↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『のんびり暮らしたい宿屋の娘、今日も子育て相談を受けています』 ~元小児科看護師の異世界暮らし~  作者: 入野 カフェイン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/82

第17話 4歳児卒業します!

 商隊の人たちが町を出ていった翌日。


 Forest亭には、いつもの日常が戻ってきた。


 朝になればパパが厨房に立ち、ママが食堂を行ったり来たりする。


 トータは友達と遊びに出かけ、リトは相変わらず私の後ろをついてくる。


「うまぁ!」


「はいはい、ルマですよ」


 治癒魔法のことは気になっていた。


 アネシアの手から溢れた淡い光。


 あれが使えたら――なんて、何度も考えた。


 でも、今の私にはどうすることもできない。


 それより先に、やらなければならないことがあった。


「ルマ」


「はい」


「これ、読んでみて」


「…………」


 ママが差し出した紙を見る。


(来たな)


 そこには、この世界の文字が並んでいた。


 おつかいでアーリに助けてもらった、あの日から。


 私の文字のお勉強が、本格的に始まったのである。



     ◇ ◇ ◇



 春。


「これ!」


 私はForest亭の看板を指差した。


「ふぉ……れ……す……と」


 ゆっくり、一文字ずつ読む。


「Forest亭!」


「正解!」


「読めた!」


 思わず両手を上げる。


「すごいじゃない、ルマ!」


 ママが褒めてくれる。


(ふふん)


 前世では普通に読み書きしていたのに、文字が読めただけでこんなに嬉しいとは。


 二度目の人生、なかなか新鮮である。


 その日の午後。


「ルマー!」


 店の外からアーリとシイの声がした。


「遊ぼー!」


「いく!」


「お勉強は?」


 ママの声に足が止まる。


「……おわりました」


「本当に?」


「…………あと一個」


「終わってからね」


「はーい……」


 四歳児、自由への道は遠い。



     ◇ ◇ ◇



 夏。


「ルマ! こっち!」


「まってー!」


 シイを追いかけて川辺を走る。


「ルマ、走ったら転ぶよ!」


 後ろからアーリの声。


「だいじょうぶ!」


 ――と言った直後。


「わっ!」


 足を滑らせ、そのまま浅瀬へ突っ込んだ。


 ばしゃーん!


「…………」


「…………」


「ルマ、大丈夫!?」


 アーリが慌てて駆け寄ってくる。


 私は全身ずぶ濡れのまま身体を起こした。


「……大丈夫」


「ぷっ」


 シイが吹き出す。


「笑ったな!」


「だってルマ、びしょびしょ!」


「シイも濡れろー!」


「うわっ!」


 水をかける。


「やったな!」


「きゃー!」


「ちょっと二人とも!」


 結局アーリまで巻き込んで、三人揃ってびしょ濡れになった。


 帰ってからママに怒られたのは言うまでもない。



     ◇ ◇ ◇



 秋。


 私は厨房の裏で、桶を前に両手を構えていた。


「お水お願い」


「はーい!」


 パパに頼まれ、魔力を意識する。


 もう水を出すくらいなら慣れたものだ。


(このくらいかな)


 手のひらから水が流れ出す。


 じゃああああ――!


「ルマ! 多い!」


「え?」


 桶から水が溢れ出した。


「止めろ止めろ!」


「とまれー!」


 慌てて魔力を切る。


 足元には大きな水溜まり。


「…………」


「…………」


「ちょっと多かった」


「ちょっと?」


 パパがため息をつく。


「出せるようになったのはいいけど、加減を覚えないとな」


「はーい」


(加減って難しいなぁ)


 出すことより、少なく出す方が難しい。


 不思議なものだ。



     ◇ ◇ ◇



 冬。


「さむい!!」


 私は毛布にくるまった。


「ルマ、鼻出てる」


 トータが言う。


「出てない!」


「出てる」


「見ないで!」


「ほら」


「自分でふける!」


 差し出された布を奪う。


(寒すぎる)


 前世でも冬は経験している。


 でも四歳児の身体は、どうも寒さに弱いらしい。


「うまぁ」


 隣ではリトまで毛布にくるまっている。


「リトも寒い?」


「さむーい」


「……!」


 私は思わずリトを見る。


「今、寒いって言った?」


「さむーい!」


「ママ!」


「どうしたの?」


「リトが『うまぁ』以外しゃべった!」


「前から喋ってるわよ」


「…………」


 いつの間に。


 気づけばリトも、少しずつ言葉が増えていた。


 私だけじゃない。


 みんな、少しずつ変わっている。



     ◇ ◇ ◇



 文字が読めるようになった。


 魔法も少し上手になった。


 アーリとシイとは、相変わらず毎日のように遊んだ。


 転んで、怒られて、笑って。


 リトの言葉も増えた。


 そうして、当たり前みたいに毎日を過ごしているうちに。


「ルマ、おめでとう!」


「ありがとう!」


 テーブルの上には、パパが作ってくれた料理。


 ママが笑って、トータがいて、リトがいる。


 五本の小さな灯りが、ゆらゆらと揺れていた。


 この世界に生まれて、五年。


 前世の記憶を持つ私にとっては、短いようで。


 ルマとして生きる私にとっては、とても長い一年だった。


(五歳かぁ)


 私は五本の灯りを見つめる。


 できることは増えた。


 でも、知らないことはもっと増えた。


 この世界のこと。


 魔法のこと。


 そして――私自身のこと。


「ルマ、消して!」


「うん!」


 大きく息を吸い込む。


「せーの!」


 ふぅーっ!


 五つの灯りが、一斉に消えた。


「おめでとう、ルマ!」


 家族の声に包まれながら、私は笑った。


 こうして私の四歳は終わり――。


 五歳になりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。