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眠る身体、動く身体 ーー世子嬪(王太子妃)候補たちは井戸に落ちたーー  作者: 明日葉


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第29話 薬包

宮廷内では、王妃は嫉妬が過ぎる、一日も早く唐の娘を側室に、そういう噂が流れるようになっていた。

唐の娘が側室になれないのは王妃が妨害している、中にはそんな話もあった。


そんな噂の渦中にいる王妃は、中宮殿で化粧をして遊んでいた。

女官の州羅宅も付き人のソヨンも半ば呆れた顔でその様子を眺めていた。

どう見ても、化けて装う方向に向かっていないのだ。

どんどん平凡に、さらには地味で目立たなくなっていく。おそらく王妃は手先が器用なのであろう。

「王妃様、化粧は綺麗になるためにするものです。

 噂を払いのけるような、お化粧をしようとは思われないのですか?」

ソヨンは遠慮なくはっきりと言った。

「ソヨンは怖いわねぇ。

 病人に見える化粧をしたいんだけど……」

「恐れながら王妃様」

今度は州羅宅が口を開いた。

「そのようなことでしたら、ぜひ私にお任せを……」

ソヨンは王妃と州羅宅を睨みつけるような顔をする一方で、王妃の目はキラキラと輝いていた。

「どれ、そなたに任せよう。

 まず、少し疲れてやつれて見える感じにせよ」

「では、お近く失礼致します」

州羅宅が王妃に近づき、見事な手捌きで化粧をしていった。

ソヨンは、僅かな時間で変わっていく王妃の顔を唖然として見つめていた。


「出来上がりました」

王妃は鏡を見て満足そうに微笑んだ。

「州羅宅、上手いではないか!

 こういうのがやりたかったのよ」

「恐れ入ります。お気に召していただけましたか?」

「これができると言うことは、どんどんやつれていく病人化粧もできるな」

「はい。お任せくださいませ」

ソヨンは楽しそうな二人をよそに呆れている。


王妃の顔は、化粧で少し疲れているような顔になっていた。

そんな顔をしながらも、楽しそうな声で州羅宅とソヨンに指示をした。

「唐の娘を、呼び出してくれるかしら」

「かしこまりました」

二人はそう言ってから立ち上がり、王妃のいる部屋を出た。


半時ほどすると、州羅宅の案内で唐順希が王妃の前に通された。

唐順希の立ち居振る舞いは堂々たるもので、どちらが王妃なのかわからないくらいだった。

王妃はそんな唐順希の態度を見て、すでに私に勝ったつもりでいるのね、まぁいいわ、と心の中でつぶやいていた。

呼ばれた順希がどんな態度に出るのか、観察することに決めたのだった。


誰も何も喋らない、静かな時間が過ぎていった。

沈黙を破ったのはもちろん唐順希だった。

王妃は表情を変えずに、順希を見つめていた。

(おや、僅かな静寂の時間に耐えきれなかったのかしら)


「本日は、お招きに預かり光栄にございます。

 お招きいただいたお礼に、贈り物を持ってまいりました」

そう言って、女官に持たせていた包みを王妃に渡した。

「これは?」

「英気を養う補薬にございます」

「英気を養う、とな」

「はい」

「何が入っているのかしら」

「ご説明いたします。

 胃腸を整えるものと、心の臓を強くするものと、夜はゆっくりと眠れるものを適量に配合したものにございます」

王妃はわざと無表情でだるそうな表情をして、無言で唐順希の顔を見た。

(え?一体なんの治療をするつもりなの?

 というか、それ以前に、元気な人も体を壊しそうな組み合わせね……)

王妃は気を取り直して、順希に声をかけた。

「心遣い感謝する」

そして一呼吸置いてから、ゆっくりと続ける。

「私の呼び出しに備えて、前もって準備してくれたのか?」

「さようにございます」

「そなたは、噂に違わず準備が行き届いておるな」

「ありがたきお言葉にございます」


再び沈黙の時間に戻った。

今度は王妃が口火を切った。

「また、用のある時に呼ぶ。

 今日は下がってよいぞ」

「はい」

唐順希はそれだけ言うと、ごく浅い礼をして王妃の前から去っていった。


州羅宅とソヨンは、何も言わずに王妃のそばに座り、王妃の次の指示を待っていた。

ただし、ソヨンの目は、今にも唐順希の無礼な態度について話をしたい、そう訴えている目だった。

王妃は天井を見つめてながら、この組み合わせの悪い配合物をどうしてくれよう、と考えていた。

「州羅宅。

 国舅、左副承旨、弘文館校理に内密に使いを出せるな?」

「はい」

「ソヨン、あの女が持ってきた薬包はいくつある?」

「二十八包でございます」

「そうか、では、七つずつに分けよ」

その後王妃は筆をとり、何やら書き記した。小さな封筒に入れ蜜蝋を押した。

「国舅、左副承旨、弘文館校理にそれぞれ七包ずつ、内密に確実に渡せ。

 渡す際にこれも忘れずにつけよ」

「かしこまりました」


国舅、尹怜、朴紘範の三名は、私邸にて内密に薬包を受け取った。

薬包と一緒に受け取った文は、三名とも読んだ後に蝋燭の炎で燃やした。


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