↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『のんびり暮らしたい宿屋の娘、今日も子育て相談を受けています』 ~元小児科看護師の異世界暮らし~  作者: 入野 カフェイン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/82

第29話 Forest亭に秋が来た!

 朝、Forest亭の扉を開けた瞬間。


「さむっ」


 思わず肩をすくめた。


 少し前まで、外に出れば暖かい空気がまとわりついていたのに、今朝の風はひんやり冷たい。


 道の端には、赤や黄色に染まった葉っぱ。


 風が吹くたび、カサカサと乾いた音を立てて転がっていく。


(秋だなぁ)


「ルマー!」


「はーい!」


 振り返ると、ママが小さな籠を持っていた。


「おつかいお願いしてもいい?」


「おつかい?」


「野菜店まで。今日は一人で行ってみる?」


「ひとりで?」


「もう五歳だもの。できそう?」


「できる!」


 即答した。


(前世三十歳をなめないでいただきたい)


「ふふ。じゃあお願いね」


 ママから籠とお金、それから小さな紙を受け取る。


 紙には、じゃがいも、にんじん、玉ねぎの絵。


 その横に数が書かれている。


(おつかいメモ……かわいい)


 前世ならスマホに入力していた。


 今世では、ママが描いたじゃがいもである。


「いってきまーす!」


「いってらっしゃい。寄り道しすぎないでね!」


「はーい!」



     ◇ ◇ ◇



 一人で歩く町は、いつもと少し違って見えた。


 軒先には薪を積んでいる家。


 市場には、丸々とした秋の野菜。


 どこかから、甘い焼き菓子のような匂いも漂ってくる。


 カサッ。


 足元で葉っぱを踏む。


「……きれい」


 真っ赤な葉っぱを一枚拾った。


(ママにあげよ)


 その近くには、小さな茶色い実が落ちている。


 丸い実の上に、帽子みたいな殻。


「……どんぐり?」


「あ、それコロの実だよ」


 近くにいた子が教えてくれた。


「コロの実?」


「うん!」


「へぇ……」


 手のひらの上で転がしてみる。


(どう見ても、どんぐり)


 少し先には、鱗みたいなものが重なった大きな実も落ちていた。


「これは?」


「トゲマツの実!」


(そして、こっちは松ぼっくり)


 異世界にも似たものがあるらしい。


「かわいい……」


 一個。


 二個。


 赤い葉っぱも。


 黄色い葉っぱも。


「あ、こっちも!」


 しゃがみ込んで――。


「…………」


 手に持った籠を見る。


(おつかい)


「やば」


 危うく目的を忘れるところだった。



     ◇ ◇ ◇



「こんにちはー!」


「あら、ルマちゃん。今日は一人?」


「うん!」


「すごいじゃない」


「えへへ」


 ちょっとだけ胸を張る。


「これください!」


 ママのメモを見ながら、野菜を一つずつ籠へ入れてもらう。


 お金も自分で渡した。


「はい。おつかい成功ね」


「ありがとう!」


(余裕です)


 そう思ったのは、店を出るまでだった。


「……重っ」


 野菜の入った籠が思った以上に重い。


(前世三十歳)


 持ち上げる。


(現在五歳)


 腕がぷるぷるする。


(身体能力がついてこない)


「……魔法使お」


 籠に意識を集中させる。


 ふわっ。


「おお」


 少しだけ籠が浮いた。


 完全に浮かせると危ないから、軽くなる程度。


「これならいける!」


 私はゆっくりForest亭へ向かった。



     ◇ ◇ ◇



「ただいまー!」


「おかえり!」


 ママが笑顔で迎えてくれる。


「できた!」


「ちゃんと買えた?」


「もちろん!」


 籠を渡して、それからポケットをごそごそ。


「あと、これ」


「まあ」


 赤い葉っぱと、コロの実。


「ママにおみやげ!」


「ありがとう。綺麗ね」


「まだあるよ!」


 拾ってきた木の実をテーブルに並べていると。


「なにー?」


 リトがやってきた。


 コロの実を見た瞬間、目が輝く。


「いっぱい!」


「これで飾り作ろっか」


「つくる!」


 細い枝と紐を用意して、赤や黄色の葉っぱを並べる。


(こういうの、前世でもあったなぁ)


 丸く組んだ枝に葉っぱを付けて。


 木の実を飾って――。


「リト、それ貸して」


「いや」


「じゃあ、それそこに付ける?」


「ここ!」


 リトは大きな実、小さな実、大きな実、小さな実と順番に並べていく。


「……またやってる」


「じゅんばん!」


「はいはい」


(やっぱり、こういうの好きなんだなぁ)


 出来上がった飾りは、思っていたよりずっと可愛かった。


「できたー!」


「できた!」


 二人でママのところへ持っていく。


「ママー! 見て!」


「リトつくった!」


「ルマも作りました!」


「まあ! 可愛い!」


 ママがForest亭の入口に飾ってくれた。


 赤い葉。


 黄色い葉。


 コロの実とトゲマツの実。


 いつもの入口なのに、それだけで少し違って見える。


 そこへ、お客さんが入ってきた。


「お、秋らしくていいな」


「!」


 秋らしい。


 その言葉が、頭に残った。


(そっか)


 春には、春のもの。


 夏には、夏のもの。


 秋には、秋のもの。


 そして冬には、冬のもの。


(季節ごとにForest亭を変えたら、楽しそう)


「今日は秋の野菜でスープにするか」


 厨房からパパの声がする。


「それも秋!」


「それも?」


「飾りも秋! ごはんも秋!」


「なんだそれ」


 パパが笑った。


 でも。


(いいかも)


 季節ごとに飾りが変わって。


 その季節の美味しいものが食べられる。


 何度来ても、少しずつ違うForest亭。


(……楽しそう!)


 また一つ。


 やってみたいことが増えた。



     ◇ ◇ ◇



 その日の夕食。


 テーブルには、私が買ってきた野菜がたっぷり入った温かいスープ。


「ルマが買ってきてくれたお野菜、美味しいわ」


「ほんと?」


「おいちー!」


 リトも大きな口で食べている。


「ルマもおいちー?」


「うん。おいちー」


 窓の外では、冷たい風に赤い葉っぱが舞っていた。


 入口には、私とリトが作った秋の飾り。


 今日、私は一人でおつかいをした。


 前世の私なら、なんでもないこと。


 でも。


 五歳の私にとっては、ちょっとした冒険だった。


 自分で歩いて。


 自分で買って。


 自分で帰ってきた。


(ひとりでできた)


 温かいスープをもう一口。


 自分で買ってきた秋の味は。


 いつもより、ちょっとだけ美味しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。