43.回想・アキラ
色々ありまして、三週間ほど更新する事が出来ませんでした。
本当に申し訳ありませんでしたm(__)m
宿屋に戻りログアウトした。
翌日、ログインすると、またしても漆黒の爪を食らった。
痛い、痛いが昨日ほど痛くは無い。昨日ほど時間を空けなかった為、それほど空腹では無かったのだろうか?手加減をして貰えたのだろうか。
その痛烈な一撃により、ハッキリ意識が覚醒した。
そして……とある事情によって同じ宿の一室に泊まる事になった隣人に声を掛けた。
「……アキラ、起きてる?」
「「ZZZ……ZZZZ」」
返事の代わりに聞こえてきたのは、幸せそうな寝息が二つ響いた。
ベッドから這い出て、隣のベッドで寝息を立てる隣人の寝顔を覗き込んだ。
寝る事がこの世において、何より至福の事だと表情で語っているその人物の名は、アキラ。ある事情により、しばらくの間寝食を過ごす事になったプレイヤーだ。
(今日こそは、起こしてやる‼)
「アキラ、起きて!起きて」
声を掛けながら、布団に包まった隣人を揺さぶる。
「……ん~後、1495分……」
1495分かぁ~……24時間と何分か。それって、残りのログイン時間かな!?
テンプレな展開に対して、器用な寝言での返答に初めはビックリさせられた。
「ハイハイ、解りましたよ、もう良いから……起きろ‼」
寝食を共にし始めて、もうかれこれ一週間。今までは何だかんだで見逃していたが今日からは、惰眠を貪る事を認めない。
そう考えて、蓑虫の様に包まれた布団を勢いよく剥ぎ取った。
すると、布団にしがみ付いていた隣人がベッドからゴロゴロ転び落ち、ドスンと鈍い音を響かせて床に落ちた。少し痛そうだ。
「ふぁ~~、ユウヤさん。おはようございます~。でもー出来たらもう少しだけ、優しく起こして欲しかったです。ふぁ~」
寝ぼけ眼を招き手で掻きながらそんな事を言って欠伸する少年。
「でも、優しく起こしたら起きないよね?」
「ふぇ~、そんな事無いですよ~ふぁ~」
会話の端々に眠たげな様子を窺わせて言われても説得力が皆無だ。
「今日もアルバイトですか~?お疲れ様です~。じゃあ、僕もう少しだけ寝ますね~」
「……今日からはバイトには行かないよ、アキラ。それに、色々やる事が出来たから……君にも手伝って貰いたいんだ。やってくれるよね、アキラ?」
のほほんとした雰囲気と調子で、僕を送り出そうとする少年にたった一言を呟いた。
「……ャ……イヤデス。嫌です!ヤダヤダヤダー!イヤダー‼」
狂ったように拒否反応を起こして、アキラが叫び出した。
「……働いたら負けなんだ‼……何故なら、僕は……ニートだから‼」
暫く、喚き散らしたのち、少年は誇らしげにそう言ってベッドに再び潜り込んだ。
「ハイハイ、どっちにしても、お金に余裕が無いし……今日で宿暮らしもお仕舞だから」
(本当はもう少しだけ残っているけど、そのうちお金は尽きる……いい機会だし、贅沢な暮らしは暫く控えて過ごそう)
そんな事を思って、アキラの襟首を掴みズルズルと引き摺って、二ヶ月間生活の拠点にした宿から旅立つ。
「ユウヤちゃん……もう行くんだね?寂しくなるわね……また、来なさんな」
「はい、テレサさん。また、来ます。それでは、長い間お世話になりました」
女将のテレサさんに挨拶を交わしていると……タッタッと軽快な音が聞こえた。
「ユーウーヤーおにぃちゃん、待ってぇーーー‼」
軽快な足音と共に一人の少女が飛び込んで来た。胸にダイブしてきた少女を抱き止める。
「アリサ……どうしたの?そんなに慌てて……」
「うぅー!どうしたの?じゃないよー‼どうして急に出ていちゃうんですか!?私、聞いてないよ‼」
プゥーと頬を膨らませて上目づかいで僕を見上げて来る少女は、アリサ。
テレサさんの娘で、この宿の看板娘でもある活発な少女だ。しかし、何故か少しご立腹の様子だ。
「ゴメン……。昨夜、決めた事だったから、テレサさんには伝えていたんだけど……」
「それは、今朝起きた時にママから聞きました。私が聞きたいのは、出て行く理由です」
「うーん、詳しい事は話してあげられないけど……やりたい事、したい事が出来た。って理由は、ちゃんとした答にはなってないよね?」
詰め寄る少女に明確で曖昧な返答しか出来ない事に申し訳なさを感じた。
「……ううん、今ので大丈夫だよ。昔、ママがね……良い女の条件は、殿方のやりたい事には見守ってあげる事だって言ってたもん。だから、これを持って行って……欲しいな」
そう言って少女は、無邪気な笑みを浮かべて、大きな袋包みを差し出して来た。
「弁当だよ。起きてすぐに、せっせと作っていたみたいだけど、間に合ったみたで良かったね~」
何だろう?と思うよりも先に、テレサさんが答えてくれた。それを有り難く受け取った。
「ありがと……アリサ、嬉しいよ。残さず……食べるね」
「えへへ、私の自信作だよ」
お礼を言いながら、少女の頭を撫でた。すると少女は年相応のはにかんだ笑みを浮かべた。
「じゃあ、そろそろ行くね。………?あれ?アキラは?」
そんな和やかなやり取りをしていた為、拘束していた存在の事をうっかり忘れていた。
「……ユウヤちゃん。コレがそこに居たよ?」
「あぁ、すいませんテレサさん。ソレ、ありがとうございます」
僕が目を離したスキにこっそりと先ほどの部屋に逃亡を図ろうとしたアキラがテレサさんに襟首を掴まれて拘束されていた。そんなアキラを物のように扱かった。
「人をコレとかソレとかって扱うなー‼この外道!人でなし!」
物扱いされたアキラが心外だと、言わんばかりに抗議の声を上げる。
「あたしらが外道で人でなしなら……あんたは、ただの穀潰しだろうね」
そんな、アキラの発言をテレサさんはそう言って一蹴した。
「それにしても……ユウヤちゃん、貰うもん貰っておいて、言うのもなんだけど……この子の事を任せても良いのかい?」
「はい。アキラ……彼とは、同郷のよしみという事もありますので僕に任せて下さい」
物言いたげで不安そうな表情で、そう聞いて来るテレサさんにそう返答した。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
それは……一週間前の出来事だった。
―――アップデートが完了したオテオンにログインし、何もない平原に転移して、何の収穫も無いまま【エピオン】に戻って来てログアウトをする為、宿に戻って来た所に怒声が響いていたのが全ての始まりだった。
「こっちも戯れで商売をしているわけじゃないんだから、払うもんを払って貰わないと困るんだよ……無いっていうなら体で返しなって言ってんだよ‼」
そんな、騒乱の周囲には、ワラワラと見物人が群れを成していて人垣を作っていた。
その騒乱の片隅に事情を知っていそうな人物がいた。この宿の看板娘のアリサだ。
「ねぇ……アリサ、何があったの?」
「あっ!?ユウヤお兄ちゃん、お帰りなさい。えっーとね、ずっと前から部屋の一室に住み着いていた人が居たんだけど……前受金も貰っていたし、安心してサービスを提供していたんだけど……今日で二ヶ月目になったから、一旦清算をしようとしたらお金を持って無かったの……それで、ママがね……」
(なるほど……無銭で宿に住み着いていたのか、不埒な奴も居たもんだな)
そう思って、どのような人物がそんな所業をしていたのかという好奇心が生まれて、喧騒の中心を覗き込んだ
見知った顔……女将のテレサさんとその眼前に正座をさせられていたのは、幼さを残した少年だった。
(何で、こんな子供が……)
「あっ…あの、テレサさん‼彼が払えないお金は僕が立て替えます」
予想外の人物が犯した所業に、何となく違和感を覚えてその輪に割って入った。
「あら、ユウヤちゃん。お帰り……そう言ってくれるのは助かるけど……良いのかい?」
「はい、きっと何かしらの事情があると思いますので……」
この時、僕は何も解っていなかった。きっと、この出来事は新しい何かのクエストであると同時に第二の試練に関する事柄だと思いこんでの発言だった。
「そうかい、悪いね、助かるよ……じゃあ、締めて10万G」
「ブッフ……!?じゅ、十万G!?」
差し出され手の平と同時に提示された金額が予想以上に高額だった為、思わずむせ込んでしまった。
一泊朝食付きで確か500G。ゲーム内時間で60日。つまり、3万G位だと思っていた。
「宿代だけなら、3万G何だけどね……この子達、朝昼晩と沢山食べるからそれがね……」
驚きを隠せない僕にテレサさんは、10万Gの内訳を口にした。食費だけで7万G。
(あれ……今、この子達って?)
話の流れで出て来た言葉に疑問を感じて、少年の近くに寄った。
少年の影に隠れていた為、視認出来ていなかった一頭の小型化された熊が横に鎮座していた。
動物が小型化するのは、プレイヤーの特権。つまり、この少年がNPCではない事を証明していた。ということは、これは只のプレイヤーが起こした問題でグランドクエストなどとは、全く関係がない事を示していた。
漢に二言はないという格言がある為、泣く泣く10万Gを支払った。
それとこの後、何だかんだあって、彼の面倒を見ることになってしまった。
この出来事が僕とこの少年……後に【怠惰】の二つ名で呼ばれる事になる少年・アキラとの出会いだった。
次回の更新は来週の日曜日を予定していますが、確約は出来ません。




