第21話 5歳の実力は、こんなもんです(ドヤっ)
ある日の朝。
「ルマ、おつかいお願いしてもいい?」
ママのその一言に、私はぴたりと動きを止めた。
「……おつかい?」
「そう。野菜店でいくつか買ってきてほしいの」
そう言って差し出された、一枚の紙。
「…………」
見覚えがある。
一年前。
同じように紙を渡され、意気揚々とForest亭を飛び出した私。
そして途中で気づいた。
(文字、読めないんだった)
結局アーリに全部読んでもらった、あのおつかい。
しかし。
「ママ」
「なあに?」
「まかせて!」
私は胸を張って紙を受け取った。
(今の私は、あの頃の私とは違う)
五歳。
文字も読めるようになった。
お金だって少しずつ分かる。
魔法だって前より上手になった。
(もはや敵なしでは?)
◇ ◇ ◇
Forest亭を出て、まずは紙を開く。
「えーっと……」
指で文字を追う。
「たまねぎ、三つ」
読める。
「にんじん、五本」
読める!
「葉野菜……二つ」
読める!!
(ふふふ)
思わず口元が緩む。
たった一年。
されど一年。
(成長したな、私!)
前世では文字が読めるなんて当たり前だった。
でも、一度できなくなってから、もう一度できるようになる。
これが意外と嬉しい。
少し浮かれながら歩いていると、見慣れた野菜店が見えてきた。
◇ ◇ ◇
「こんにちはー!」
「あら、ルマちゃん。いらっしゃい」
「ルマ!」
店の奥からアーリが顔を出した。
「今日はおつかい?」
「そう!」
「また紙?」
「あります!」
私は得意げに紙を広げる。
「でも今日はね――」
ちらり。
アーリを見る。
「読めます!」
「ほんと?」
「見てて!」
私は紙を指差した。
「たまねぎ、三つ!」
「うん」
「にんじん、五本!」
「うん!」
「葉野菜、二つ!」
「すごい! ルマ、読めるようになったんだ!」
「ふふん!」
胸を張る。
一年前はアーリがいなかったら、おつかいすらできなかった。
それが今日は、自分で読めている。
「お勉強したんだね」
「いっぱいした!」
遊びに行こうとしてママに捕まった日々が報われた。
必要な野菜を籠に入れてもらい、お金を渡す。
受け取ったお釣りも、ちゃんと確認する。
(完璧)
「ありがとうございました!」
「気をつけて帰ってね」
「はーい!」
籠を抱え、私は意気揚々と店を出た。
◇ ◇ ◇
帰り道。
足取りは軽い。
(完璧だった)
紙も読めた。
買うものも間違えなかった。
お金も払えた。
(これが五歳の実力ですよ)
前回のおつかいとは大違いである。
私はもう一度、紙を取り出した。
「たまねぎ、にんじん、葉野菜……」
全部ある。
「それから……」
紙の一番下。
「た、ま……ご」
「…………」
足が止まった。
籠を見る。
たまねぎ。
にんじん。
葉野菜。
「…………」
もう一度、紙を見る。
たまご。
「…………ない」
読める。
今の私には、ちゃんと読める。
だからこそ分かる。
(忘れてる!!!)
「たまごー!」
慌てて来た道を引き返した。
◇ ◇ ◇
「ただいまぁ……」
「おかえり」
Forest亭へ戻った頃には、ちょっと疲れていた。
「どうだった?」
ママが籠を受け取る。
「…………完璧でした」
「本当に?」
「途中までは」
「途中?」
「なんでもないです」
ママが不思議そうな顔をしながら、中身を確認していく。
「たまねぎ、にんじん、葉野菜……たまご」
全部ある。
「うん、ちゃんと買えてる。ありがとう、助かったわ」
「……うん!」
その言葉を聞いたら、疲れが少し飛んだ。
一年前。
文字すら読めなかった私。
紙を持って町へ出たはいいものの、結局アーリに助けてもらった。
でも今日は。
自分で読んだ。
自分で選んだ。
自分でお金を払った。
たまごは忘れたけど。
(ちゃんと戻ったからセーフ)
身長が少し伸びた。
文字が読めるようになった。
魔法も少し上手になった。
変わったことなんて、それくらいだと思っていた。
でも。
(ちゃんと大きくなってるんだなぁ、私)
前世では、大人になってから「成長した」なんて実感することは、あまりなかった。
できなかったことが、できるようになる。
誰かに「助かった」と言ってもらえる。
それが、こんなに嬉しいなんて。
「ルマ?」
「なに?」
「なんでニヤニヤしてるの?」
「してない!」
「してるわよ」
「してないもん!」
笑いながら逃げる私を見て、ママも笑った。
二度目の子ども時代。
できないことは、まだまだたくさんある。
でも――。
(案外、悪くないかも)
五歳の私は、昨日よりほんの少しだけ。
できることが増えました。




