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『のんびり暮らしたい宿屋の娘、今日も子育て相談を受けています』 ~元小児科看護師の異世界暮らし~  作者: 入野 カフェイン


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20/82

第20話 初給料は感謝の気持ちをこめて

ここまで読んでくださってありがとうございます!


「Forest亭、ちょっと好きかも」と思っていただけたら、

評価やブックマーク、リアクションをいただけるととっても嬉しいです!


皆さまからの反応を励みに、これからものんびり楽しく更新していきます。


引き続き、ルマとForest亭をよろしくお願いします!

 あれから数日。


「ヤトー! じゃがいものやつ、二つ!」


「こっちも一つ!」


「酒も追加で!」


 夕方のForest亭に、今日も元気な声が飛び交っている。


 私はパン籠を抱えながら、その声を聞いていた。


(ふふふ)


 じゃがいもにチーズと香草、それから胡椒を少し多めに入れて焼いた、あの料理。


 どうやら、すっかりForest亭の人気者になったらしい。


(酒飲みの好みは、世界が変わっても同じらしい)


 五歳児には関係のない話ですけどね。



     ◇ ◇ ◇



 その日の営業が終わったあと。


「ルマ」


「ん?」


 厨房からパパに呼ばれた。


「手、出してみろ」


「こう?」


 小さな手のひらを差し出す。


 チャリン。


 そこに、小さな硬貨が数枚落ちてきた。


「……なにこれ?」


「お前の取り分」


「とりぶん?」


「あの料理、お前が考えただろ。よく出てるからな」


「…………」


 手のひらの硬貨を見る。


(お給料……?)


「これ、ルマのお金?」


「ああ。好きに使え」


「……!」


(今世、初給料!!)


 五歳にして再就職に成功しました。


「やったー!」


「そんなに嬉しいか?」


「うれしい!」


 何を買おう。


 お菓子もいい。


 本も欲しい。


 可愛いものだって――。


「ありがとうございました! またどうぞー!」


 食堂からママの声が聞こえた。


 最後まで残っていた宿泊客を見送ったらしい。


「ふぅ……」


 ママが小さく息を吐きながら、テーブルの上の食器を片付け始める。


 朝からずっと動きっぱなし。


 注文を取って、料理を運んで、お客さんと話して。


 それでも扉が開けば、いつも笑顔で「いらっしゃいませ」と言う。


(……ママにしようかな)


 手のひらの硬貨を、ぎゅっと握った。



     ◇ ◇ ◇



 翌日。


「パパ」


「なんだ?」


「ちょっときて」


「仕込み中なんだけど」


「だいじなお話です」


「……はいはい」


 パパを連れて向かったのは、町の小さな雑貨店。


 店先には布や小物、髪飾りなんかが並んでいる。


「あれ」


 私が指差したのは、小さな花飾りのついた髪留めだった。


 派手ではないけれど、光が当たると飾りがきらっと輝く。


「ママに似合うと思う」


「……そうだな」


「ルマのお給料で買う!」


 昨日もらった硬貨を全部出す。


 ひとつ、ふたつ。


 …………。


「たりない」


「だろうな」


「…………」


 初給料、早くも予算不足である。


 どうしようかと硬貨を見つめていると、


 チャリン。


 パパが私の手のひらに硬貨を置いた。


「これで足りるだろ」


「いいの?」


「ああ」


「でも、ルマがママに――」


「俺も混ぜてくれ」


「……!」


 パパを見る。


「じゃあ、パパとルマから?」


「そうだな」


「いっしょ!」


「ああ」


 なんだろう。


 自分だけで買えなかったのに、さっきより嬉しくなった。



     ◇ ◇ ◇



「ママー!」


 Forest亭に戻るなり、私はママのところへ走った。


「どうしたの?」


「これ!」


 小さな包みを差し出す。


「私に?」


「うん! パパとルマから!」


「ヤトと?」


 ママがパパを見る。


「まあな」


「開けて!」


「はいはい」


 包みを開いたママの手が止まった。


「……髪留め?」


「ママに似合うかなって!」


「これ、どうしたの?」


「ルマのおきゅうりょうで買った!」


「初めてもらったお金でしょう?」


「うん!」


「おい、俺も出したぞ」


「ちょっとだけ!」


「半分くらい出した」


「それは言わなくていいの!」


 ママが吹き出した。


「ふふっ。ありがとう、二人とも」


 さっそく髪をまとめて、買ったばかりの髪留めをつける。


「どう?」


「かわいい!」


「似合ってる」


 パパがさらっと言った。


 ママが少しだけ目を丸くする。


「……ありがとう」


(おお)


 なんだかこっちまで照れる。


「大事にするね」


 そう言って笑うママを見たら、胸の奥がぽかぽかした。



     ◇ ◇ ◇



 その日の夕方。


「フルコ、今日は珍しいのつけてるな」


 常連のおじさんが、ママの髪留めに気づいた。


「いいでしょう?」


 ママが嬉しそうに笑う。


「ルマが初めて稼いだお金で買ってくれたの。ヤトと一緒に」


「ママ!」


「おお! そりゃ大事にしないとな!」


「そうなの!」


「そこまで言わなくていいの!」


 恥ずかしくなって、私は厨房へ逃げ込んだ。


「言われてるぞ」


「パパも止めてよ!」


「嬉しいんだろ」


「……まあ、いいけど」


 厨房からそっと食堂を見る。


 ママは笑いながらお客さんと話している。


 髪には、私とパパが選んだ髪留め。


(……買ってよかったな)


 前世で初めてのお給料を何に使ったのかは、もうよく覚えていない。


 でも。


 今世で初めて稼いだお金の使い道は――。


 たぶん、ずっと忘れない。

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