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オーディール テイム・オンライン  作者: 結城 縫熊
1.冒険の始まり…
38/44

38.決戦・6

 

 僕の前方には、歩みを進める漆黒の獣。その後ろ姿は、何処か寂しげに映った。


――――王は孤独だ――――


 何かの本で読んだ憶えがあるような、そんな言葉を思い出した。

国には王が必要だ。そんな王には、無能な王もいれば、有能な王もいる。

 しかし、決して神ではない。だから、万能でもなければ、全能でもない。

それでも、王は、民から臣下から全能さや万能を求められる。

 でも……現実は非情で、その裁量のてのひらから幾つかは零れ落ちる。

それは……例え、どんなに有能な王と優れた臣下と部下に恵まれたとしても……それでも無情に、零れ落ちていく水をすくいきることは誰にも出来ない。

 それでも、ごうというさがゆえか、全てを掬いきろうと必死に足掻くのだ。


 やがて、その先……悩み、苦しみ続ける王の姿を観て、臣下と部下は王と分かち合う事の出来ない辛さから、王の周囲から遠ざかっていく。故に孤独。

 孤独とは、寂しさと悲しさが混ざり合って逝き着いた果てなのだ。


 そんな物語に綴られた言葉を、ゆっくりと足を運ぶ漆黒の獣の姿に淋しげな面影に重ねた。


 それは……また、一人。理解者を失った事に落胆している様に観えた。


―――王を理解できるのは、王だけだ―――


 ノワールが僕に接する態度は、厳しく我が子を育てる父の様に感じていた。

彼は、いつの日か僕に対等な王に育つことを望んでいたのかも知れない。


 けど、僕は……諦めた。前だけを見続けること、前に進むこと……ただ一言、挫折しただけだと表現することも出来る。けど、本当の所は、投げ出して楽な方向に逃げただけだ。


 王の資格は、矜持プライドと信念を持つこと。胸を張って堂々と生きること。

 逃げる事とは、まったくの対極。逃げなければ、結果的に無様な敗北を味わうことになろうとも、逃げるという行動よりはよっぽどマシな事だ。辛酸を舐める事は、成長のかてになる。

 けれど、逃げる事で学ぶものは何も無い。無意味なことだ。


 そんな者に、王は言葉を掛けない。活をいれる雄叫びさえもしない。

王は、独りで行く。王の道を。たった独りで孤独な旅路を続ける


(………その横を……共に並んで、進んで往きたい)

純粋な願いを胸に刻み、覚悟を決めた青年は、堂々と胸を張って力強く歩み出した。

 もし、その場に誰が居たのなら、その者の目に映った青年の背にほんの少しだけ王の風格が漂い始めたのを感じただろう。まだまだ未熟で若い王が誕生した瞬間だった。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 ノワールの横に並ぶように駆け寄る。

視界の片隅に映るノワールに「チラリ」と横目を向けた。

 もうすでに、僕に興味を失ったのか歯牙にもかけない様子で歩みを進める。 

そんな対応に少し哀しさを感じた。けど、此処で引き下がる事は出来なかった。

 その歩みを遮るため、彼の前に更なる一歩を踏み出した。


――――王の進軍が止まった――――


 もし、絶対王制が敷かれた世界だったら、この場で不敬罪に問われて僕は打ち首にされただろう。けど、この場には、ただ一頭の獣とただ一人の人間。

 たとえ、種族が違えどともこの二ヶ月近くの間……共に過ごした存在。

偉大な王の風格を漂わせる漆黒の獣は此方の顔を見上げた。

 相変わらず強い意志を感じさせる眼差しだった。けれど、心なしかその瞳は、少しだけ気落ちした感情の色が混じっている様に思えた。


「………ノワール」

 その瞳を見たとき、申し訳ないという気持ちが溢れ出る様に言葉が零れた。

この気高き生物に、僕は、こんな眼差しを作らせた事を恥じた。

 そして、ゆっくりと忠誠を誓う騎士の様に傅き、視線の位置を彼に合わせた。


「……ノワール。僕は、君に誓う。契約する!約束する‼」

一方的に三度みたび、忠誠の言葉を宣言した。

「いつか……きっと、君に並び立てる誇りを気高さを身に纏おう‼」

「険しき道を共に歩み、進み、苦楽を分ち合おう‼」

「そして……果てなき道の頂きに辿り着いたとき、祝福の盃を交わそう‼」

これから先に進む、旅路への目標を掲げた内容の言葉を宣誓する。

「だから……僕と……共に歩む、友になろう‼」


―――王の友は王だ。王になる―――


誓いの言葉を投げながら、ノワールに握手を求めた。



 伸ばした手に、今か今かと手が触れ合うまで緊張が走る。冷や汗が流れた。

けれど、視線だけは逸らすことはせず、ただ真っ直ぐに見つめた。

 そして……手と前脚が触れ合った。

その時、逸らさずにいた目は、それを見逃さなかった。

 些細な変化だったが、ノワールが笑った。僅かに、ほんのわずかに柔らかな表情を浮かべて、満足そうに笑った。そして、僕らは友情の証……握手を交わした。


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