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地獄耳のジャスティーナ 〜音量調節魔法は意外と結構、強いです!?〜  作者: 彩紋銅


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14/33

14罹患者②

 ◇


 ターフ子爵の邸宅は、東部第二翼区の特に貴族の邸宅が集まる区域にありました。

 庭も建物も広く、とても裕福な貴族の家といった感じです。


 ちなみに、第一翼区と第二翼区の違いは、土地代です。

 第一翼区は土地代が高いですが、その分、警備が強化されています。

 そのため、上級貴族が多く邸宅を構える様になりました。


「ようこそいらっしゃいました。ベンジャミン・ターフです」


 我々を出迎えてくれたのは、ターフ子爵ご本人でした。

 焦茶(チョコブラウン)の髪と、(オレンジ)の瞳の男前さんです。

 確か、三年ほど前にご結婚して、お父上から爵位を継いだとか。


「特殊調査部隊『梟』のエルだ。こちらは部下のジャスとパーシー。そして、同行してもらったソル・ツイッグ先生だ。

 本日はノーリーン夫人の件で伺った」


「はい、存じ上げております。こちらへ……」


 私たちは豪華な応接室に通されました。ターフ子爵は随分と羽振りがいい様ですね。


 それぞれソファに座ると、侍女たちがお茶を用意してくれます。

 だけど、みなさんの表情が暗いのが、気になります……。


「では、話を聞かせて欲しい」


「わかりました。治療院やソル先生に話した事と重複してしまうのは、ご了承ください」


「構わない」


「では──」


 ターフ子爵によれば、ノーリーン夫人が発症したのも、三ヶ月ほど前らしく、その時の状態もミックさんや、イーモン様たちと、ほぼ同じ症状です。

 指先が黒くなり、治療師による治癒魔法も効かず、溶ける様に崩壊が始まったそうです。

 治癒魔法が効かないので、今は医療師のソル先生が診ているとのこと。


「発症した時に、何か変わったことは?」


「い、いえ、特には……」


「ご友人のイーモン殿と貴方は、ザンの主催する仮面舞踏会に参加したそうだな?」


「え? ああ、はい。確かに参加しました。ですが、妻はそれには参加しておりませんので……」


「そうか。ところで、イーモン・ファーン男爵子息とダニー・モス男爵子息とは友人なのか?」


「はい。二人とも、領地が隣なのと、年が近いので幼い頃からの付き合いです」


「仮面舞踏会には、よく参加するのか?」


「え? いえ、付き合いがあれば、その、断りきれずに……」


 既婚者で仮面舞踏会に参加するということは、浮気相手を探している様なものなので、答えづらいでしょうね〜。

 仮面舞踏会は基本的に、一夜限りの出会いを楽しむ場ですからね〜。


「では、ザンの主催する夜会には?」


「抽選に当たれば友人達と共に参加していました。大体、年に三〜四回程度でしょうか? ザンの夜会は。招待状一つで四人まで参加できますので……」


「なるほど。ノーリーン夫人は、その頃に何か普段と違うことはしていたか?」


「さあ……? いつもの様に友人のお茶会などに、参加していたと思いますが……」


「夫婦なのに、把握していないのか?」


「い、いえ、その、お恥ずかしい話なのですが、妻が病になる前あたりから、夫婦仲があまり良くなくてですね……。お互いの生活について、知らないことも多くなっていまして……」


「では、ノーリーン夫人にお話を伺うことは──」


 その時、何かが割れる様な凄まじい音が、廊下の方から聞こえてきました。


「──っ!」


 パーシーさんとソル先生が、エル様を守る様に音の方を警戒します。


 私は特異魔法で、音の出所を探ります。


『あああああ──っ、顔が、わたくしの顔がぁ──っ!!』


『奥様、落ち着いてください!』


『なんで、なんで、治らないのよぉ──っ!!』


 そんな声と共に、何かを壊す様な音が響きます。

 どうやら、ノーリーン夫人が乱心している様です。


 その時、応接室のドアがノックされました。


「どうした?」


「失礼します。旦那様、奥様が……」


「わかった。すぐ向かう」


 執事の言葉に、ターフ子爵が頷きます。


「ソル先生、よろしいですか?」


「わかりました」


「我々も、ついていっても?」


「話ができるかどうかは、わかりませんが……」


「構わない」


「では──」


 ◇


『〜〜〜〜っ!!』


 ノーリーン夫人の寝室の前までくると、何かが壊れる音と悲鳴が、部屋の外にまで聞こえてきます。


「では、まずは私とターフ子爵で部屋の中に入りましょう」


「……わかりました」


「ノーリーン、私だ。ソル先生が来てくれた。入ってもいいかい?」


 ターフ子爵が部屋のドアをノックして、声をかけます。


 少ししてドアが開き、侍女の方が顔を出しました。

 そして、ターフ子爵とソル先生が、部屋の中へと入ります。


 そこから少し経って再び扉が開き、ソル先生が顔を出します。


「大丈夫です、中に入ってください」


「わかった」


 そうして、ソル先生とパーシーさん、私はノーリーン夫人の寝室へと入りました。


「失礼する」


 寝室は綺麗に片付けられていました。

 室内は消毒液と花の匂いが混じり合った、奇妙な匂いが漂っていました。

 至る所に飾られた百合の花が、その花の香りの正体みたいです。

 部屋から響いていた音は、おそらく花瓶が割れた音だったのでしょう。


 ノーリーン夫人は、天蓋カーテンに囲われたベッドの上にいる様です。

 天蓋カーテン(薄い布)越しなので、その姿ははっきりとは見えません。


「特殊調査部隊『梟』のエルと申します。こちらは部下のジャスとパーシー。私の部下です。

 夫人には話を聞かせてもらいたいのですが、よろしいですか?」


「……はい。お見苦しい状態ですが、ご了承ください」


 ノーリーン夫人は、少し痰が絡んだ様な話し方をしていますが、今は落ち着いている様です。


「夫人の症状が出始めた時、何か変わったことはございませんでしたか?」


「変わったこと、ですか?」


「ええ。些細なことでも構いません」


「……そう、ですね。その頃は仲夏の頃でしたので、例年通り暑気払いの会を連日楽しんでいました」


 暑気払いの会は、夏によく行われる涼をとるためのお茶会です。

 この国は夏の暑さがかなりキツイので、涼むことを目的としたお茶会がよく催されます。

 そういった理由で、貴族の邸宅には水路や池、噴水などが多かったりします。


「お客様を呼ぶこともあれば、友人宅の暑気払いに毎日の様に参加していました。

 変わった事といっても、特に思い当たるものは無いですね……」


「そうですか」


「ああ、でも──」


 ふと、ノーリーン夫人の言葉の端に、笑っているかのような響きが混じりました。


「わたくし達を恨んでいる人は、確実にいるんじゃないかしら? ねえ、ベンジャミン?」


「ノーリーン?」


「ああ、なんで貴方なんかと結婚してしまったのかしら? 

 初めから知っていたら、わたくしはこんな目には遭わなかったのに……!!」


 ノーリーン夫人の言葉がどんどん、荒々しくなっていきます。


「みなさん、一旦、外に出ましょう」


 ソル先生に促され、私たちはノーリーン夫人の部屋を出ることにしました。


「逃げるんじゃないわよ、ベンジャミン!!」


 その時──。


「うっ!?」


 ターフ子爵に枕が投げつけられます。


「──っ!?」


 その拍子に天蓋カーテンが捲れ、一瞬ノーリーン夫人の姿が見えてしまいました。


 肌は赤黒く爛れ、顔はほぼ筋繊維が露出しており、元の顔がわからない状態でした。


 天蓋カーテンが閉まり、再び私たちとノーリーン夫人を遮ります。


「──お、お引き取りください」


 ノーリーン夫人はそう言ってゴボゴボと、咳き込んでしまいました。


 ソル先生に後を任せて、ノーリーン夫人の部屋を後にします。


「……先ほどの夫人の言葉は、どういう意味だ?」


 応接室に戻ってくると、エル様が口を開きます。


「そ、それは、その……」


「言えない話か?」


「──その、私には、幼い頃からの婚約者がいました」


 腹を括ったのか、ターフ子爵が話し始めます。


「しかし、成長した私はノーリーンに心を奪われており、彼女との結婚を望んでいました。

 そのため、婚約解消を申し出ようとした時に、相手の家が没落して婚約の話自体がなくなり、ピエリス家は一家離散に追い込まれました。婚約者の行方も分かりません。

 それで私はノーリーンと結婚することができました……」


「その相手は?」


「……ピエリス子爵です」


「なるほど、確かに三年ほど前に爵位を返上しているな。その元婚約者が恨んでいるかもしれないと?」


「わ、わかりません。──その、すでに彼女は、亡くなっているので……」


 あら? この方……。


「……本当に、わかりませんか?」


「え?」


「本当に、元婚約者の方に何もしていませんか?」


「な、何を言いたいのですか?」


「いえ、何もないのならいいのです」


「なにも、なにも、ありませんよ……!」


「そう、ですか……」


「ジャス?」


 その後、ソル先生も処置が終わり、応接室に戻ってきました。


 これ以上の聞き取りは無理そうなので、ターフ子爵の邸宅は後にしました。








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