17会いたくなかった相手と冒険者の先輩②【ミキャエラ視点】
◇◆◇
「さて、改めて自己紹介ね。アタシはリビー。B級冒険者だ。主に魔法による攻撃と支援が得意ね」
「わたしはミカです。最近、冒険者になりましたので、ランクはDです。武器はメイス。肉体強化の魔法との併用で戦う予定です」
メイスは頭部に金属の球や棘が付いた打撃武器のことだ。
ファンタジー作品だと、よく聖職者が使っているイメージね。
「意外な武器チョイスね」
「そうですか? 剣や弓はある程度技術が必要だし、魔法もまだまだ修行中。でも打撃武器なら、素人でも扱い易いと思いまして。手入れも他と比べて楽ですし」
ゲームでも主人公の主要武器だったわ。
もっと魔法が使える様になったら、魔法中心の戦闘スタイルにする予定だけど。
「まあ、そう考えてみると、悪くはないのかな?」
「ミキャエル、名前を変えたのか?」
「ちょっと、わかっているなら言わないでもらえる?
あんなことがあったら、普通変えるでしょう? これからはミカって、呼んで!」
「ご、ごめん……」
「じゃあ、君も自己紹介してくれる?」
「あ、ああ。私はナイジェル。その、ただのナイジェルだ。
ついさっき、冒険者登録をしたばかりだ。
戦闘スタイル等は、まだ決めていない。剣や魔法は嗜んでいたので、そのあたりでいこうと思っている」
「なるほど〜。二人とも元貴族?」
「え?」
「わかるのか?」
「まあね〜、所作とかでね〜。アタシもそうだからさ、ほっとけなかったのよ〜」
そう言って、リビーはジョッキのエールを一口飲んだ。
「そうなんですね……」
私も、エールを飲む。
前世のビールに似た味わいだ。いや、それよりフルーティ? まあ、どちらにしてもしろ温いけど。アルコール度数は高くはないな。
「うぐっ」
ナイジェルは初めて飲んだらしい。まあ、上級貴族だしね。温い酒なんて飲まないのかもね。
「何らかの理由で、貴族から冒険者になるなんて珍しくはないよ。冒険者になる資格なんて別にないし、手っ取り早く稼げるからね」
「……」
「でも、長く生きていたいなら、心構えは変えた方がいいね。実力もないのに、高価な装備だけつけていては、餌巻きつけて魔獣の巣に突入する様なものだ」
「はい……」
「はい、おまちどうさん」
頼んでいた料理が来た。
ピザやら、サラダやら、肉の盛り合わせやら。
意外にもこの世界、前世の日本と変わらない料理が多い。
サンドイッチやハンバーグもあるから、私以外にも転生者がいたのかもしれない。
「でもまずは、食事だね」
というわけで、食べ始める。
わたしはこういった食事に抵抗はないけど、ナイジェルは……。
「……」
戸惑ってはいるけど、文句はないらしい。
カトラリーもちゃんとあるしね。
……意外とコイツ、適応能力高いのかしら?
◇
「さて、それでどうする?」
食事が終わり、リビーが再び聞いた。
「実家から縁を切られた君たち二人を、どうにかして金を得なければならないほど、アタシは困っていない。
元・貴族同士というだけで後輩を導こうとしているだけなんだが、信じられないのなら仕方がないな」
「……」
「ミキャ……いや、ミカ、どうする?」
何でコイツ、わたしにお伺いを立ててくるのかしら?
言っとくけど、わたしアンタの仲間じゃないからね?
……まあ、いいわ。
コイツはどうでもいいけど、リビーには興味がある。
助けてくれるというのなら、その手に縋りたい。
「わたしたちを助けてほしいです。リビー」
「私からもお願いする!」
「わかった」
そう言ってリビーはにっこりと笑った。
◇
「ここが、アタシのおすすめの防具の店だよ。防具が専門だけど、武器も少しは置いてある。買取もしてくれるよ」
リビーに案内されたのは、少し路地に入ったところにある防具屋だった。
ちょっと、身構えてしまう店構えだ。
中に入ると、いかついおっさんが出迎える。スキンヘッドなのに頭に二箇所、わさわさの髪が残っている。
店内は意外にも綺麗。
防具などを整備するための、油か薬剤の匂いがする。
「よう、ミッキー元気?」
「リビーか、今日は何だ?」
ミッキー!? それ本名!?
その髪型で、その名前は大丈夫なのっ!?
でも、ここは異世界だから、わたしは何も言えないわ!!
「後輩達に相応しい防具を選んで欲しい。新米なのにこんな高価な防具つけてると、カツアゲに遭うからさ」
「ほう」
色んな意味で強そうな名前の店主が、こちらをギロリと見る。
「ど、どうも……」
「よろしく……」
「二人とも防具が必要か?」
「いえ、わたしは大丈夫です。彼だけお願いします」
ちなみに、わたしは機動力を重視して、上半身はハーフプレートアーマーを着用し、それに防御の魔術が縫い込まれたマントをつけている。
下半身は革の防具と伸縮するレギンス。ズボンもいいけど、動きやすさ重視でこれにした。
メイン武器はフランジドメイスを両手に装備。
防御捨てまくってる脳筋装備だけど、肉体強化と回復魔法の合わせ技で何とかなる。
というか、ゲームでも、初期の効率のいい装備だったりする。
魔法もなぜか光属性の回復、防御、肉体強化の三つの魔法は、最初から使えたし。わたしも使える。
そういえば、ゲームだとナイジェルは槍と弓が最適武器だったわね。
コイツ、中遠距離武器が得意ってことね。
ちなみに、ナイジェルが使用できる魔法の属性は水。
「コイツでいいだろう」
ナイジェルは元の装備から、店主のミッキーが選んだ装備に変えた。
こちらは動きやすいレザーアーマーと、わたしと同じ防御の魔術が縫い込まれたマント(色違い)を着用し、いかにも初心者っぽい見た目になった。
「元の装備は、買い取るってことでいいか?」
「あ、ああ。頼む」
「じゃあ、これが今来ている装備分を抜いた差額な」
「ありがとう」
「あとは武器ね。ナイジェルは剣でいいのか?」
「そう思ってはいるが……」
「いや、アンタは弓か槍がいいと思うわ」
「え? しかし……」
「あ、別にわたしの意見に従う必要はないけどね」
って、何で、わたしコイツにアドバイスしてんのかしら……。
別に仲間じゃないのにね。
「そうか、ミキャ……いや、ミカがそう言うのならそうしよう」
「うん。ミカが接近戦に特化しているなら、ナイジェルはその方がバランスはいいね」
「いえ、彼とパーティーを組む気はありませんけど」
「ミカ!?」
「そうなのかい? ずいぶん親そうだけど?」
「コイツは元彼みたいなものです。気にしないでください」
「そ、そんな……」
「あっはは! わかった、わかった。複雑な事情があるんだね! でもまあ、D級抜けるまでは、我慢しなよ。アタシが二人の面倒を見たいからね」
「それは、まあ……」
何も伝手がない状態で、リビーと知り合えたのは幸運だから、そこは全力でお世話になるしかないんだけど。
……仕方ない。ナイジェルのことは我慢するか。
こうして、わたしとナイジェル、そしてリビーはパーティーを組むことになった。
その後、ナイジェルは武器に弓を選択した。
リビーおすすめの武器屋に移動し、試しに槍と弓を使ってみたところ、本当にそれらの武器に適性があることがわかった。
コイツは、狙った場所を突いたり射抜いたりするのが、得意らしい。本人も驚いていた。
まあ、貴族学園じゃ剣術しか授業にないし、槍や弓を学ぶ機会はないかもね。
資金に余裕があったため、武器はそこそこ良いものを選んだ様だ。
特に矢筒は、収納魔法を応用しており、通常の倍くらい矢をストックできるらしい。
この日はこれで終了。
明日は、三人で討伐系の任務を受けることになった。
三人で同じ宿屋に宿泊。もちろん部屋は別ね。
冒険者向けの安宿に、ナイジェルが色々騒いでいたけど、割愛。
◆
「リビー、そこ!」
「はい!」
わたしは、自分に突進してくる鹿みたいな魔獣をメイスで殴る。ちなみに、両手にメイススタイルね。
肉体強化の魔法を使っているので、面白い様に魔獣が吹っ飛んだ。
「ナイジェルは、自分に向かってくる魔獣だけを狙って撃って! 二人とも、防御魔法かけてるから、突進されてもほぼダメージないから安心して!」
「わかりました!」
後方では、ナイジェルが必死に矢を撃っている様子が伝わってくる。
次の日、私たちは三人で討伐系の依頼を受ける事になった。
内容は増えすぎた鹿系魔獣の討伐。
この鹿系魔獣自体はそこまで強くはないけど、群れると厄介。その辺の草木を食い荒らしてしまうらしい。
しかも、普通の鹿よりも凶暴で、角が鋭利で殺意が高い。
まあ、そのあたりは普通の鹿と変わらないかも。
ちなみに、この世界の魔獣は在来の生物が魔力を帯びて進化(?)したものが多いらしく、固有の名前がないものもいる。
いや、本当は固有の名前もあるのかもしれないが、そこまで浸透していないっぽい。
生態も、元の生物とそう変わらないらしいし。
でも、名前がついているのも結構いる。その線引きはよくわからない。
他にも魔物と呼ばれる厄介なものもいるらしいけど、ゲームでは出てこなかったわね。なんでも、聖女にしか浄化できないとか。
この国では、魔物が発生したことは、あまりないらしいけど。
「うわっと!」
思考が逸れたところに、魔獣が突進してくる。
それをクロスさせたメイスで受け止める。
その隙をついて、別の魔獣が横から突進してくる。しかも他よりでかい!
やばっ……。
わたしは吹っ飛ばされるのを覚悟した。
「ミキャ!」
しかし、衝撃は訪れなかった。
ナイジェルの放った矢に、助けられたらしい。
その隙に、鍔迫り合っていた魔獣を殴り飛ばす。
どうやら、最後に突進してきたでかいので、最後だったらしい。
「だいじょうぶか、ミキャ」
「助かったわ。ありがとう。でも、ミキャじゃなくって、ミカね」
「あ、ごめん……」
「いいわ、それより──」
「二人とも、油断しない!」
「──っ!?」
「──っ!!」
倒したと思っていたデカいやつが身を起こし、その鋭利な角を私たちに向けて、再び突進してきた。
そういえば、魔獣になると生命力も高くなるんだっけ……。
大怪我を覚悟した瞬間、凄まじい閃光と轟音が響く。
でかい鹿系魔獣は、目の前で黒焦げになって倒れた。
「二人とも、大丈夫!?」
リビーが駆け寄ってくる。
「い、今のは……」
「アタシの雷魔法だよ。無事でよかった。油断しちゃだめだよ!?」
「助かりました」
「ありがとう……」
こうして、初めての討伐依頼は終わった。
反省箇所は、まだまだ多い。
そして、戦闘よりも素材剥ぎ取るのが大変だった。
自分で解体するから、精神的にね……。
その後、リビーには正式に初心者卒業までお世話になることにした。
ナイジェルと一緒というのは不満だけど、冒険者なら元彼とパーティーを組むこともよくあるから、慣れろと言われた。
まあ、仕方ないか……。




