第39話 雪まつり
雪が降った。
それも、たっぷり。
朝から降り続いた雪は昼前には止み、街の屋根も道も真っ白になっていた。
こうなると。
子どもが家の中にいる理由なんてない。
「ルマー!」
Forest亭の前から声がする。
外へ飛び出すと、そこにはアーリとシイ。
そして今日は、その後ろにもぞろぞろと人がいた。
トータ。
ナオネ。
コルン。
シーペ。
サミル。
「みんないる!」
「雪降ったからな!」
コルンが当然のように答える。
その手には、すでに雪玉。
嫌な予感。
「ルマ、行こう!」
アーリに手を引かれる。
「どこ?」
「広場!」
こうして。
幼馴染、大集合。
今日はみんなで雪遊びをすることになった。
◇
広場には、まだ誰も踏んでいない雪がたっぷり残っていた。
シイが真っ先に飛び込む。
「うおー!」
「シイ!」
止める間もなく、雪の上へダイブ。
ぼふっ。
「つめたっ!」
「そりゃそうでしょ」
アーリが呆れている。
私は足元の雪を丸めながら考えた。
雪合戦は、この前やった。
雪だるまも作った。
だったら――。
「ねえ!」
全員がこっちを見る。
「もっとすごいの、つくらない?」
「すごいの?」
「おっきい雪のぞう!」
一瞬、静かになった。
「ぞう?」
しまった。
そうじゃない。
「ぞうじゃなくて……雪でできた、でっかいやつ!」
「雪像ってこと?」
トータが言う。
「それ!」
通じた。
「普通の雪だるまじゃなくて、ほんものみたいなの!」
コルンがにやっとする。
「いいじゃん。でっかいの作ろうぜ!」
食いついた。
「何作る?」
サミルが聞く。
みんなで少し考えて。
「ドラゴン!」
シイが叫んだ。
「それだ!」
コルンも乗った。
男子、ドラゴン好きすぎない?
……いや。
私も好きだけど。
「じゃあドラゴン!」
決定。
◇
まずは雪集め。
普通なら、ここからが大変だ。
でも。
私たちには魔法がある。
「コルン! いっぱい雪あつめて!」
「任せろ!」
コルンが腕を振り上げる。
「待って」
シーペが静かに止めた。
「何?」
「もう少し離れてやった方が――」
ブワァァァッ!!
「きゃああ!」
「うわっ!」
「コルン!」
風と一緒に雪が舞い上がる。
雪。
雪。
雪。
目の前が真っ白。
そして。
どさどさどさっ!
大量の雪が、私たちの頭の上に降ってきた。
「…………」
全員、真っ白。
コルンだけが立っている。
「……ちょっと強かった」
「ちょっとじゃない!」
トータの声が広場に響いた。
「だから離れた方がいいって言ったのに」
シーペが顔についた雪を払いながら呟く。
「でも雪は集まっただろ!」
確かに。
目の前には、大量の雪。
「コルンは雪あつめだけね」
私が言う。
「なんでだよ!」
「こまかいの、ぜったいダメ」
「できるって!」
「できないと思う」
シーペまで言った。
「シーペ!」
「だって今の見たし」
正論である。
◇
集まった雪を、みんなで固める。
ここはシーペが大活躍だった。
「下をもっと広くした方がいいよ」
「なんで?」
「上にいっぱい乗せたら崩れるから」
コルンが雪の塊を持ち上げる。
「大丈夫だって!」
「大丈夫じゃない」
「いける!」
「崩れるよ」
「いけるって!」
どさっ。
「ほら!」
乗った。
次の瞬間。
ずるっ。
「あ」
どしゃっ。
「…………」
シーペがコルンを見る。
「だから言ったのに」
「……今のは置き方が悪かった」
「コルンの?」
「トータの」
「僕!?」
どうしてそうなった。
私は水魔法をほんの少しだけ使って、雪を固める。
水が多すぎるとべちゃべちゃになるから、少しずつ。
浮遊魔法で雪の塊を持ち上げて。
「ここ?」
「もうちょっと右」
トータが言う。
「こっち?」
「行きすぎ」
「じゃあ――」
「ルマ、それ大丈夫?」
アーリが心配そうに私を見る。
「だいじょうぶ!」
「さっきからぐらぐらしてるよ」
「だいじょ――」
ぐらっ。
「ルマ!」
「わあ!」
サミルが慌てて雪の塊を支えてくれた。
「落ちるかと思った……」
「ありがと」
「重いのは一緒にやろうよ」
「……はい」
怒られた。
◇
大きな身体ができたら、次は顔。
ここでナオネがしゃがみ込んだ。
「ちょっと貸して」
「ナオネもやる?」
「ここまで作ったんだから、顔が変だったら嫌だろ」
そう言って、雪を少しずつ削り始める。
「耳はもうちょい後ろだな」
ざく。
「目は……このへんか」
さくさく。
さっきまでコルンと一緒になって雪の塊を運んでいた人とは思えない。
指先の動きが細かい。
「ナオネ、うまっ!」
私が言うと、ナオネは顔も上げない。
「こんくらい普通だろ」
「ナオネ、こういうの昔から上手いよ」
トータが横から言った。
「うるさい。トータはそっち削って」
「褒めただけじゃん」
「いいから」
トータが笑いながら反対側へ回る。
なんか。
慣れてる。
「俺もやる!」
コルンが手を伸ばした。
ナオネが即座に振り返る。
「触んな!」
「なんでだよ!」
「あんたがやったらドラゴンの顔なくなるだろ!」
「なくならねえよ!」
「さっき雪全部吹き飛ばしただろ!」
「……あれは風!」
「魔法使うなって言ってんの!」
私は思わず笑った。
◇
それからも。
シイは雪を運び。
アーリは細かい雪を集め。
サミルは私たち年下組を手伝い。
シーペは崩れそうな場所を見つけて直す。
トータとナオネは形を整える。
コルンは――。
「もっと雪いる?」
「いる!」
「任せろ!」
「待って! こっち向けないで!」
「分かってるって!」
ブワッ!
「きゃあ!」
「コルンーー!」
……まあ。
いっぱい雪を集めた。
そして夕方。
「できた……!」
広場の真ん中。
私たちの前には、大きな雪のドラゴンが立っていた。
太い足。
長い尻尾。
大きな翼。
そしてナオネが作った、思っていた以上に格好いい顔。
「すご……」
アーリが見上げる。
「俺たちが作ったんだぞ!」
コルンが胸を張る。
「半分くらい壊しかけてたけどね」
シーペが言う。
「壊してない!」
「三回崩した」
「数えてたのかよ!」
みんなが笑う。
私は雪のドラゴンを見上げた。
雪だるまも楽しかったけど。
これは。
もっとすごい。
魔法を使って。
失敗して。
怒られて。
また作って。
みんなで作った。
「ねえ」
私は言った。
「また雪ふったら、つぎも作ろ!」
「いいよ!」
「次はもっとでかいやつ!」
「コルンは大きくしなくていい」
「なんでだよ、シーペ!」
笑い声が、白い広場に響いた。
次の日。
私はみんなと一緒に、もう一度ドラゴンを見に行った。
すると。
「……あれ?」
ドラゴンの足元に、小さな雪のクマがいた。
昨日はなかった。
その隣には、小さな雪だるま。
少し離れたところでは、知らない子どもたちが一生懸命雪を固めている。
「増えてる!」
シイが駆け寄る。
どうやら昨日、私たちが作っているところを見ていたらしい。
「じゃあ、ぼくも作る!」
「わたしも!」
あっちで一つ。
こっちでも一つ。
大きなドラゴンの周りに、小さな雪像が増えていく。
私はそれを見ながら笑った。
「いっぱいになりそう」
アーリが言う。
「うん!」
雪が溶けるまでの、ほんの少しの間だけ。
街の広場には。
子どもたちが作った、小さな雪の国ができた。




