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眠る身体、動く身体 ーー世子嬪(王太子妃)候補たちは井戸に落ちたーー  作者: 明日葉


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第14話 世界の仕組み

「知恵、いったんそれをしまって。ちょっと、話をせぇへんか?」

「わかった」

知恵はスマホなどの機器類を片付けた。

燭台の炎が動き始め、外の風の音、風で揺れる草の音、通りの人の動きの音が聞こえてきた。

「俺も、自分がどうしてこんなことになっているのかは、ようわからへん」

知恵は黙って白俊の顔を見つめている。

「こうなる前、何考えとった?」

知恵はまじまじと白俊の顔を見ながら言った。

「俊介に会って、直接伝えたいことがあったの。

 最近寝てることが多いから、早く起きてこないかな、って思ってた。

 そう考えているうちに眠ってしまって、起きたら道の上にいた」

「そうか……」

知恵はぼんやりしながら白俊に言った。

「俊介の時はどうだったの?」

「俺ん時か。正直ようわからん。

 今も寝てる間にこっちとむこう、行き来しとる。

 実は、俺のルーツはこの国なんや。だから、こっちに来たついでに、いろいろ調べてみたん。

 ほしたら、自分が小さい時祖父母や親から聞いた話となんかちゃうねんなぁ。

 家に残っとる記録見てみたら、本来残るはずの家が減っとって、逆にすでに消えてるはずの家が残っとる。

 それを直さな、帰るところなくなるんとちゃうかと思てしまって、今いろいろやってるところや」

「歴史がおかしいって柄にもないこと言ってたのは、そういう理由だったんだ……」

二人は黙り込んだ。何も動いていないかのように静かな時間になった。


しばらくすると知恵が、その沈黙を破るように話し始めた。

「いろいろやってるって、何してるの?

 一日中仕事しているわけじゃないんでしょ」

「いや、そういうわけでもない。意外とやることいっぱいあるで」

「何やってるのよ」

「お偉いさんがた二人のこと、記憶あるか?」

知恵は頷きながら言った。

「ええ、覚えてるわ」

「あいつらが仕事持ってくるんや」

「その仕事、ちゃんと給料出てるの?」

「ハハっ」

「タダ働きならやめちゃいなよ。働き損じゃん。

 今後もずーっと、未来永劫ここにいる限り、タダ働きだよ」

「いや、その……」


知恵は白俊が今やっていることをしらみつぶしに聞き込んでいった。

「要は、ご褒美に無期限の妓楼通いをもらって、

 薄給の週一宮廷勤務に、インチキな薬で金持ち相手にぼったくっていると」

「うっ……」

白俊は、一瞬言葉に詰まった。

「せやけど、ここでも医者が本業やで。ぼったくりとか言わんで、医者適正価格と言うてや」

「はいはい」

知恵はちょっとだけ笑って、すぐに真面目な顔をして続けた。

「さらに、お偉方の二人が、王の密命とか言って二つの事件の調査をさせてるのね。

 で、それのお給料どうなってるの?」

「一応出ていて、必要経費も出ることになっとるんやが……」

「ちゃんと契約書にしなさいよ」

「う〜ん」

「そこであわよくば、と思ったんじゃないの?

 だから曖昧にしてるの?」

「うっ……」


知恵はニヤッと笑って続ける。

「ここの店主は、かなり儲けている。俊介はその店主の女性に養ってもらっているヒモなわけ?」

「いや、あの……」

白俊はちょっと不貞腐れながら言った。

「医師業は、真面目にやっとるで」


言葉に詰まって言い訳をしている白俊の様子を見て半ば呆れている知恵。

「隔週勤務反故にされて、文句は言わないの?」

「それは言うで」

「じゃあその時に、ちゃんと書面にしたら?

 相手は大金持ちなんでしょ。どうせこの時代の貴族なんていい人のふりしてたって、庶民から搾取しまくる側なんだからさ。

 きちんと契約しないから、お互いに変な取引するようなことになるんでしょ。

 記録に残さない上に、搾取される側だから簡単に反故にされるのよ。

 さらに上の権力者が出てきても、変なこと考えてないで仕事を持ってきた人と交渉すればいいのよ」

白俊は何も言えない。


「店主賢いわね。この時代に手数料ビジネスなんてやっちゃってさ。

 私もやろうかな〜。それをやっても潰されない身分が欲しいな」


「知恵、お前それ、自分で交渉やるんか?」

「うっ……

 穏やかな方ならまだいいけど、もう片方はちょっと……というか、絶対やだ」

「何がそんなに嫌なんや」

「なんていうか、その……

 嫌いなのではなく……

 なんか派手すぎて、怖い。飲み込まれそうになる、というか……強引そうな雰囲気?」

白俊は思わず笑った。

「そのうちあの二人またくるやろから、その時までに、仕事とか身分とかやりたいこと考えとくとええかもな」

「俺の仕事も手伝ぉたってくれへんか?」

「どんな仕事」

「店番とお使いと付き添いと……事件の調査もや」

「給料は出るの?」

「ああ、ちゃんと出すで」

「副業は可能?」

「本業に影響なければええで」

「事件の調査って危険じゃないの?身の安全を保証してくれないとやだな」

「その辺はお偉い二人に依頼する。

 どうする?やるか?」

「最初の三つだけだとちょっと物足りないかもしれないわね。

 危なくない範囲でやるわ。契約書ちゃんと書くわよ」

「じゃ、俺の弟子っていうことで」

「わかった。なんて呼べばいい?」

「医者やから先生と……」

「白俊師匠か俊先生って呼べばいいのね」

「自分の名前は決めたか?」

「柳なら大丈夫そうかな、名前は多分そのまま使えるでしょう」

「詳しいな」

「ええ、この国のドラマ大好きでよく見てるからね」

知恵は早速呼んでみた。

「白俊師匠、こちらにお座りになりませんか?」


白俊は、知恵に指定された場所にあぐらをかいた。

知恵はその足の上に頭を乗せ寝っ転がった。

「なんや?」

「しゅんす……俊先生の足は考え事をするのにちょうどいい角度と硬さなんです」

「そうか」

「こんな話でもしなきゃやってられないですよ」

白俊は、知恵の敬語をぎこちなく感じていた。

「この状況、自分の気持ちとして受け入れられてるんですか?」

「いいや。いまだに受け入れられん」

「でも現実こうなっているから仕方ない、そう思ったんですか?」

「そうやなぁ……」

「体は若くなっているけど、本当に自分の体で来てしまったみたい」

「ん?」

「治療の後の辛さは残ったままだもん」


そう言った知恵の目には涙が浮かんでいた。

その涙は体の辛さより、どうしてここにいるのだろう、という気持ちの方が大きいのではないか、と白俊は考えていた。


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