちがしたことで、最も業が深いことは?」


「業? ……そりゃぁ、ベンジャミンの──ゴボッ!?」


「おい、どうした?」


 突然、ダニー・モス男爵子息が激しく咳き込み、赤黒い血を吐き出しました。

 それも、尋常ではない量です。


「──っ、治療師を呼べっ!」


 待機していた治療師がすぐに駆けつけ、処置をし始めます。

 私たちはその間、病室から出ることになり、別室で待たせてもらうことになりました。


 しかしその後、懸命な治療も虚しく、ダニー・モスは息を引き取ってしまいます……。

 どうやら、肺や心臓の組織が崩壊し、死に至ったようです。

 そもそも、回復魔法が全く作用していなかったとのこと……。


「……馬鹿な、早すぎる!」


「そう、ですね……」


 確かに、これまでの罹患者とは状況が違います。

 これは、明らかに口封じです。


 ということは、私たちの会話をどこかで聞いていた?


 私は、自分の特異魔法を発動させ、周りの音を探り始めました。


『なんということだ、肺と心臓がごっそり溶けてしまっている……』


『あーくそ、治療院なのに、なんで入院なんて……』


『──の患者さん、そろそろ薬の時間ね』


『──ギリギリ術が発動しました、危なかったです。助かりました』


「──っ!」


 これは、この会話は……。


『多少、不自然になってしまいましたが、後一人、確実に始末したいので、仕方ありません。本当は二人なのですが、最後の一人は、まあ、余裕があれば……。

 はい、大丈夫です、()()()()


 この距離感……、まだ院内にいますね。

 場所は……。


「ジャス? どうした?」


「……エル様、まだこの院内に、術者がいます」


「何?」


「誰かと会話している声が聞こえました。場所は──」


 人々の話し声、足音。何か買い物をしている人が周りにいる?

 時計が、時間を知らせている音がする。時刻は正午。

 たしか、大治療院のエントランスには庭園があり、そこに花時計があったはず。それが時刻を知らせているのでしょう。

 その音は、ここより近い。

 次の患者を呼ぶ声──。


 ああ、ここは……。


 私はその音の方向を見る。


「──あそこです」


 私はその場所を指差しました。


 部屋の窓から見えるその場所は、大治療院の入院病棟のすぐ隣にある、診察棟。主に外来の患者を診る場所です。

 二階建ての吹き抜けになっており、売店やレストランなどもあったはず。つまり、一般人がいても怪しまれない場所です。


 私たちのいる四階からは、診察棟の屋根部分が見えます。明かり取りのためか、一部が天窓になっています。


「エル様、すぐに診察棟を封鎖させます!」


 と、ロナルド様。魔動通信機(マギリンク)でどこかに連絡をとりつつ、部屋を出ていきました。

 ちなみに、魔動通信機は基本的に、折りたたみ式のコンパクトミラーの様な形状をしています。折り畳んだ状態でも通話が可能です。


「頼む。俺たちはその術者を追う!」


「え? ですが……」


 どうするのですか?


「大丈夫だ。俺は強い! ジャス、詳しい場所はわかるか?」


「は、はい!」


 あら? なぜかエル様は窓を開けています。


「ジャス! 来い!!」


「はい!?」


 思わずエル様の手を取ると、そのまま引き寄せられ、横抱きにされます。


「え? え? あの!?」


「しっかり、捕まっていてくれ!」


 そのまま、エル様は窓から飛び降りました。


 ちょっ!? ここ四階なんですけど──っ!?



 ◆???視点◆


「!」


 わずかな魔力の揺らぎを感じて、私は辺りの様子を伺った。


『どうしました?』


「いえ、何か様子がおかしいです。……切りますね」


『わかりました』


「おそらくですが、これが最後の連絡となるでしょう」


『……そうですか。ご武運を』


 通話を切り、魔動通信機(マギ・リンク)に魔力を過剰に流して破壊する。


 施設の防護壁が働いている? まさか私のことがバレたのか!? いや、一体どこで? そんな隙はなかった筈だ……。


 私は壊れた魔動通信機を近くのゴミ箱に捨て、その場を立ち去ろうとした。

 その時、派手な音が辺りに響く。


「──っ!?」


 思わず足が止まる。

 何事かと思い、あたりを見回すと少し離れた場所に、女性を横抱きにしている男性。

 その周りにパラパラと降り注ぐ、煌めく金の、羽根──?

 彼らが天窓を突き破ったのであり、周りに降っているのが、そのガラス片だと気づくのに数秒かかる。


 同時に、男女の話し声。


「エ、エル様、なんて無茶を……」


「防御壁を周りに張ったから、怪我はないぞ?」


「そういう問題では、ありません!」


 女を横抱きにしている男が、割れたガラスを踏みしめながら、少し影になっている場所へと進む。


 そして気づく、黄緑の髪……。


(エルドレッド第一王子!?)


 思ってもみなかった人物の登場に、私は内心慌ててしまう。


 不味いと思ったが、突然天窓を突き破ってきた彼らに驚く人間は、他にもいるので不審に思われることはないだろう。


「それでどいつだ?」


「そうですね……」


 エルドレッド殿下が、女をおろして何かを聞いている。


 女は周りを見回した後、私に目を止めた──。








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