36.決戦・4
――――あれから一刻ほど経ったと思う。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
絶え間なく剣を振るい、剣戟を重ねていたため、荒い息が零れる。
飛来する岩石弾は時間を追うごとに増え続け、今や雨あられの如く降り注ぎ、僕を灰燼に帰そうと躍起になっているように映る。それに対して、僕は必死に抵抗を続けていた。
一閃、二閃、三閃……―――〈サークル・ブレイド〉〈エア・ブレイブ〉―――
もうただの剣戟だけでは、迎撃が追いつかなくなって、アーツを絡めた剣戟を重ねた。
〈エア・ブレイブ〉
それは……飛ぶ斬撃。振るった剣から空間を裂くように進む斬撃。
〈両手剣スキル〉に今の所、唯一ある遠距離と複数の相手に応用できる技。
それにより、雨のように降り注ぐ岩石にほんの一瞬だけ間が出来る。その間を利用して、呼吸を整える。この動作を一刻の間、ただひたすら続けた。同じ事を寡黙に続けたその姿は、自らを更なる高みへと昇華させようとする修練だった。
「「「「―――――――――」」」」
時折、豪雨のような、激しく空気を切り裂く音が響く。
また来たのかと思った。この音が響いた時、岩石の雨は言葉のとおり豪雨になる。〈アースフォート・アルケロン〉が一定の時間を置いて、放ってくる岩石弾の嵐。何度も繰り返し、飛来する岩石の嵐を迎撃しようと剣を握りしめて振るった。
一閃、二閃、三閃……〈エア・ブレイブ〉……スポッ……軽快な音が響いた。
もう決められた動作を繰り返し重ねるように、繰り出した剣技に軽快な音が混じった。
(……あっ!?……ミスった‼)
ただ一つのミスが致命的な結果をもたらすことがある。尊敬の念を抱いていた人が口すっぱく言霊のように言っていたのを思い出した。しかし、時すでに遅し。過ぎ去っていく時間は戻らない。
スポ抜けた剣を反射的に握りなおしたことによって生じた隙は取り戻せない。
もう何度も、味わった走馬灯が駆け巡る。いつもギリギリの所で助けてくれた相棒の姿はない。もし仮にいたとしても、この岩石の嵐を回避することは困難だろう。
迫り来る岩石に呆然とそんな事を考える。ゆっくりと差し迫る現実を眺めた。
そして、岩石弾が当たる直前……眼前に紅蓮の火柱が噴いた。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
「これで、また貸し一つだな」
急に噴き出た火柱を眺めていると声がかかる。振り返る。その先には、カズヤがしてやったりと満面の表情を浮かべていた。
「まぁ、そうだね。ありがとう……けどタイミングが良いね……狙っていたの?」
「一、二分前には、この近くには居たから……そう言えない事も無いかな?」
僕の質問に何とも言えない返答をしてくる。疑問に疑問で返さないで欲しい。
「で、これからどうするの?」
第三部隊に配属されたカズヤに今後の方針を尋ねた。
「うーん、微妙だな。作戦工程は、第一、第二部隊がほぼ全滅した事によって、第三段階に以降している。しかし、予想以上に戦力が削がれてしまった事と、〈アースフォート・アルケロン〉のHPが半分も残っているからな……だから多分、俺達第三部隊は、討伐に力を入れる余力が無いから【エピオン】を守る事を優先するだろうな」
第三部隊、15万人いるプレイヤーの中でもレベル25以上の強者達が選別され配属された最強の部隊だ。
その数は、約1万人のトッププレイヤーの集団。そして、その戦闘力に求められたのは、最終防衛ラインの死守と〈アースフォート・アルケロン〉の討伐。
けど、あの荷電粒子砲により大半のプレイヤーはリタイヤして、残されたプレイヤーは、ほぼ無傷の第三部隊の一万人と僕のように運よく生き残った極わずかな人数。この残った戦力で〈アースフォート・アルケロン〉を討伐することは難しいだろう。だから、最終防衛ラインの死守に力を注ぐしかない。
「ねぇ、このまま放って置くことは出来ないかな?」
戦いが始まって間もない頃に抱いた事を今更ながら言葉にした。
〈アースフォート・アルケロン〉は、第二部隊のプレイヤーが築いた壁に沿って移動していたと思う。そうであれば、もしかすると……僕らの戦いは、壁を築いた時点で終わっていた事なのかもしれない。始まる前から終わっていた。僕らのした事は蛇足だった。そう思った。
「……その言葉を口にするのが遅すぎたよ、ユウヤ。……残念だけど、そんな選択を選ぶ権利は俺達に残っていない」
苦虫を噛み潰したような表情のまま、彼は手を横に翳して指先で何かを指した。
「ッッツ!?」
示された指先に視線を向けて絶句した。
視界に映ったのは【エピオン】の街。もう、すぐ傍にまで迫っていた。
(……いつの間に……どうして?壁は?)
「その様子じゃ気づいてなかったんだな……壁はもうしばらく前に壊されて、もう最終防衛ラインを割っているんだ」
残酷な現実を告げる言葉の矢に貫かれた。突きつけられた事実に心の中で「ガラガラ」と積み上げて来た何かが崩れ落ちる音が響き、体から力が抜けていった。
そして……彼は戦意を失った様に茫然と立ち尽くした。




