第28話 弟リトは天才!?
昼の忙しさが落ち着いたForest亭。
「あー、外れたか」
パパが食堂で使っている小さな木箱を持ち上げた。
「こわれた?」
「ああ。留め具が外れたみたいだ。あとで直すよ」
見ると、箱の端から細い木片が外れている。
「リトも!」
声の方を見ると、リトが目を輝かせていた。
「リトもする!」
「これは遊ぶものじゃないぞ」
「いや!」
「壊れてるから危ないんだ」
「リトするぅ!」
(始まった)
最近のリトは何でも自分でやりたがる。
「じゃあ、ねーねと見る?」
「なおす!」
「……見るところから始めようか」
「うん!」
(交渉成立……なのか?)
パパが苦笑しながら、木箱と外れた部品を床に置いた。
「触るなら気をつけろよ」
「はーい!」
私とリトが並んでしゃがむ。
「これが外れたんだって」
「これ?」
「うん。たぶん、ここじゃない?」
リトが木片を手に取り、私が指差した場所に当てる。
「あれ?」
合わない。
「反対じゃない?」
「いや」
「イヤじゃなくて――」
「こっち」
リトが木片をくるりと裏返した。
ぴたり。
「…………」
「できた!」
「……合ってるね」
(まあ、これは偶然かな)
ところがリトは木箱をくるくる回し始めた。
外れたところを見て。
反対側を見て。
また外れたところを見る。
「こっち」
リトが壊れていない反対側を指差した。
「そっちは壊れてないよ?」
「これ、いっしょ」
「え?」
パパがしゃがみ込む。
「ああ……なるほど」
「なに?」
「反対側を見たら、どう付いてたか分かるな」
「…………」
外れた部分と、まだ壊れていない部分。
確かに同じ作りだ。
(今、見比べた?)
「リト、誰かに教えてもらった?」
「?」
「なんでもない」
本人はもう、床に転がった留め具に夢中だった。
◇ ◇ ◇
「じゃあ父さんが直すから、これ持っててくれ」
「うん!」
さすがに修理そのものを二歳児に任せるわけにはいかない。
でもリトは、パパの隣から離れようとしなかった。
「留め具、三つ取ってくれるか?」
「みっつ?」
「ああ」
「いち、に、さん!」
三つ取って、パパの手に乗せる。
「ありがとう」
パパがそれを使う。
「あと二ついるな」
「ふたつ!」
リトが残った留め具を見る。
そして――二つ取った。
「はい!」
「お、ありがとう」
「…………」
(今、数えなかった?)
見ただけで二つ取ったような。
「リト、これ何個?」
試しに残っていた留め具を四つ並べる。
リトがちらっと見る。
「よん!」
「……そうだね」
二歳。
数を覚え始める時期ではある。
これくらいできる子だっているだろう。
(気にしすぎかなぁ)
「よし、できた」
パパが木箱を持ち上げた。
「なおった!」
「ああ」
「リトなおした!」
「ほとんど父さんだけどな」
「リト!」
「はいはい。リトも直した」
「えへへ!」
「じゃあ片付けようか」
「いや!」
「なんで!?」
(都合のいいイヤイヤ期だなぁ)
◇ ◇ ◇
その日の夜。
「ねーね、みて!」
「なに?」
リトの前に、積み木が並んでいた。
「おうち!」
「おー、上手!」
「リトつくった!」
「すごいすごい」
頭を撫でながら、何気なく積み木を見る。
「…………」
右側に、大きな積み木。
左側にも、同じ大きさ。
その上には細長い積み木が一つずつ。
真ん中には、小さな四角。
(……左右、ほとんど同じだ)
「リト」
「なに?」
「なんでこっちにも同じの置いたの?」
「いっしょ!」
「同じがいいの?」
「うん!」
昼間の木箱が頭に浮かぶ。
外れた木片と、反対側。
同じ形。
同じ位置。
留め具の数。
(この子……)
もしかして。
形を見たり。
数を見たり。
物がどう組み合わさっているのか考えたり。
そういうのが得意なのかな。
「ねーね、みて!」
「ん?」
「これも!」
リトが積み木を一つ乗せる。
ぐらっ。
「あ」
ガラガラガラ――!
「…………」
「…………」
リトの顔が歪む。
「いやぁぁぁぁ!」
「あー! 大丈夫! また作ろ!」
「こわれたぁぁ!」
(……まあ、まだ二歳だもんね)
泣きながら抱きついてくるリトを抱きしめる。
「もう一回作ろっか」
「……つくる」
「ねーねも手伝う」
「リトする!」
「はいはい」
涙を拭いたリトは、さっそく積み木を拾い始めた。
形を見て。
比べて。
数えて。
組み合わせる。
それが、この子にとっては楽しいのかもしれない。
料理が好きなトータ。
物を作るのが好きそうなリト。
そして私。
まだ、それぞれが好きなものを見つけ始めたばかりだ。
「できた!」
「おおー!」
「すごい?」
「すごい!」
「えへへ!」
嬉しそうに笑うリトにつられて、私も笑った。
この小さな手が。
いつか何を作るようになるのか。
それを見るのが、ちょっと楽しみになった。




