39.決戦・終章
友と共に、激戦が繰り広げられる戦場に向かって闊歩する。
もう、護ると決めた場所は、戦場の火花に散らされている。
街を囲んでいた防壁はボロボロになって、所々から街中の様子が窺える。
見慣れた街の外観が、いまは見る影もない。やるせない気持ちが溢れた。
別に、街が落とされたとしてもこの世界の住人ではない僕らには、関係のない事なのかも知れない。けれど、もう僕らの中にはこの世界で過ごした思い出がある。
美味しい物を食べたこと、ワクワクしながら初めて観る街並を眺めて冒険に行ったこと、冒険から帰って来てクタクタになってベッドで爆睡したこと、クエストに失敗した時の口惜しさ、興味本位で口にしたゲテモノ料理の味……etc。
何もかもが初めての経験で、どれも鮮明に映って、全部ひっくるめて楽しかった。そして、横に並ぶ友を見た。この街が僕らにとっても、共に過ごした大切な場所である事はいまさら口にする必要も無かった。だから、護りたかった。
けど、力足らずで……傷つけた。思い出までもが傷ついた気がする。
(……傷ついても、壊れきってさえしなければ、どうにか出来る)
過ぎ去った時間は戻らない。そう割り切って、前向きな気持ちに切り替える。
そして、激戦の渦中にある戦場を見た。大勢のトッププレイヤーが【エピオン】を背に戦っている。もう防壁と〈アースフォート・アルケロン〉は目と鼻の距離まで、近づいていて、その間を何とか進ませまいと必死に力を尽くしている。そんな、プレイヤー達とおそらくそのペット達から色とりどりの輝きが発せられていた。
(あれは……LAを発動するときに出る光?)
プレイヤーとペットを繋ぐ多彩な色が瞬き、カラフルに世界を染める。
リンクアーツは可能性の一片。プレイヤーとペットの信頼が形を成したモノ。
虹よりも色彩が豊かで、それをとても綺麗だと思った。
―――こんなにも、僕らは、思い合えた―――
言葉にするとただ一言。でも、それだけの事に感無量の気持ちを抱いた。
ずっと人々が焦がれていた想いが、可能性の断片となってこの景色を生み出している。
この多彩な色を束ねて、可能性という一つの形に出来るのは黒。
奇跡的にこの景色を生み出している光は、儚なさと淡さを伴っていた。
このままいけば、何か些細なことで崩壊してしまいそうな危うさがあった。
―――だから、カタチにしよう―――
大勢の意志を纏めようなんて、なんて傲慢。我儘。不遜。
けれど、昂った気持ちを抑え込む理性を働かせず感情のまま行動に移した。
心に抱いた心象風景とノワールの気高き誇りを重ね合わせた。
ユウヤとノワールの間に黒い光が繋がれる。ユウヤの背に黒いマントが現れた。
―――漆黒の矜持……それが、僕らの想いの丈―――
マントを靡かせて、悠然と戦場を闊歩して、戦いの戦闘に辿り着いた。
〈アースフォート・アルケロン〉との彼我の距離は、約1里(400m)。
こんなにも近くに、この巨大亀を見たことはあっただろうか?否、無い。
これほどの巨体に成長するまで、どれくらい長い時を過ごしたのだろうか?
この長寿な生物に伝えなければ……何を?想いだ。
(……僕らの居場所を思い出を……奪わないで‼壊さないで‼)
剣を大地に突き立てながら、切ないほど強く願った。
大地を通して、漆黒の細い線が伸びて〈アースフォート・アルケロン〉と繋がった。
漆黒線が繋がり、攻撃とは取れないモノに不気味さを感じたのか、最大の警戒と終幕を下ろす為、再び亀は光の粒子の奔流……荷電粒子砲を放った。
莫大な光の奔流が僕を呑み込もうとした。
「ウオォォォォォォォォォ‼」
雄叫びの様な、渇望の声が響く。
(……皆の力を貸して……いや、貰うよ)
身勝手な要求を後ろにいる全てのプレイヤーとペットに突きつけた。
黒線が後方にも伸びる。黒線は、枝分かれして、大勢のプレイヤーとペットに繋がった。それは……さながら王の勅命。
黒線を繋いだプレイヤーとペットからLAの光を吸い取る。
抗うことを許さない絶対遵守の命令によって、ユウヤを通して前方の漆黒線を深く太くしていく。
(……これは……みんなの想い?)
身体を多彩な光が通っていくたび、流れ込んでいく想いを幾つも感じた。
それは、他者の心の領域に土足で踏み込む行為だと思った。
(でも、今だけは……許して欲しい)
流れ通っていく想いを覗き見るたび、贖罪を請う。
漆黒線は荷電粒子と衝突するまでに、拮抗するサイズの黒柱となって衝突した。
そして、大地に刺さった剣にノワールがそっと脚を翳した。
「【王統一決】」
ユウヤの身体を通して、様々な想いが混ざって統一されたLAが発動した。
一瞬の拮抗の後、一気に肥大化した黒柱は荷電粒子を吹き飛ばし、〈アースフォート・アルケロン〉に突き刺さるようにして伸びていって、最後は、霧を晴らすようにして霧散した。
(……ハァ、ハァ……どうなった?)
結末を見届けなければ、という義務感が湧き上がっていくなか意識を失っていった。
薄れゆく意識のなかで、勝利の鐘が鳴り響きながら、もう一つ音が響いた。それは……この戦いに幕を降ろし、決め手となったアーツの名だ
そのアーツの名は、その場で力を搾取された全てのプレイヤーの脳裏に響いた。
【王統一決】 EX:LA
大勢の意志を汲んだ採決。
強引な決断は時として、無限大に広がる可能性を統一するのに必要だった。




