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『のんびり暮らしたい宿屋の娘、今日も子育て相談を受けています』 ~元小児科看護師の異世界暮らし~  作者: 入野 カフェイン


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第11話 30センチですけどなにか?

 ある日の昼下がり。


「トータ、どこいくの?」


 玄関で靴を履いているトータを見つけて、私は駆け寄った。


「広場。みんなと遊ぶ」


「みんな?」


「友達」


「ルマもいく!」


「えー」


 露骨に嫌そうな顔をされた。


「なんで!」


「だってルマ、まだ四歳じゃん」


「よんさいでも遊べる!」


「俺たち七歳だぞ」


「三つしかかわらない!」


「三つも、だよ」


(なんだこいつ)


「ママー! トータが連れてってくれない!」


「すぐママ呼ぶなよ!」


 食堂から顔を出したママが、笑いながらこちらへやってくる。


「トータ、たまにはルマも連れていってあげたら?」


「えぇ……」


「やった!」


「まだいいって言ってない!」


 こうして私は、半ば強引にトータの遊びについていくことになった。



     ◇ ◇ ◇



「トータ、その子だれ?」


 広場に着くと、待っていた男の子たちが一斉にこちらを見た。


「妹」


「へえー」


「ちっちゃ!」


「よんさい!」


「やっぱちっちゃいじゃん」


「ちっちゃくない!」


「まあまあ。一緒に遊ぼうよ」


 別の男の子が笑いながらそう言った。


「四歳でも遊べるよ」


「ほら!」


 味方を得た私は、得意げにトータを見る。


「はいはい」


(なんだその顔)


 七歳から見れば四歳なんて、相当小さいらしい。


 前世なら、この子たち全員まとめて「子ども」だった。


 それが今は、その子どもたちに混ざって遊ぼうとしている。


 人生、何があるか分からない。


「今日、葉っぱ飛ばししようぜ!」


 さっき私を「ちっちゃい」と言った男の子が、地面から大きめの葉を拾った。


「やる!」


 トータたちも葉っぱを探し始める。


「なにそれ?」


「風の魔法で、誰が一番遠くまで飛ばせるか競争するんだよ」


(なるほど。異世界の子どもらしい遊びだ)


 私も一枚拾った。


「ルマもやる!」


「え? 魔法使えるの?」


「つかえるよ」


「ほんとにー?」


 またあいつだ。


(なんだその顔)


「この前できるようになったもん」


「じゃあルマもやろうよ」


 最初に一緒に遊ぼうと言ってくれた男の子が、私の葉っぱを並べる場所を空けてくれた。


「うん!」


 地面に線を引き、そこへ葉っぱを並べる。


「俺から!」


 一人目が手をかざした。


「えい!」


 ぶわっ、と風が起こり、葉っぱが地面を滑っていく。


「おおー!」


「次、俺!」


 トータも負けじと風を起こす。


 葉っぱがさっきより少し遠くで止まった。


「やった!」


「ずるい! もう一回!」


「一回だけだろ!」


 楽しそうだ。


(よし)


 私もやってみよう。


「次、ルマ!」


「ほんとにできんの?」


「できる!」


 この前ちゃんと風は出せた。


 前髪がふわっと揺れる程度だったけど、あれから少しは練習もしている。


 葉っぱに向かって手を伸ばす。


(風……)


 身体の中から魔力を集め、手のひらへ。


「えい!」


 ふわっ。


 葉っぱが浮いた。


 そして――。


 ころころころ。


 三十センチほど転がって、止まった。


「…………」


「…………」


「弱っ!」


「うるさい!」


 男の子が腹を抱えて笑う。


「今の風?」


「風だよ!」


「息で吹いた方が飛ぶんじゃない?」


「もう一回やる!」


「一回だけー!」


「むかつく!」


「でも、初めてならそんなもんじゃない?」


 それまで静かに見ていたもう一人の男の子が言った。


「俺も最初、全然飛ばなかったし」


「……ほんと?」


「うん」


「ほら! 普通だって!」


「でも三十センチ」


「うるさい!」


 また笑われた。


 絶対こいつには負けたくない。


 魔力を身体の外へ出せるようにはなったけれど、どうやら上手に使えるようになったわけではないらしい。


(絶対もっと飛ばせるようになってやる)


 そう心に決めた。



     ◇ ◇ ◇



 葉っぱ飛ばしが終わると、今度は鬼ごっこが始まった。


「ルマが鬼な!」


「なんで私!?」


「一番ちっちゃいから!」


「またそれ!」


「逃げろー!」


「あ! 待てー!」


 全力で追いかける。


 足の長さが違うせいか、なかなか追いつけない。


「遅いぞ、ルマー!」


「トータ待て!」


「待ったら鬼ごっこにならないだろ!」


「むかつくー!」


 走って、転びそうになって、また走る。


「ルマ、こっち!」


「え?」


 振り向くと、さっきから何かと私を輪に入れてくれる男の子が手招きしていた。


「こっちから行ったらトータ捕まえられるよ」


「ほんと?」


「うん!」


「よし!」


 二人で回り込む。


「トータ!」


「うわっ!」


「つかまえた!」


「二人はずるいだろ!」


「作戦です!」


「なんだそれ!」


 その次は石を積んで、その次は木の枝に誰が一番高く触れられるか競争した。


「ルマ、次こっち!」


「待って!」


「早くー!」


「いま行く!」


 気づけば、最初に「ちっちゃ」と言っていた子まで普通に私を呼んでいた。


(……楽しいな)


 ふと、そんなことを思った。


 前世でも子どもと遊ぶことはたくさんあった。


 でも、それはいつも大人としてだった。


 同じ目線で走って。


 くだらないことで笑って。


 負けたら本気で悔しがって。


 こんなふうに遊ぶのは、いつぶりだろう。


(もう一回子どもになるのも、悪くないかも)


 そう思えた。



     ◇ ◇ ◇



「じゃあな、トータ!」


「また明日!」


「ルマもまたな!」


「うん! またね!」


 夕方になり、私たちはForest亭へ向かって歩き出した。


 いっぱい走ったせいで足が少し重い。


「ルマ」


「ん?」


「楽しかった?」


「うん!」


「そっか」


 トータが少しだけ笑った。


(なんだ。ちゃんとお兄ちゃんじゃん)


 そう思った、その直後。


「でもルマの風、めちゃくちゃ弱かったな」


「…………」


「三十センチ」


「うるさい」


「ふっ」


「笑うな!」


「ははは!」


「トータ嫌い!」


 笑いながら逃げるトータを、私は全力で追いかけた。



     ◇ ◇ ◇



 その夜。


 布団に入って目を閉じる。


(……三十センチ)


 思い出したら、また腹が立ってきた。


(絶対もっと飛ばす)


 いつものように身体の中の魔力を集める。


 ゆっくり練って、身体中へ巡らせる。


 赤ちゃんの頃から、毎日続けてきた習慣。


 魔法を使えるようになった今も、それは変わらない。


(もうちょっと練習しよ)


 今日も眠りにつくまで、私はせっせと魔力を練り続けた。

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