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『のんびり暮らしたい宿屋の娘、今日も子育て相談を受けています』 ~元小児科看護師の異世界暮らし~  作者: 入野 カフェイン


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第67話 6歳、残高を知る。

ここまで読んでくださってありがとうございます!


「Forest亭、ちょっと好きかも」と思っていただけたら、

評価やブックマーク、リアクションをいただけるととっても嬉しいです!


皆さまからの反応を励みに、これからものんびり楽しく更新していきます。


引き続き、ルマとForest亭をよろしくお願いします!

「ルマ、お待たせ」


待ってました。


片付けを終えたママが、私の向かいの椅子に座った。


私はすぐに身を乗り出す。


「おかね!」


「第一声がそれなの?」


「だって、まってた!」


さっきからずっと気になっている。


毎日のお手伝いでもらっているお金。


それから、黒煮込みと玉ねぎをじっくり炒める方法の特許で入ってきたお金。


ほとんど使った覚えがない。


いったい、どれくらい貯まっているんだろう。


「わたし、どのくらいもってる?」


「そうねえ」


ママは少し考える。


「正確な金額は、商業ギルドで確認しないと分からないわね」


「……しょうぎょうギルド?」


なんで?


私のお金の話をしているのに。


「わたしのおかね、ここにないの?」


「全部は置いてないわよ。商業ギルドに預けてあるもの」


「…………え?」


初耳である。


「いつから?」


「いつからって……ずっとよ?」


「ずっと!?」


「ルマ、毎日お手伝いしてくれてるでしょう? そのたびに少しずつ渡しても、ほとんど使わないじゃない」


「うん」


「だから何日分かまとめて、ママが商業ギルドに預けてるの」


知らなかった。


てっきり、家のどこかに私専用のお金袋でも置いてあるものだと思っていた。


「じゃあ、とっきょのおかねは?」


「それも同じところよ」


「それも?」


「特許はForest亭の名義で登録してあるでしょう?」


「うん」


黒煮込みも、玉ねぎをじっくり炒める方法も、私個人ではなくForest亭のものとして申請している。


「特許を使ってもらって入ってきたお金は、まずForest亭に入るの。そのうち二割をルマの分にしてるわ」


「……にわり?」


思わず指を二本立てる。


「これくらい?」


「そう、それくらい」


「わたしがもらっていいの?」


「もちろんよ。最初に考えたのはルマだもの」


ママが笑った。


「でも、材料を用意したり、一緒に作ったり、お店で出したりするのはみんなでやってるでしょう? だから残りはForest亭のお金」


「なるほど」


分かりやすい。


私が二。


Forest亭が八。


Forest亭のお金なら、材料を買ったり、お店を直したり、私たちの生活にも使われる。


それなら納得だ。


「じゃあ、わたしのにわりも、しょうぎょうギルドに?」


「そうよ。特許の分はそのままルマのところに入るようにしてあるわ」


「……」


毎日のお手伝い代。


特許使用料の二割。


それが、私の知らないところでずっと貯まっている。


「……いっぱい?」


「だから正確には分からないって」


「きになる」


ものすごく気になる。


「どうやったらみれる?」


「ルマも自分のカードを作ってもらえば見られるわよ」


「カード?」


また知らないものが出てきた。


「なにそれ」


「預けてるお金を出す時に使うものよ」


ママの説明を聞いていく。


どうやら商業ギルドには、お金を預ける仕組みがあるらしい。


預けたお金はその人の名前で管理されていて、専用のカードを作れば、自分で確認したり引き出したりできる。


「でも、おとしたら?」


「拾った人には使えないわよ」


「なんで?」


「カードを作る時に、その人の魔力を登録するから」


「まりょく?」


「そう。お金を引き出す時にも魔力を流して、本人かどうか確認するの」


「おお……」


それは。


前世でいうところの――。


キャッシュカード。


しかも暗証番号じゃなくて、魔力認証。


異世界、意外としっかりしている。


「わたしもつくれる?」


「もちろん」


「つくる!」


即答した。


自分のお金なのに、自分がいくら持っているのか知らないなんて落ち着かない。


それに。


私はさっき食堂で考えていたことを思い出した。


旅ごはん。


唐揚げ。


トンカツ。


「ママ」


「今度はなあに?」


「とっきょ、しんせいしてくる!」


「……今から?」


「うん!」


どうせ商業ギルドに行くなら、全部まとめて済ませればいい。


三つが特許にできるか聞く。


カードも作る。


ついでに自分のお金がいくらあるのか確認する。


完璧だ。


「三つともForest亭の名前で申請するのよ?」


「わかってる!」


「勝手にルマの名前で取っちゃだめよ」


「しないよ!」


そこはちゃんと分かっている。


みんなで作った料理だ。


もし特許になって、誰かが使ってくれたら。


その二割が――。


「……ふふ」


「ルマ」


「なに?」


「顔」


「なに?」


「またお金の顔してる」


そんな顔はない。


たぶん。


「じゃあ、いってきます!」


「ちょっと待って」


立ち上がったところで止められた。


ママが窓の外を確認する。


「一人で行くの?」


「うん」


「道は分かる?」


「わかる!」


「大通りから外れないこと」


「はーい」


「暗くなる前に帰ってくること」


「はーい」


「寄り道は?」


「……かえりだけ」


ママが吹き出した。


「正直ねえ」


だって、行く途中に美味しそうなものがあったら、帰りに寄りたい。


私は自分の小さな財布だけ持って、Forest亭を出た。


商業ギルドまでは、もう知っている道だ。


前に特許を申請した時はパパたちと一緒だったけれど、今日は一人。


六歳になって、一人で行ける場所も少しずつ増えてきた。


こういう時は、大きくなるのも悪くない。


「いいてんきー」


急ぐ必要もないので、ぷらぷら歩く。


通りには今日もたくさんの店が並んでいた。


野菜。


果物。


パン。


雑貨。


そして。


ふわっと甘い匂いがした。


「……」


焼き菓子。


私は足を止める。


美味しそう。


ものすごく美味しそう。


財布はある。


お金もある。


いや。


正確には、もっとあるらしい。


「……かえり」


今は仕事。


先に特許。


私は焼き菓子に背を向けた。


偉い。


六歳にして、この自制心。


自分で自分を褒めてあげたい。


しばらく歩くと、商業ギルドが見えてきた。


大きな扉を開ける。


「こんにちはー」


受付にいた女性が顔を上げた。


「あら、こんにちは」


私を見る。


そのあと、私の後ろを見る。


もう一度、私を見る。


「……今日は一人?」


「はい!」


「あなた、確かForest亭の……」


「ルマです!」


「ああ、やっぱり。前に特許の申請に来た子ね」


覚えてくれていた。


話が早い。


「今日はどうしたの?」


「とっきょです」


「また?」


「はい!」


私は指を三本立てた。


「みっつ!」


「…………三つ?」


なぜか受付の人が止まった。


「三つとも、新しいもの?」


「うん!」


「一度に?」


「うん!」


何度も来るより、一回で済ませた方が楽なのに。


受付の人は少しだけ遠い目をしてから、紙を用意した。


「じゃあ……一つずつ聞かせてもらおうかしら」


「はい!」


最初は旅ごはん。


持ち歩きやすいフォレストパンとおかずを、一食分としてまとめて売っていること。


旅人や仕事中の人が、持って行って食べられること。


実際にForest亭で売っていることを説明する。


「なるほど。これは料理そのものだけじゃなくて、売り方についても確認が必要そうね」


「とっきょにできない?」


「まだ分からないわ。確認してもらいましょう」


「おねがいします!」


次は唐揚げ。


「おにくをちいさくきって、おさけとかマヌルニクであじをつけて、こなをつけて、あぶらであげます」


受付の人の筆がさらさらと動く。


そして最後。


「トンカツ!」


「それも揚げる料理なの?」


「そう!」


「唐揚げとは違うの?」


「ぜんぜんちがう!」


そこは大事だ。


私は受付台に少し身を乗り出した。


「トンカツは、おにくにこなをつけて、たまごをつけて、それからパンをこまかくしたのをつけるの」


「パンを細かく?」


「うん! それをあげると、さくさくする!」


「なるほど……」


受付の人が紙に書き込んでいく。


「唐揚げは肉そのものに味をつけて、トンカツは外側に衣をつけるのね」


「そう!」


分かってくれた。


三つの説明が終わると、受付の人が書類を揃えた。


「申請名義は、前回と同じForest亭でいいのね?」


「はい!」


「じゃあ、この三つについて登録できるか審査してもらいます。結果が出たらForest亭へ連絡するわね」


「おねがいします!」


よし。


一つ目の目的、終了。


「あ、あと!」


「まだあるの?」


受付の人がちょっと身構えた。


「とっきょじゃないよ」


「あら、そう」


なんだか安心された。


「おかねのカード、つくりたい!」


「ああ、預金カードね」


それそれ。


「わたしのおかね、ここにあるってママがいってた」


「じゃあ確認してみましょうか」


受付の人が調べてくれる。


しばらくして。


「あったわ。ルマ名義の預かり金ね」


「ほんとにあった!」


「お母様が定期的に入金してるみたい。それから、Forest亭の特許使用料からも……二割ね。ちゃんとこちらに入るようになってるわ」


本当にあった。


私の知らないところで。


私のお金が。


「カードつくれる?」


「もちろん。じゃあ、魔力を登録しましょう」


受付の人が奥から、小さな板のようなものを持ってきた。


手のひらに収まるくらいの大きさで、まだ何も書かれていない。


「ここに指を置いて、ほんの少しだけ魔力を流してね」


「すこし?」


「そう。本当に少しで大丈夫よ」


分かった。


少し。


私はカードに指を触れる。


ほんのちょっとだけ。


魔力を流した。


次の瞬間。


ぱあっ。


「わっ」


カードが思っていたより強く光った。


受付の人も目を丸くする。


「……もう大丈夫!」


「はやい」


「え、ええ。十分よ」


十分らしい。


私は慌てて魔力を止めた。


光が消える。


すると、さっきまで何もなかったカードの表面に、細かな模様が浮かび上がっていた。


「これで、このカードはルマちゃん専用よ」


「わたしだけ?」


「そう。お金を引き出す時は、今みたいに魔力を流して本人確認をするの。他の人が持っていても使えないわ」


「おお……」


すごい。


完全にキャッシュカードだ。


しかも暗証番号を忘れる心配がない。


「じゃあ」


私はカードを両手で持った。


いよいよである。


「わたしのおかね、いくら?」


受付の人が笑った。


「それが一番気になってたのね」


「うん!」


カードを専用の魔道具に差し込み、もう一度ほんの少しだけ魔力を流す。


今度はさっきより慎重に。


魔道具の表面に数字が浮かび上がった。


私はそれを見る。


「…………」


もう一度見る。


「…………これ、ぜんぶ?」


「全部、ルマちゃんのお金よ」


「……おお」


思っていたより。


ずっと多い。


毎日のお手伝い代は、一回ずつならほんの少し。


特許だって、私がもらっているのは二割だけ。


でも。


それがずっと積み重なっていた。


私は六歳。


家賃は払っていない。


食費も払っていない。


服だって買ってもらっている。


つまり。


「……もう、はたらかなくても」


「え?」


「なんでもない!」


危ない。


六歳で隠居を考えるところだった。


それに、今日申請した三つが特許になれば。


旅ごはん。


唐揚げ。


トンカツ。


そこから入ってくる使用料の二割も――。


ここに入る。


「……ふふふ」


「嬉しそうね」


「うん!」


私は新しく作ったカードを大事にしまった。


商業ギルドを出る。


外はまだ明るい。


ちゃんと約束の時間までには帰れそうだ。


そして。


帰り道。


さっきの露店の前で、私は立ち止まった。


焼き菓子。


まだある。


「……」


今日は頑張った。


一人で商業ギルドまで来た。


特許を三つも申請した。


カードも作った。


そして何より。


私には思っていたより、ちゃんとお金がある。


私は財布から硬貨を取り出した。


「これ、ひとつください!」


「あいよ!」


受け取った焼き菓子は、まだほんのり温かい。


ひと口かじる。


さくっ。


中から甘い果物の味が広がった。


「うまぁ……」


自分で働いて。


自分が考えたものからお金が入って。


それを少しずつ貯めてもらっていた。


そして今日。


初めて、自分のお金がどれくらいあるのか知った。


六歳。


仕事は増えた。


でも。


特許も増えるかもしれない。


お金も増えている。


私は焼き菓子をもうひと口かじった。


「おおきくなるのも、わるくないかも」


片手には焼き菓子。


大事にしまった財布の中には、今日作ったばかりのカード。


私はご機嫌で、Forest亭への帰り道を歩いた。

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