↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠る身体、動く身体 ーー世子嬪(王太子妃)候補たちは井戸に落ちたーー  作者: 明日葉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/39

第23話 苦手な男の扱い方

知恵は適雑堂の前で、棒を並べて何やら計測をしている。

一段落ついたのか立ち上がり、棒を木の皿の上に並べてしまう準備をしていた。

その時、ふと左を見ると、背の大きい派手な男が近づいていることに気がついた。

急いで店の中に入り、棒を片付け、店の扉を閉めようとしたその時、男が扉に手をかけて店に入ってきた。

尹怜だった。


「ひゃっっ!」

と悲鳴をあげ、怯えたようにしていると、尹怜が話しかけようとした。

知恵は近づいてくる尹怜をよけようとしたが、よけられない。

気がつくと、知恵は尹怜の服と手を掴み、一本背負で投げ飛ばし店の外に出した。

そして扉を閉めて、閂をかけて外から開けられないようにした。

尹怜は青い空を見つめていた。地面に仰向けに寝転がった状態だった。

何が起きたのか理解するまで時間がかかった。


(俺は……今あの少女に投げ飛ばされたのか?)


道ゆく人々と目があった。

慌てて起き上がり、服についた土埃を払った。


「用があって来た。頼むから開けてくれないだろうか」

尹怜はそう言いながら扉を何度か叩いた。

しばらくすると、扉の隙間から紙が差し出された。広げてみると文字が書かれていた。


"用件をお書きください"


尹怜は深いため息をついた後、携帯用の筆を取り出して、余白に文字を書き扉の間に挟んだ。

紙が反対側から引き抜かれてしばらくした後、また紙が差し出された。


"庭に生えているキイトルソウをすべて刈り取って洗ってください"


「はぁ?」

尹怜は思わず声を上げる。


"洗い終わったものの中から、ご所望の量をお持ち帰りください"


尹怜はワナワナと震えている。すると、また紙が扉の隙間から出てきた。


"私は店の隅にいますので、決して近づかないでください"

"刈り取ったら、点検しますので、近づかずに声をかけてください"


尹怜は空を見上げて、息を吐いた。その後、紙に文字を書き扉の隙間に挟んだ。

再び、紙が扉の隙間から出てきた。


"私が入る許可を出すまで外にいてください"


「わかった。指示通りにする」


閂を外す音が聞こえて、静かに扉が開いた。


「どうぞお入りください。そのままこちらを見ずに庭まで進んでください。

 庭のキイトルソウは全部刈り取って、刈り取ったら教えてください」

「終わったら声をかける」

尹怜は、知恵の方を見ることなく、黙って庭に回った。

庭に出て驚いた。

可愛らしい花をつけたキイトルソウが大量に生えている。庭の一部には立派な畑まであり、野菜が育てられていた。

野菜はそろそろ収穫を迎えそうな時期だった。


尹怜は、草刈り鎌を使い、キイトルソウの刈り取りを始めた。

こんなことをするのは、子供の時以来だな、と思いながら、黙々とキイトルソウを刈り取っていった。


一時ほどすぎた頃、ようやく刈り取りが終わった。

「刈り取ったぞ」


程なくして、知恵が庭にやってきた。刈り取った草を入れるための箱を床を滑らせて、尹怜の足元まで動かした。

「その箱に入れて、こちらに持って来てください」

尹怜は、表情はだんだん引きつっていく。

「あっ間違えた、持ってこなくていいです。箱だけ、滑らせてこちらによこしてください」

そう言われた途端、ため息が出て怒りと諦めが混ざったような表情に変わっていった。

キイトルソウを箱に詰めたあと、箱を知恵の方に滑らせて移動させた。

知恵は箱に入ったキイトルソウを手に取って根元から先端まで念入りに確認をして頷いていた。


「洗い方を説明しながら、お手本を見せます。

 まず、桶に入った水で下側を丁寧に洗います。

 次に、花のついてる方を下に向けて、水の入ったおけで優しくゆすぎます」

「全然見えないぞ」

「じゃあ見える位置まで来てください」

尹怜は、知恵に近づく。

「そこで止まってください」

「この位置じゃまだ見えない」

知恵は尹怜と自分の距離を目測で確認し、自分が動いた。

「この位置なら見えますよね?」

「ああ、見える」

「説明はもういいですよね?」

「ああ、見本だけ見せてくれ」

「こうやります」

知恵は、先ほど説明した通りにキイトルソウの処理をした。

「どうですか?見えてましたか?」

「ああ、わかった」

「洗った後は、この台の上に、重ならないように載せて行ってください」

「台に乗せた後は?」

「そのままにしてください」

「じゃあ、元の位置に戻ってください」

「はぁ?」

「そこにいらっしゃったら私が家の中に入れません」

尹怜は渋々元の位置に戻る。尹怜が離れたことを確認してから、知恵は家の中に入るために進んで行った。

家に入る前、一応、尹怜の方を向いて言った。

「終わったら教えてください。じゃあ、よろしくお願いします」

一応、お辞儀もして部屋の中に入った。

知恵の歩き方も礼の仕方はどことなく誰かに似ている、と思った尹怜だった。


尹怜は深呼吸をしてから、キイトルソウを丁寧に洗い始めた。

全ての処理を終えると、体を伸ばした後、腰を軽く叩いた。首と肩を軽く回してから知恵に声をかけた。

「終わったぞ」

しばらくすると、知恵が風呂敷を持ってやってきた。

「必要な分をこれに包んでお持ち帰りください」

そう言って、小さな台をおきその上に風呂敷を数枚置き、家の中に引っ込んだ。

尹怜は風呂敷二枚分、キイトルソウを包み込んだ。

「包み終わった。この量をいただきたい」

知恵は尹怜の風呂敷の量を確認した。

「では、そのままお持ち帰りください」

「そっちに向かうぞ」

「どうぞ、そのまままっすぐお帰りください」


尹怜は、風呂敷包みを持ち、店の前の扉まで進んだ。

その姿を離れたところから確認した知恵は、尹怜が見える位置に立ち、丁寧にお辞儀をした。

「お疲れ様でございました」

尹怜はほんの少しだけ笑顔になった。

「ありがとう。助かったよ」

そう言って、片手をあげて適雑堂を出ていった。

(あいつの動きは、見習いに似ているのか……)


キイトルソウの入った包みを手に持ち、家に向かった。

(持ち帰って届けるか……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。