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オーディール テイム・オンライン  作者: 結城 縫熊
1.冒険の始まり…
37/44

37.決戦・5

 先程まで、活気に満ちていた身体から力が抜けていくのを感じた。

焦り、不安、空虚、無念、嫌悪、困惑……様々な感情が渦巻き、身体を支配する。

やるせない気持ちが駆け巡り、張りつめた緊張の糸が「プツリ」と音をたて、身体中を巡る神経の糸も同時に引き千切った。


(あぁ……どうしよう?さっきまで、あんなにも軽かった体が鉛のように重い)

 集中が途切れ、忘れていた疲労が波のように一気に押し寄せて来て、億劫な倦怠感けんたいかんを生み出していき体の自由を奪った。


力が抜け「ガックン」と膝が地に着く。うつむこうべを垂れて地に伏した。その姿は、誰の目にも何もかもを諦めた様に映る。


「……ユウヤ……悪いけど、俺は行くよ」

 その言葉を残し、友は戦場に赴くため、この場から去っていく。


 周囲ではまだ戦闘が続いており、戦闘の余波が大地を揺らし、辺りを喧々と争乱の渦が広がっていく。その渦中に、たった一人「ポツンと」置物の様に独りで鎮座する。


 戦意は失ってはいない。けど、心を奮い立たせるには至らない。

ほんのわずかな時間の流れが、永遠に続く悠久の一時を感じさせた。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



……どれだけの時間、項垂うなだれていただろう。

くすぶる想いを胸中に抱え、石像のように体を強張らせた僕の前に一つの影が近づいた。

「ボット」と鈍い音を立て、眼前に何かが落とされた。ちょっとした小物が入りそうな麻袋あさぶくろだ。落ちた衝撃で封が解かれ、麻袋から幾つかの回復薬と食料の姿が覗けた。


「…………ノワール」

頭を上げて、落とし主を視認する。

掻き消えそうな小さな声で、戦地に舞い戻った相棒の名を呟いた。


 膝を着いている僕の視線の位置は、彼の眼の位置とちょうど等しく、真正面に向き合った。その眼差しの前では、瞬きをすることさえも恐れ多い。そんな畏敬の念を抱かせる眼だ。


 数瞬の間、見つめ合う。

やがて、ノワールが咥えていた巻物を地に置く。地に置かれた巻物は、不自然なほど自然に広がった。広がった巻物の内容に反射的に目が往く。


『ユウヤさんへ ノワールを貸して頂いてありがとうございました』

『おかげさまで助かりました。ロザリーも少し休めば大丈夫だそうです』

『私は、戦線に戻れませんがユウヤさんは、頑張って下さい。 イヴより』

『PS:僅かですけど、回復薬と食料も供えて送ります』


簡素な文章がつづられていた。


 僕の意識は、最後の一文に向けられていた。「頑張って下さい」という言葉にだ。

その言葉は、他人に対する応援エールの言葉。そう僕は、頑張った。


 この戦場で戦い続けた。無謀な作戦でカノン砲を落とし、慣れない呪文スペルを詠唱して魔法を放ち、他者のため戦力を削ぎ、岩石の雨の中で剣戟を重ね続けた。けれど、目的を達成出来ないかも知れない可能性の前に、諦めという鎖に囚われて膝を屈した。これが僕の頑張った結果だ。



―――――ここで僕は、自身に問いかける―――――


 この成果で、自分を「頑張った」と慰めることが出来るだろうか?


 ただ純粋に、後悔は無かったと胸を張って言えるだろうか?


 僕はこの戦いにおいて、全力を尽くしたと言い切れるだろうか?


自身に幾つもの疑問を投げかけた。


 そこで、気づいた胸中にくすぶる想いに。

身体が言う事を聞かないのは、鉛のように重たくなったからだ。


 HPは?MPは?武器の状態は?装備の状態は?他は問題ない。

どうにでもなりそうな事ばかり。鉛の重さは、疲労から来ている。


 表層意識が休息を求め、訴えている。想いが一致していない。

なら、自らの意志で想いを一致させろ!身体を奮い立たせろ!


 熱い想いに呼応して、全身を駆け巡る血潮が熱を帯びる。


けれど、足りない………全身を囚わる鎖を断ち切るには、まだ、足りない‼


(もっと、もっと、もっと…………たぎれ‼奮わせろ‼)

記憶を掘り起し、過去の情景を思い出す。自身の根幹を……

「ピシッ、ピシッ」と亀裂が入る音が響く。


 そして、根幹にあったのは、鮮やかさや雄大さなどからは、ほど遠い黒一色。

他に映える色彩が存在するなか、地味な色が背景の景色が僕の根幹だった。

「何故?」と疑問を抱くよりも先に「やっぱり」と思った。


 黒は何色にも染まらず、すべてを受け入れる優しい色。

どんな色も色褪いろあせていき、最後は黒に還っていく。黒は色彩が行き着く果ての色姿いろすがた。そこは、何もかもあって何もない虚空。

 そんな色姿に……雄大さも鮮やかも内包していると感じていた。


 僕は、すべてを持っていたい。綺麗も汚いも全部抱えていたい。

そんな、おごった想いを体現する色は、黒一色で事が足りた。

 自身の内面に触れ、すべてを理解し終えると、身体に力を込め始めた。

「ピキッ、ピキッ」と亀裂が更に裂ける音が響く。


 赤が紅に変わり、熱を帯びた血潮の濃度が深まる。身体の炉に火が燈った。


 心と体が同じ想いを抱いたとき、僕は鎖から解放された。


(……悔いを残すことない道を歩みたい)

そう思うと同時に、麻袋を拾い上げながら、青年は再び起ち上がった。



次回の更新は、また次の土日になると思います。

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