第13話 知り合い
朴紘範と白俊は尹怜の顔を見た。
「なに、俺?」
白俊は、黙って深く頷き、大きく息を吐いた。
「左副承旨殿、ちょっとこの子と距離取ってくれへん?」
「なんでだ?」
「さっきから左副承旨殿の顔見て気絶しとるような気ぃするんやわ……」
尹怜はあからさまに不愉快な顔をする。
「なにもしていないぞ」
「なんにもしとらなくても、気絶しとるやん。このままやったら、話なんも聞かれへん。」
「せやから、ちょっと離れてくれへん?」
「わかった」
そう言って尹怜は少女がかろうじて見える位置に移動した。
白俊は茶の準備をした。尹怜と朴紘範に茶を出し、自分も飲んだ。
尹怜が白俊に質問する。
「どういう経緯だったんだ?」
「ん?、この子?」
「そうだ」
「ああ、突然現れた」
「そんなことがあるのか?」
「そんなことあるから今こうなっとるんやろ」
「どこから来たんだろうな?」
「何となくやけど……俺と同じような気がする」
「じゃあ、自分の時がどうだったか思い出してみろ」
「俺の時か?どうやったのかようわからんな……
ヨリの説明やと、ヨリが家を出た時にはおらんかったが帰ってきた時には家の近くで倒れた、らしい。
ヨリが家を空けたのは、そんな長い時間やなかったと言うとったから、その間に突然現れた、ちゅうことになるんやろな」
そんなやりとりをしている間に少女が目を覚まし、自分で上体を起こした。
ゆっくりと周囲を見まわし、なにも変わっていないことを確認し、がっくり肩を落として俯いた。
白俊がお茶を渡す。
「冷めてもうまいお茶や」
「ありがとうございます」
少女はそう礼を言って、味わいながらゆっくりと茶を飲み干した。
目を瞑り上を向く。
「すごく美味しい……」
そう言って悲しそうに手に持った湯呑みを見つめている。
白俊は少女に、
突然宮廷に続く道に現れたことを話し始めた。
「人通りはそんなに多くない道やった。馬が近づく音がしていたから、危ない、思うたんや」
「もう少しで轢かれそうだったから急いで体を引っ張って事なきを得たんやけど……」
「その直後、気絶してしもうたんで、そのまま連れてきたというわけや」
少女は黙って話を聞いている。
目には涙が浮かんだままだ。
「ここは適雑堂という店で、やる気のない雑貨屋と言われてるんや。
たまにしか開けてない。
ここの住人は、店主の女性と俺や。店主は別件で別のところで寝泊まりしとる」
少女の様子を見て、白俊は続ける。
「こちらのお二人は、この店の常連さんの、お偉い方や」
白俊は二人を紹介するかのように二人の方に手を出した。
それから、少女の方をじっと見る。
「どうや?今、なんか話せる気分か?」
と言った。
少女は静かに首を横に振った。
その後、手招きをして白俊を近くに来るよう促した。
ごく小さな声で、白俊に伝えた。
「体がだるくて重くて、すごく眠いです。正直、声を出すのも辛いので、もうちょっと寝てもいいですか?」
「ああ、ええで」
白俊の許可を得て、少女は再び眠りについた。
呼吸は落ち着いているが、主訴通り体はだるそうでつらそうだった。
三人は少女を見ていた。
白俊は尹怜と朴紘範に言った。
「この子が目が覚めて起き上がれるようになったら連絡しますわ。
あ、帰る前に湯呑みは自分で洗ってってくださいよ」
二人は頷き、湯呑みの後片付けをしてから店を後にした。
白俊は自分の湯呑みを片付けながら、ため息をついた。
そして、自分がこちらに来た時のことを思い出していた。
どうしてここに来たのか、なぜ若い姿だったのか。理由は今でもわからない。
目の前にいる少女は、そんな自分とよく似ているかもしれない。
翌日、少女は目を覚ました。
白俊が店で家賃や手数料と情報を受け取っている最中だった。
起き上がり内側から静かに様子を見て、仕事中だと判断した少女は布団をたたみ腕グーっと伸ばした後、軽く肩をまわして首のストレッチをした。
しばらくすると白俊が戻ってきた。
起き上がった少女を見て一言だけ言う。
「体は?」
「重くてだるいけどもう寝れません」そう言ってはにかんだ。
二人は観察しあった。
若い頃の姿になってはいるが、互いに見覚えのある容貌だった。
顔を見ながら二人は同時に呟いた。
「若い頃の知恵によう似とるな」
「何年も前の俊介にそっくり……」
互いの言葉を聞き、目を見開いた白俊と少女は指を差し合ってはっきり声を出した。
「知恵か?」
「俊介?」
同じ姿勢を維持したまま、二人は同時に頷いた。
二人は同時に声を出した。
「知恵、なんでここにおるんや?」
「俊介、一体どうなってるの?」
「説明難しいな」
「う〜ん……どうしてこんなところでこんな姿で会うわけ?
いつも普通の姿であっているのに……」
白俊は苦笑した。
「説明が難しいな」
二人はむこうの世界と言っている未来で毎日顔を合わせていた。
「ここは、過去みたいなんで……こっちでは白俊と名乗っとる。
こっちにはだいぶ前からおる。流れの医師やっとるわ」
と言って微笑む。
「私は俊介に話したいことがあるのに、眠ってる時間が多いからいつ話そうかと思っていたの。
でも私の話したいことを話す雰囲気じゃなさそう……」
知恵は嬉しさ半分、困惑半分といった表情をした。
「非常に困った状況ではあるけど、こうなっているからには仕方がないわね」
と呟いたあと、白俊を見て言った。
「多分ここで寝てる間、元の世界でいいのかな、本来いるところにいたのよ。
でも俊介はぐっすり寝てた。
疫病って書いてある漢字の本、もしかしてこっちの?と思ったけど、その割には数量あるし、妙に新しかったのよね」
そう言いながら首を傾げて、考えているような仕草をした。
「あれ、印刷屋に発注した?」
知恵は、鋭い視線で白俊の顔を覗き込んでいる。
白俊は一瞬怯んだが、すぐに笑ったような顔になった。
「だから、何気に物を持ち運びできるのかなって思って、これを持っていたら、本当に持ってこれたわ」
そう言ってどこからともなく鞄を取り出しその中からスマホ、タブレット、ノートPCを取り出した。バッテリーも大量に持ってきていた。
外から聞こえていた風の音がぴたりと止まり、蝋燭の灯りの揺れも止まった。
知恵は周りの様子を見て確信した。
「ふーん。これを出すといろんなものの動きが止まるのね。時間も止まるのかな」
知恵は冷静に周りを観察する余裕が出てきたようだった。
白俊は、何からどうやって説明しよう、と考えながらも、ちょうど店番を任せたいと考えていた人がやってきた、とも思っていた。




