第20話 初給料は感謝の気持ちをこめて
ここまで読んでくださってありがとうございます!
「Forest亭、ちょっと好きかも」と思っていただけたら、
評価やブックマーク、リアクションをいただけるととっても嬉しいです!
皆さまからの反応を励みに、これからものんびり楽しく更新していきます。
引き続き、ルマとForest亭をよろしくお願いします!
あれから数日。
「ヤトー! じゃがいものやつ、二つ!」
「こっちも一つ!」
「酒も追加で!」
夕方のForest亭に、今日も元気な声が飛び交っている。
私はパン籠を抱えながら、その声を聞いていた。
(ふふふ)
じゃがいもにチーズと香草、それから胡椒を少し多めに入れて焼いた、あの料理。
どうやら、すっかりForest亭の人気者になったらしい。
(酒飲みの好みは、世界が変わっても同じらしい)
五歳児には関係のない話ですけどね。
◇ ◇ ◇
その日の営業が終わったあと。
「ルマ」
「ん?」
厨房からパパに呼ばれた。
「手、出してみろ」
「こう?」
小さな手のひらを差し出す。
チャリン。
そこに、小さな硬貨が数枚落ちてきた。
「……なにこれ?」
「お前の取り分」
「とりぶん?」
「あの料理、お前が考えただろ。よく出てるからな」
「…………」
手のひらの硬貨を見る。
(お給料……?)
「これ、ルマのお金?」
「ああ。好きに使え」
「……!」
(今世、初給料!!)
五歳にして再就職に成功しました。
「やったー!」
「そんなに嬉しいか?」
「うれしい!」
何を買おう。
お菓子もいい。
本も欲しい。
可愛いものだって――。
「ありがとうございました! またどうぞー!」
食堂からママの声が聞こえた。
最後まで残っていた宿泊客を見送ったらしい。
「ふぅ……」
ママが小さく息を吐きながら、テーブルの上の食器を片付け始める。
朝からずっと動きっぱなし。
注文を取って、料理を運んで、お客さんと話して。
それでも扉が開けば、いつも笑顔で「いらっしゃいませ」と言う。
(……ママにしようかな)
手のひらの硬貨を、ぎゅっと握った。
◇ ◇ ◇
翌日。
「パパ」
「なんだ?」
「ちょっときて」
「仕込み中なんだけど」
「だいじなお話です」
「……はいはい」
パパを連れて向かったのは、町の小さな雑貨店。
店先には布や小物、髪飾りなんかが並んでいる。
「あれ」
私が指差したのは、小さな花飾りのついた髪留めだった。
派手ではないけれど、光が当たると飾りがきらっと輝く。
「ママに似合うと思う」
「……そうだな」
「ルマのお給料で買う!」
昨日もらった硬貨を全部出す。
ひとつ、ふたつ。
…………。
「たりない」
「だろうな」
「…………」
初給料、早くも予算不足である。
どうしようかと硬貨を見つめていると、
チャリン。
パパが私の手のひらに硬貨を置いた。
「これで足りるだろ」
「いいの?」
「ああ」
「でも、ルマがママに――」
「俺も混ぜてくれ」
「……!」
パパを見る。
「じゃあ、パパとルマから?」
「そうだな」
「いっしょ!」
「ああ」
なんだろう。
自分だけで買えなかったのに、さっきより嬉しくなった。
◇ ◇ ◇
「ママー!」
Forest亭に戻るなり、私はママのところへ走った。
「どうしたの?」
「これ!」
小さな包みを差し出す。
「私に?」
「うん! パパとルマから!」
「ヤトと?」
ママがパパを見る。
「まあな」
「開けて!」
「はいはい」
包みを開いたママの手が止まった。
「……髪留め?」
「ママに似合うかなって!」
「これ、どうしたの?」
「ルマのおきゅうりょうで買った!」
「初めてもらったお金でしょう?」
「うん!」
「おい、俺も出したぞ」
「ちょっとだけ!」
「半分くらい出した」
「それは言わなくていいの!」
ママが吹き出した。
「ふふっ。ありがとう、二人とも」
さっそく髪をまとめて、買ったばかりの髪留めをつける。
「どう?」
「かわいい!」
「似合ってる」
パパがさらっと言った。
ママが少しだけ目を丸くする。
「……ありがとう」
(おお)
なんだかこっちまで照れる。
「大事にするね」
そう言って笑うママを見たら、胸の奥がぽかぽかした。
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
「フルコ、今日は珍しいのつけてるな」
常連のおじさんが、ママの髪留めに気づいた。
「いいでしょう?」
ママが嬉しそうに笑う。
「ルマが初めて稼いだお金で買ってくれたの。ヤトと一緒に」
「ママ!」
「おお! そりゃ大事にしないとな!」
「そうなの!」
「そこまで言わなくていいの!」
恥ずかしくなって、私は厨房へ逃げ込んだ。
「言われてるぞ」
「パパも止めてよ!」
「嬉しいんだろ」
「……まあ、いいけど」
厨房からそっと食堂を見る。
ママは笑いながらお客さんと話している。
髪には、私とパパが選んだ髪留め。
(……買ってよかったな)
前世で初めてのお給料を何に使ったのかは、もうよく覚えていない。
でも。
今世で初めて稼いだお金の使い道は――。
たぶん、ずっと忘れない。




