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『のんびり暮らしたい宿屋の娘、今日も子育て相談を受けています』 ~元小児科看護師の異世界暮らし~  作者: 入野 カフェイン


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第75話 囚われしフルコ

ここまで読んでくださってありがとうございます!


「Forest亭、ちょっと好きかも」と思っていただけたら、

評価やブックマーク、リアクションをいただけるととっても嬉しいです!


皆さまからの反応を励みに、これからものんびり楽しく更新していきます。


引き続き、ルマとForest亭をよろしくお願いします!

ストベリを挟んだ新しいフォレストパンが完成して、しばらくしてから。


 私たちはまだ厨房に残っていた。


「もう一個食べていい?」


「シイ、さっき食べたでしょ」


「もう一個くらいいいだろ」


「ストベリ、私が持ってきたんだけど」


「じゃあアーリも食べればいいじゃん」


「俺がクリーム混ぜたんだけど」


 トータまで加わってきた。


「じゃあ私も!」


「ルマも食べただろ!」


 四人で残ったフォレストパンを囲んでいると、食堂のほうからママが顔を出した。


「さっきから何を騒いでるの?」


「あ、ママ!」


 そうだ。


 まだママは食べていない。


「ちょうどいいところに来た!」


「なによ?」


「これ食べて!」


 私はお皿に残っていた一切れをママへ差し出した。


「なにこれ?」


「新しいフォレストパン!」


 ママが皿を覗き込む。


 白いパンの間に、ふわっと泡立てたクリーム。


 その真ん中には、真っ赤なストベリ。


「まあ、かわいい」


 さすがママ。


 最初に見るところがそこなんだ。


「ストベリを挟んだの?」


「うん! クリームもいつもと違うんだよ」


「そうなの?」


「トータがいっぱい混ぜた!」


「そこはちゃんと言うんだな」


 トータが少し嬉しそうだ。


「とりあえず食べてみて!」


「はいはい」


 ママがフォレストパンを持ち上げる。


 ぱくり。


「…………」


 もぐもぐ。


「……ママ?」


 返事がない。


 ママはフォレストパンの断面をじっと見つめている。


「おいしくない?」


 アーリが心配そうに尋ねた。


 するとママが、ゆっくり顔を上げた。


「……おいしい」


「ほんと!?」


「なにこれ、おいしい!!」


「わっ!」


 突然の大声に、四人揃って肩を跳ねさせた。


「うますぎるわ!!」


「そんなに!?」


「そんなによ!」


 ママがもう一口かじる。


「このクリーム! いつものクリームでしょう?」


「うん!」


「なのに、ふわふわしてる!」


「いっぱい混ぜたらそうなったの!」


「俺がな」


「トータが!」


 今回は素直に言っておいた。


「それにストベリがすっごく合うわ。クリームだけならそんなに甘くないのに、ストベリを一緒に食べるとちょうどいい!」


「そうなの!」


 思わず大きく頷いた。


 さすがママ。


 私も同じことを思った。


 砂糖がないから、前世で食べていたクリームよりずっと甘さは控えめ。


 だけど今年のストベリは甘い。


 少し酸っぱくて、果汁もたっぷり。


 そのおかげで、クリームに甘みをつけなくても十分おいしかった。


「ヤトー!」


 ママが突然叫んだ。


「なんだー?」


 厨房の奥からパパの声が返ってくる。


「ちょっと来て!」


「今手が離せない」


「いいから来て!」


「よくないだろ」


「すっごくおいしいの!」


「何がだよ」


 ぶつぶつ言いながら、パパがやってきた。


「これ!」


 ママが空になった皿を差し出す。


「……何もないぞ」


「あ」


「ママ全部食べたもん」


「だっておいしかったんだもの!」


「じゃあ何を食えっていうんだ」


「ルマ、作って!」


「私!?」


「ほら早く!」


 なぜか私が急かされる。


「トータぁ」


「はいはい」


 お兄ちゃんは分かってくれていた。


 パンを切り、残っていたクリームを塗る。


 その上に半分に切ったストベリを並べていく。


「そこ、向き逆」


「え?」


「切ったとき真ん中にストベリが見えたほうがきれいだろ」


「あ、そうだった」


 トータがストベリの向きを直してくれる。


 もう一枚のパンで挟み、トータが包丁を入れた。


 ぱかっと開くと、真ん中に赤いストベリがきれいに並んでいる。


「おお」


 パパが少し感心したような声を出した。


「見た目はいいな」


「見た目だけじゃないわよ!」


「分かったから」


 パパが一つ持ち上げる。


 そして、一口。


 ぱくり。


 もぐもぐ。


 みんなでパパを見る。


「……なんでそんなに見るんだよ」


「どう!?」


 ママが聞く。


「まだ食ってる」


「早く!」


「急かすな」


 ごくん。


 パパがもう一度、手元のフォレストパンを見る。


「……うまいな」


「でしょう!!」


 ママがばんっとパパの肩を叩いた。


「痛い!」


「だから言ったでしょう!」


「なんでフルコが作ったみたいになってるんだ」


「細かいことはいいの!」


 ママが完全に興奮している。


 パパはもう一口食べた。


「確かにうまい。ストベリの酸っぱさがクリームと合ってるな」


「でしょ?」


「それに、クリームをそのまま挟むより軽い」


「いっぱい混ぜたから!」


「トータが?」


「うん!」


「そこは俺なんだな」


 トータが胸を張る。


「お前、こういうの本当に得意だな」


「まあね」


 褒められて、ちょっと嬉しそう。


 ママはそんな二人の会話を聞きながら、じっとストベリ入りのフォレストパンを見ていた。


 その目が、だんだん輝いていく。


(あ)


 嫌な予感がする。


「ヤト」


「なんだ?」


「これ、店で出しましょう」


「やっぱりな」


 パパも分かっていたらしい。


「だって、こんなにおいしいのよ!」


 ママが私たちを見る。


「これもフォレストパンの種類に入れればいいじゃない!」


「種類?」


「今だって中に挟むものを選べるでしょう?」


「あ!」


 そういうことか。


 新しい料理として売るんじゃない。


 フォレストパンの新しい選択肢。


「ストベリ入り!」


「そう!」


 ママが指を立てる。


「春はストベリ入りのフォレストパンも選べます、ってするの!」


「いいかも!」


 アーリが嬉しそうに声を上げた。


「私の家のストベリ使う?」


「もちろんよ!」


「やった!」


「でも、ストベリは春だけだぞ」


 パパが言う。


「だからいいのよ」


 ママは即答した。


「春にしか食べられないんでしょう?」


「うん」


「だったら、春だけのフォレストパンにすればいいじゃない」


 なるほど。


 春になったら食べられる、ストベリ入りのフォレストパン。


 なんだかそれもいい。


「それにね」


 ママが続ける。


「これ、小さく切って食事のあとに出すのもいいと思うの」


「食事のあと?」


「だって、こんなにおいしいんだもの。ごはんを食べたあとに、少しだけ甘いものが欲しい人もいるでしょう?」


「デザート!」


「でざーと?」


 ママが首を傾げる。


「あ……食後のおやつ!」


「そう、それ!」


 ママがぱんっと手を叩く。


「食後のおやつとしても出しましょう!」


 いいかもしれない。


 フォレストパンとして一つ買うこともできる。


 Forest亭で食事をした人なら、小さく切ったものを食後のおやつとして頼むこともできる。


「旅人にもいいんじゃない?」


 アーリが言った。


「フォレストパン、旅人もよく買っていくもんね」


「うん!」


 私は頷きかけて、止まった。


「あ。でも、これは遠くまで持っていくのはだめ」


「どうして?」


「クリームが悪くなりやすいから」


 春になって、少しずつ暖かくなっている。


 この状態で長時間持ち歩くのは怖い。


「じゃあ、すぐ食べる人だけに売ればいい」


 トータが言った。


「今日食べる人とか?」


「それならいいかも!」


 パパも頷く。


「店で食べる客か、近場へ行く客向けだな」


「決まり!」


 ママが両手を叩いた。


 早い。


 相変わらず決まるのが早い。


 こうして、ストベリと泡立てたクリームを挟んだものが、フォレストパンの新しい種類に加わることになった。


 春の間だけ。


 店で食べてもいいし、すぐに食べるなら持っていってもいい。


 さらにForest亭では、食後のおやつとして小さく切ったものも出す。


「よし」


 話がまとまったところで、ママが立ち上がった。


「じゃあ行きましょう」


「どこに?」


「商業ギルド」


「……え?」


 私はママを見上げた。


「今から?」


「今からよ」


「なんで!?」


「特許!」


 ママの目が燃えている。


「こんなにおいしいもの、出したら絶対に真似されるわ!」


「まだ一個も売ってないよ!?」


「売ってからじゃ遅いでしょう!」


「えぇ……」


「フォレストパンのときだって登録したでしょう? 今回もできるか聞きに行くの!」


 そう言いながら、ママはもう外へ行く準備を始めている。


「フルコ、店は?」


「ヤトがいるでしょう?」


「俺に全部押しつける気か?」


「トータもいるわ!」


「俺まで!?」


 パパとトータの声が重なる。


 ママは聞いていない。


「ルマ!」


「はい!」


「商業ギルドに行くわよ!」


「ほんとに今から!?」


「もちろん!」


 ママが拳を握る。


「ストベリがなくなる前に、いっぱい売るんだから!」


「特許の話どこいったの!?」


「それも取る!」


 欲張りだ。


「ほら、早く!」


「待って、靴!」


 ママに急かされながら、私は慌てて外へ出る準備をする。


 後ろではアーリとシイが笑っていた。


 トータは残ったクリームを見ながら、何か別のものにも使えないか考えている。


 春のストベリから生まれた、新しいフォレストパン。


 まだ一つも売れていない。


 なのにママの中では、もう大人気商品になることが決まっているらしい。


 こうして私は、燃えに燃えたママに連れられて、再び商業ギルドへ向かうことになった。

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