第18話 集合
空には雲ひとつ浮いておらず、よく晴れていた。爽やかな風が通り抜け、木々の緑もまだ鮮やかだ。
暑さは通り越し過ごしやすい季節になった。
こんな日は、宮廷などではなく、弁当でも持ってどこかに散歩に行きたいものだ、と白俊は考えていた。
適雑堂を出て妓楼の前でヨリと待ち合わせをして宮廷までやってきた。
道すがら、白俊は、知恵を弟子にしたこと、住み込みで適雑堂の店番をさせること、調査にも加わる旨をヨリに説明した。
ヨリはコクコク頷いていた。
調査の要員が増えたことが嬉しかったのか、僅かに表情の変化があったが、その変化は本人にしかわからなかった。
宮廷に着くと、まず内医院に行き、今日は中宮殿に行く旨をその場にいた責任者に伝えた。
その後、白俊とヨリは中宮殿に向かった。
中宮殿に着くと、白俊は深呼吸をした。するとヨリが白俊の顔を覗き込んだ。
「初めて入るところは、俺だって緊張するで」
そう言って、両手で頬を軽く叩き、中宮殿に入っていった。
ヨリは白俊のその仕草に首を傾げたが、ついていった。
王妃の部屋に到着すると、白俊とヨリは丁寧に頭を下げて部屋に入り、王妃の前で座して首を垂れ挨拶をした。
「この度、王妃様の診察を担当するお役を拝命いたしましたこと、恐悦至極に存じます。
微力ながら、粉骨砕身お役目を果たし、忠誠をつくしてまいる所存にございます」
「面をあげよ」
厳かな声で王妃は言った。
白俊とヨリは頭を上げた。しかしその目は伏し目がちで王妃の顔ではなく、床を見ていた。
「白俊、心にもないことを申すでない」
王妃は今にも悪戯しそうな目をした笑顔でそう言った。白俊は、視線を床に向けたまま、心底嫌そうな顔をした。
そこに王がやってきた。
王妃は王に上座を譲り、白俊とヨリは、王の通り道を作るために、立ち上がり、横に移動した。
王妃をはじめ、白俊、ヨリが王に挨拶をする。
「王様、わざわざのお越し、ありがとうございます」
王妃がそう言った後、王は頷き、右手をあげ王妃に黙るよう合図をした。
「白俊、久しぶりだな。褒美は楽しんでおるか?」
「はい。王様より有り難く賜った褒美のおかげで、この世の道理を学んでいる最中にございます」
「何事にも学びは助けとなる。
そなたの学びは皆に役立つものが多い。しっかりと学ぶのだぞ」
「ありがたき幸せに存じ奉ります」
白俊は心の中で毒づいた。
(……まったく、王の真似事が上手くなったもんだ)
「此度は、王妃様におかれましては、気分の浮き沈みが激しいという主訴を伺っております。
早速診察に入りたいのですが……」
王妃が人払いを命じる。州羅宅と付き人ソヨンも例外なく部屋の外に出ていった。
白俊とヨリは顔をあげ、王と王妃を見た。
ヨリは、チマの下にあるカバンからシャープペンシルを取り出した。
外に控えて動こうとしていた女官の動きも止まった。
外の風の音はぴたりと止まり、窓越しに見えた鳥の動きも止まり、まるで写真のようだった。
白俊は腕を組んで王と王妃を睨みつけている。
そこに左副承旨尹怜と弘文館校理朴紘範がやってくる。
尹怜は冷たい視線で、朴紘範はさらに厳しい視線でそれぞれ二人を見ている。
王と王妃はなぜ自分たちがそんな目で見られているのかを全く理解していなかった。
やがて、白俊、尹怜、朴紘範の三人が同時に声を出した。
「お前ら二人の密談で、仕事を勝手に増やすな」
ヨリは三人の方を見て、ほんの僅かに口角を上げる。
「いいじゃない、少しぐらい仕事増えたって。宮廷外では三人で楽しく遊んでるんでしょう?」
むこうから来た人間だけが集まっているせいか、王妃は気が緩んだようだ。
「妓楼にいるのは、白俊殿だけです」
白俊は一人微笑んでいた。
「この仕事は横槍が入ると進まなくなる。やりたいことがあるなら事前に共有しろ。
権力慣れもほどほどにしておけ」
尹怜がドスの聞いた声でキッパリと言う。三人は冷たい視線で王と王妃を睨みつけている。
王と王妃は下を向いたあと、二人で目を合わせた。
しばらくすると二人は素直に謝った。
「ごめんなさい……」
「……すまん、悪かった」
王が尹怜に言う。
「王になってから、ありとあらゆるところを監視されている。どうやって伝えればいい?」
「都承旨が休みの時に俺を呼べばいいだろう」
「いや、すまない。監視のないこういう時間が欲しくてな。まぁ、これは冗談だが……
全員が集まるのにちょうどいいと思って」
「それはわかりました」
「公主様の診察はなんなんや?」
「それは再来週本人に確認してくれ」
白俊は小さくため息をついた。
「思いつきじゃないといいんだけど」
ヨリが声を出せるのは時間が止まっている間だけだった。
この時を狙っていたのか、ヨリは王に嫌味を言うのを忘れなかった。
これを聞いて王妃は嫌そうな顔をしながら、言った。
「どのみちここには来たでしょう」
全員が「そうなんだけど……」という表情をしたが、誰もそれは口にしなかった。
腕を組んで怖い顔をしていた尹怜が話し始めた。
「じゃあ、本題に入るぞ。
白俊、お前から言え」
「調査要員を一人増やしたところや。ここにいるみんなと同じなんやが、むこうから来たやつで、俺の弟子にした。
適雑堂の店番、妓楼と店の連絡、それから事件の情報整理を担当させますわ」
「そうか。それは心強いが、信頼できるのか?」
王は率直な疑問を口にした。四六時中監視され、全てを疑う習慣が身についてきているようだった。
「俺の知り合いで、共同研究者や。信用はできる」
「ところで王妃は、体の持ち主の記憶を持っているのか?」
「持ってないわ」
「王に、井戸に落ちた件を話したんですよね?」
朴紘範が王妃に質問をした。
王妃は頷いてから、鎮痛な面持ちで話し始めた。
「ソヨンから聞いたの。
三年前の辰の月のことだったらしいわ」




