↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠る身体、動く身体 ーー世子嬪(王太子妃)候補たちは井戸に落ちたーー  作者: 明日葉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/39

第19話 井戸の中で壊されたもの

王妃が話し始めると、ヨリは朴紘範にシャープペンシルと紙を渡した。

朴紘範は黙って受け取り頷いた。これから王妃が話すことを記録するのだった。


「この体の持ち主は、宮廷に入ったばっかりの頃、癇癪持ちの八つ当たり女と言われてたらしいわ」

王と尹怜は黙って頷いた。朴紘範は頷きながら筆を走らせていた。

「物を投げて当たり散らす、泣き叫ぶ、部屋の隅で震えながら怯えてる……

 そんな感じだったらしいの」


「王様、左副承旨、校理は知ってるわよね」

白俊とヨリは黙って聞いている。

「私は、池に落ちるのが怖かったからだと思うようになってたんだけど……

 違ったみたい」

王妃はここで一呼吸おいた。そしてその場にいる全員の顔を見まわした。

「ソヨンから聞いたんだけど、井戸に落ちた……落とされたことがあるらしいの」


朴紘範は王妃の話を書き続けている。

王は何度聞いても胸が痛む話だと思っていた。

尹怜は複雑な心境で聞いていた。共有している記憶の中にある自身の妹の話と重ね合わせているようだった。

ヨリはわずかに目を細めて王妃を見つめていた。もっとも、その表情の変化に気付いた者はいなかったが。


「国舅が、家中の使用人を集めて屋敷中を探したけどいなかったから、家の外も探した。

 でも、当日は見つからなかったらしいわ」


「翌朝、市中の比較的浅めの井戸の中で、

 小さくうずくまって震えながら泣いているところを発見されて保護された」


王妃はここまで話して、顔を少し上にあげて、目を瞑った。

朴紘範が、質問をした。

「しつこいようですが、念の為確認します。

 いつのことですか?」

「聞いた話によると、三年前の辰の月だそうよ」

「三年前の辰の月、ですね」

王妃は頷いて、話を続けた。

「その後は、宮廷に入った時と同じで、そういう行動ばかりが目立つようになった。

 国舅はそれを隠すために、徹底的にこの事故の話をもみ消した」

「箝口令を出したのか?」

「ええ、娘のそんな状態が公式記録にも残らぬよう手を回した」

「錦城金氏の家の者が必死で何かを探していれば、ウワサになると思うが……」

尹怜が呟いた後、朴紘範が記録を取りながら言った。

「話をするとすれば、ウワサにならないように、ですね」


「校理、記録を漁れば何か出てくるかもしれないな?」

「そうですね、確認してみましょうか」

白俊が疑問を口にした。

「良家のお嬢様って、付き人とか警護の人と一緒に歩いているやん。

 その時付き人はなにしててん?

 付き人はあの子やろ」

「そういえばそうね……別の用事で出かけていたのかしら?

 確認しておくわ」

「頼みますわ」

今度は、ヨリが口を開いた。

「ところで、そんな状態なのに、どうして揀択に出ることができたの?」

「たまに、正気に戻ることがあったらしいの。

 その時に、世子様が欲しいと、父親に願い出たそうよ。

 おそらく、だけど、安心できる人のそばにいきたかったんじゃないかな

 宮廷も、安全に思えたのかも……」

ここで一呼吸おいて王妃が言った。

「この身体の持ち主は、王様をとってもお慕いしていたみたいだから」

ヨリは一瞬上を向き首を傾げた。あの男のどこが良いのだ?という仕草のようだった。

尹怜はその姿を見て、昔自分の前で、全く同じような表情をしていた少女のことを思い出していた。


「まあ、とにかく、そんな話を聞いたから、王様に調査をお願いしたの。

 この子の願いはきっと、犯人を捕らえて法的に罰することだと思うのよね。

 私の、クエスト?のような気がするわ」


白俊が質問を続ける。

「揀択って、どういう時に開催されるの?」

「主には、世子が婚礼の時期を迎えた時だ。

 三年前に揀択があるという噂があったが、

 立て続けに揀択の候補者が井戸に落ちて亡くなっているから、その時の揀択は噂が消えた。

 一部ではウワサになっているが、金城金氏が揀択をわざと流した、という話もある」

「娘のために?」

「おそらくは」

「その時期に揀択がなかった為、王はずっと独身でしたからね。

 『世子が欲しい』と望んだ娘のために、揀択を開催し、宮中に入れた。

 まぁ、できないことはないですね」

「揀択を開催する部署は、嘉礼都監(カレドガム)という臨時の組織だ。

 揀択のために設置されるんだが、そこには金城金氏がかなり集められてたな」

「もちろん全員ではありませんがね」

「側室候補の唐順希も、揀択に出たの?」

今度は王が答える。

「いや、揀択の前に宮中に入ってきた。側室候補、としてな」

「揀択なしに、王の妃候補になれるもんやの?」

「もともと宮廷で働いていた女性が王の側室になることはある。

 いわゆる王のお手つきだな」

「ふーん、唐順希のような例もあるの?」

「たまにあるらしいですよ。

 功臣が王と何か取引をするとか。

 おそらく、唐順希もその系統でしょう」

「そういえば、以前聞いた話の中で、そんな噂もあったな……

 ほれ、唐の家、そもそも崖っぷち、ろくでなしの兄がいて、妹にかけてるとかいうやつ」

「お前が拾ってきた話だな?」

「ああ、そうや」

「唐家の話も集めた方が良さそうですね」

「せやな」

「では、俺たちは、引き続き記録を調べる」

「白俊殿は、三年前の王妃の噂を集めてください」

「ああ、そうする」

「白俊、唐家の話も拾ってこい。それから……

 しつこいようだが、お前らは権力で横槍を入れるなよ」

王と王妃は、少し小さくなって頷いた。


尹怜は、王と王妃を見て、思い出したように言った。

「白俊が弟子にした少女の身分を作る。

 それから、その子も身の安全の保証を求めているので、割符をもう一つ作って欲しい」

「わかった。用意しておくが、その子には直接会って渡したいな」

「本人嫌がると思うんやけど……次に来るときに連れてくるわ」


王妃は全員の顔を見回した。

「唐順希の話が出たついでに言っておくわ」

全員が王妃の顔を見る。

「存在をすっかり忘れてたんだけど、ついこの間、封鎖を解いたわ」

「忘れてた、ってすごいやん」

「王妃の座を奪うために、あの手この手でかかってくると思うわ。

 王妃の仕事って暇なのよね。暇つぶしに相手をすることにしたわ」

「何をやるつもりだ?」

「大王大妃にはもう怒られたわ。次は大妃に怒られるわ。

 王様には順希の味方っぽく振る舞っていただいて、心身ともに弱っていく演技、かな」

「そのあとは、どうするのですか?」

「うーん、まだ決まらないわ。

 これからいくつか考えてみるわ」

「俺が、側室候補の味方っぽく振る舞うのか?」

「はい。王様、この件は後ほどゆっくりお話ししましょう」

王は頷いた。


王妃の顔を見ていた白俊が、一言付け加えた。

「あ、最後に、王妃様にもう一つ聞いてええ?」

「なぁに?」

「初めてこちらにきた時に、いったい何したん?」

「池に落ちてたわ」

「それから?」

「目覚めて、びっくりして、夢だと思って部屋から逃げ出したの」

「それだけ?」

「いいえ、違うわ。

 逃げるために、護衛から刀を奪って、十数人薙ぎ倒したわ。

 その後急所を撃たれて気絶したの。

 あれ、痛かったわ〜」

王妃は、そう言いながら当時を思い出したのか、首の後ろを押さえていた。

「王様と左副承旨と校理は三人並んで見てたんでしょう?

 そして左副承旨がその噂をもみ消した。違う?」


三人は黙りこくっていた。

白俊とヨリは呆然として王妃を見つめていた。


「そろそろシャープペンシルをしまうわ。

 二人は持ち場に戻った方がいいと思うけど」

ヨリがそう言うと、尹怜と朴紘範は、立ち上がり「では、また」と言い部屋から出ていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。