表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時禍戦記 ―時を喰らう者―  作者: 綾瀬 灯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/8

第三章・側近の影

 朝日が昇りきる前、玄斎は馬を走らせていた。焼け落ちた城を離れ、山道へ入る。背後にはまだ煙が立ち上り、その黒い筋が、まるで“時の裂け目”のように空を汚していた。


「忠成……なぜだ」


玄斎は呟いた。長年、戦場を共に駆けた男。その忠成が、よりによって禁術に手を染め、未来の影を呼び出すとは。馬の足音が山道に響く。やがて、木々の間から人影が現れた。玄斎の家臣、村瀬弥八である。鎧は傷だらけで、片腕には血が滲んでいた。


「殿……お待ちしておりました」


弥八は膝をつき、深く頭を下げた。


「無事だったか。忠成の動きは掴めたか」


玄斎の問いに、弥八は唇を噛んだ。


「……忠成様は、北の“時守の谷”へ向かったようです」


「時守の谷……ユラの故郷か」


弥八は頷いたが、その表情には別の影があった。玄斎はそれを見逃さない。


「弥八、何を隠している」


「……殿。忠成様は、ただの謀反ではございません」


弥八は震える声で続けた。


「忠成様は、“未来を変える”と申しておりました」


玄斎の眉が動く。


「未来を……?」


「はい。殿を討ち、朔様を“正しい未来の主”に据えると……」


玄斎の胸に冷たいものが走った。朔──未来の子。あの若者が、忠成の掲げる“未来”の象徴だというのか。


「忠成は、朔を……未来の主と呼んだのか」


「確かに、そう申しておりました」


玄斎は拳を握った。忠成はただの裏切り者ではない。彼は未来を信じ、未来に縋り、未来を利用しようとしている。その未来とは──玄斎の死を前提とした未来だ。


「弥八、他に聞いたことは」


「……忠成様は、こうも言っておりました」


弥八は顔を上げ、恐る恐る言葉を紡ぐ。


「玄斎様の血が時を乱す。ならばその血を断たねばならぬと」


玄斎は息を呑んだ。羅刹の言葉が脳裏に蘇る。

──おぬしの血には、時を裂く因果が刻まれておる。


「……忠成は、私の血を恐れたのか」


「恐れ、そして利用しようとしているように見えました」


玄斎は空を見上げた。雲が流れ、光が揺らぐ。その揺らぎは、まるで時間そのものが震えているようだった。


「弥八、北へ向かう。忠成を追うぞ」


「はっ」


二人が馬に乗り直したその時、山の奥から風を裂くような音が響いた。


ヒュッ──


矢だ。玄斎は即座に弥八を押し倒し、身を伏せた。次の瞬間、矢が木に突き刺さる。


「伏せろ!」


木々の間から黒装束の影が現れた。その中心に立つのは──朔。彼は静かに歩み出て、血のついた刀を肩に担いだ。その瞳は、夜に見た時よりも深く冷たく、そしてどこか悲しげだった。


「父上」


朔は微笑んだ。その笑みは、どこか壊れたもののように見えた。


「また会えましたね」


玄斎は刀に手をかけた。だが心は揺れていた。


「朔……なぜ私を追う」


朔は首を傾げ、まるで子供のように無邪気な声で言った。


「父上が生きていると、未来が壊れるからですよ」


その言葉は山の静寂を切り裂いた。


「だから──父上には、ここで消えていただきます」


朔が刀を構えた瞬間、周囲の空気が歪み、木々の影が揺れた。まるで時間そのものが、朔の存在に引きずられているかのように。


玄斎は刀を抜いた。父として、武将として、そして“時を喰らう者”と対峙する者として。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ