第37話 多けりゃ多いほどいい
新しい年の朝。
目を覚ました私は、ぱちりと目を開けた。
「……きた」
布団の中から窓を見る。
外はもう明るい。
昨日は遅くまでForest亭を手伝って、そのあと家族でご飯を食べた。
正直、まだ眠い。
もう少し寝ていたい。
だけど。
今日だけは、寝坊している場合ではない。
「きたきた……今年もきた!」
勢いよく布団を蹴飛ばした。
新年。
この世界で迎える、六回目のお正月。
そして五歳になった私にとって、新年といえば――。
お菓子である。
◇
「おはよー!」
階段を駆け下りる。
「あら、おはようルマちゃん」
ママが振り返った。
「今日は起きるの早いのね」
「うん!」
「昨日あんなに疲れてたのに」
ふふふ。
ママ。
分かっていない。
今日は特別なのだ。
カラン。
ちょうどそのとき、Forest亭の扉が開いた。
「新しい年に、幸せを!」
近所の子どもたちだ。
きた。
これだよ、これ。
「あなたたちにも幸せを」
ママが用意していた小さな包みを、一人ずつ手渡す。
「ありがとう!」
子どもたちは嬉しそうにそれを袋へ入れ、次の家へ走っていった。
私はその背中を見送る。
この街では、新しい年の最初の日に、子どもたちが家や店を回る。
『新しい年に、幸せを』
そう挨拶すると、大人たちは、
『あなたにも幸せを』
と返して、お菓子や果物をくれるのだ。
昔から、年の初めに訪れる子どもは、その家へ一年の幸運を運んでくると言われているらしい。
そのお礼に食べ物を渡していたのが始まりなのだとか。
初めて聞いたときは、
(ハロウィンとお正月が合体してる……)
と思った。
でも。
この世界で何度か新年を迎えた今なら分かる。
これはハロウィンではない。
ちゃんとした新年の風習だ。
新しい一年、お互いが幸せに過ごせますように。
そんな願いが込められた、素敵な文化。
そして何より――。
合法的に大量のお菓子をもらえる日である。
五歳児の私にとって、これ以上素晴らしい日はそうそうない。
「ルマちゃん」
ママがじっと私を見る。
「なに?」
「顔が悪いわよ」
「……?」
五歳児にそんな顔はありません。
カラン!
再び扉が開いた。
「ルマー!」
「行こー!」
アーリとシイだ。
二人とも、すでに肩から袋を提げている。
「きた!」
私は椅子から飛び降りた。
「ママ! ふくろ!」
「はいはい。用意してあるわよ」
さすがママ。
分かっていらっしゃる。
渡された袋を肩から提げる。
去年の経験から学んだことがある。
小さい袋では駄目だ。
途中で入らなくなる。
今年の袋は――大きい。
「ルマ、それ大きくない?」
シイが私の袋を見る。
「だいじょうぶ」
「何が?」
「いっぱいはいる」
「……お菓子?」
「うん」
アーリが笑った。
「ルマ、今年もいっぱい回る気だ!」
「もちろん!」
去年の私と同じだと思ってもらっては困る。
この一年。
私は成長した。
五歳になった。
そして街の道も、去年より覚えた。
つまり。
去年より効率よく回れる。
「じゃあ行ってくる!」
「遠くまで行きすぎないのよー!」
「はーい!」
三人でForest亭を飛び出す。
冷たい空気が頬に当たる。
通りには、私たちと同じように袋を持った子どもたちがたくさんいた。
さあ。
新しい一年の始まりだ。
今年もみんなに、幸せを届けよう。
そして。
そのお礼は、ありがたくいただこう。




