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『のんびり暮らしたい宿屋の娘、今日も子育て相談を受けています』 ~元小児科看護師の異世界暮らし~  作者: 入野 カフェイン


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第49話 ピクニックでのんびり…のはずだった

春になって、Forest亭の食卓にも少しずつ変化が出てきた。


冬の間は根菜や保存のきく野菜が多かったけれど、最近は柔らかな葉野菜や、鮮やかな緑色の豆を見かけることが増えた。


そんなある日の昼前。


「ルマー!」


食堂の入口から聞き慣れた声がして振り返ると、アーリが大きな籠を抱えて立っていた。


「これ、お父さんが持ってけって! 春の野菜だって!」


籠の中には、採れたばかりらしい野菜がぎっしり詰まっている。


「おお……!」


緑が多い。それだけなのに、なんだか嬉しくなる。


「ありがとう。お父さんにもお礼言っておいてね」


ママが籠を受け取ると、アーリは「また遊ぼ!」と手を振って帰っていった。


そのまま厨房へ行くと、パパが早速、野菜を一つずつ確認している。


「昼に少し使うか」


「なにつくる?」


「肉も残ってるから、それと合わせるかな」


私は籠の中を覗き、それから開け放たれた窓の向こうを見た。


青い空。暖かそうな日差し。風に揺れる裏庭の草。


「パパ」


「ん?」


「そとでたべたい」


◇


というわけで、今日のお昼ごはんはForest亭の裏庭になりました。


大きな布を敷き、その上に家族みんなで座る。


ピクニック。


……と呼ぶには、家から十秒も離れていない。


でも、外は外である。


パパが用意してくれたのは、焼いた肉と春野菜、卵料理、それからパン。いつもの昼食なのに、籠に入れて外へ持ってくるだけで少し特別に見える。


「いただきまーす!」


真っ先にパンへ手を伸ばしたリトを、トータが止めた。


「リト、野菜も食べろよ」


リトは葉野菜を一枚持ち上げる。


「たべた」


「まだ口に入れてないだろ」


「たべる」


どうやら持った時点で食べた判定らしい。


私は笑いながらパンをちぎった。


春の風が頬を撫で、鳥の声が聞こえる。Forest亭の中からは、ときどきお皿の音や、お客さんの笑い声が届いてきた。


いつものパン。いつものパパの料理。


それなのに。


「うまぁ」


「外で食べると美味しいわねえ」


ママも笑っている。


前世では、春だからといって外で昼ごはんを食べることなんてほとんどなかった。病棟の窓から桜を見て、「春だなあ」と思いながら休憩室でご飯を食べるくらい。


今は春の風に吹かれながら、家族でのんびり昼ごはんを食べている。


(……スローライフしてる)


素晴らしい。


そう思いながら、ふとパンの隣にある焼いた肉を見た。その向こうには、アーリが持ってきてくれた春野菜。


なんとなくパンの上に肉を乗せ、葉野菜を重ね、もう一枚のパンを乗せてみる。


「ルマ、なにしてるの?」


「たべやすくしてる」


トータに答えながら、そのままぱくり。


パンと肉と野菜が一度に口へ入った。


「ん! うまぁ!」


しかも食べやすい。


「それ、いいな」


トータも真似して、一口食べる。


「ほんとだ。食べやすい」


「ぼくも!」


リトもパンに肉、野菜、卵、豆、さらに肉を乗せ始めた。


「リト、それはいれすぎ」


「できる!」


持ち上げた瞬間、横から豆がころころと落ちる。


「……できてないよ」


パパも笑いながら同じものを作り、一口食べた。


「確かにいいな。肉はもう少し薄く切った方が食いやすそうだ」


「卵を挟んでも美味しそうね」


ママまで参加して、気づけば家族全員で何を挟めば美味しいのかを考え始めていた。


(……サンドイッチだ)


どう見てもサンドイッチである。


ただし、この世界にサンドイッチ伯爵がいるのかは知らない。


たぶん、いない。


「これ、なまえある?」


私が聞くと、パパが首を傾げた。


「パンに具を挟んだだけだろ?」


「でも、なまえほしい」


せっかくForest亭で作ったのだ。ただの“パンに具を挟んだもの”では少し寂しい。


「じゃあ、ルマちゃんが決めたら?」


ママに言われて考える。


Forest亭。


パン。


「……フォレストパン!」


一瞬、みんなが黙った。


「そのままじゃない?」


トータが笑う。


「いいの!」


覚えやすい。分かりやすい。


そして何より。


(ちょっと商品っぽい)


「俺は悪くないと思うぞ」


パパがフォレストパンを持ち上げた。


「中身を変えれば、何種類か作れそうだな」


「おにく!」


リトがすぐに手を挙げる。


「卵もいいな」


「春のお野菜を多めにしても美味しそうね」


「おにく!」


「リトは肉しか言ってないぞ」


「おにく、すき!」


知ってる。


私は手元のフォレストパンを見た。


ただ、外で昼ごはんを食べたかっただけだった。


春の風が気持ちよさそうで、みんなで食べたら楽しそうで。


それだけだったのに。


Forest亭に、新しい食べ物が一つ増えた。


「フォレストパン……」


もう一度言ってみる。


うん。


やっぱり悪くない。


「ルマ。それ食べないなら俺が食べるぞ」


トータが私の手元を見ている。


私は慌ててフォレストパンを胸元へ引き寄せた。


「だめ! ルマの!」


そのまま大きな口でかぶりつく。


「うまぁ」


春の風が、裏庭を通り抜けていく。


今日はちゃんと、スローライフをしている。


新しいものができたけれど。


これは仕事じゃない。


たぶん。


……たぶん。

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