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魔勇のルミタリス -敗北した勇者一行が魔王様に連行されて旅に出た結果、魔王×勇者の怪物パーティーが完成した件-  作者: 蒼衣ミノル
第一章 魔王城を抜け出して

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第一章2 魔王様の牢通い

 魔王の住むロベルティ領にてエルドラン率いる勇者団一行が投獄され、一か月が経過した。

 今日も薄暗い牢の中、エルドランは暇つぶしに手記を読む。


「――食事の時間だイラリオ」


 日が沈んだ頃に配膳される食事は、いつもと同じ人物が運んでくる。

 ――黒の長髪に鋭いアメジストの瞳を持つダークエルフ族の女、リーメである。

 魔王軍の参謀である彼女は、いつも無機質に食事を運んではそのまま言葉を発さずその場を去って行く。


「……またパンかよ。たまには肉とか食わせてくれ。もう飽きたぞ」


「慎め、お前は囚われの身だ。黙って食べるがいい」


 いつもと同じく、配膳のメニューは固いパン、ミルク、野菜のスープ。

 味は悪くないが、たまには豪華な肉でも食いたいものだ。

 文句を呟きながらエルドランはパンを口へ頬張る。

 食事を運び終えたリーメは颯爽と去り、夜が更けていく。

 再びエルドランは手記に目を通し、暇を潰すが――


「――おーいエルドラン。今日も来たよ~」


「げっ。……またかよ」


 先程の冷たいリーメの声色と違い、ドアの外から子供のように明るい口調が聴こえてくる。

 ……今日でもう何日連続か分からないが、また()()が来た。

 訪問者の正体を悟ったエルドランは小さく返事をする。

 ドアが開かれると、いつもの如くルミタリスが嬉しそうに牢へ入室した。


「ふふ、暇な勇者君のために今日も僕が来てやったぞ」


「ただお前が来たいだけだろ……」


 いつもと変わらぬ魔王の様子に、エルドランはやれやれと息を吐く。

 なぜこのようなことになったのかはエルドラン自身も分からないが……すっかりルミタリスは牢へ通うようになっていた。


「さあ、今日も聞かせてもらおうじゃないか。君がしてきた旅々のことを」


「毎晩毎晩、よく飽きねぇな」


 ――エルドランがルミタリスに手記を渡してから、すっかり彼女はその壮大な旅物語に夢中になっていた。

 毎晩エルドランの牢に通っては、旅の話を聞きに来る魔王。

 そのよく分からない関係性に困惑しつつも、エルドランは今日もルミタリスに旅の話をしてやる。


「――それで、俺達は古代魔竜の一匹であるルバルレウスを倒した。二度の敗走を経て、ようやくだ」


「そんな方法で……凄いね。で、その後はどうしたの?」


「ああ。その後は――」


 エルドランの旅路を格子越しに真剣に聞くルミタリス。

 このような会話を一か月続けた中で、エルドランはルミタリスがどういう魔王なのかを大方把握することができた。


 ――まず、この魔王は馬鹿である。


 いや、馬鹿みたいに純粋であると言い換えたほうがいいかもしれない。

 会話の中で、エルドランはルミタリスが魔王として君臨している理由を知った。

 それは、ルミタリスの父親にあたる亡き大魔王の言いつけを守り続けるためであると。

 魔王族は誇り高き血で、圧倒的な力により人々を従えなければいけないという父の教えを律儀に守り続けている。

 更にはこの世界に君臨する他の魔王達と違い、ルミタリスは支配や政治に興味がないということも知った。


「……魔王らしくないな、お前は」


「ん? 何か言った?」


「いや。何でもない」


 自分の話に目を輝かせるルミタリスを見て、エルドランは思わずそう口にした。

 幼く無邪気なその姿を見ていると、本当にこの魔王は俺達を処刑するのだろうかということをエルドランは考えてしまう。

 

「……さっきから気になってたんだが、ルミタリス。その頭のリボンはどうしたんだよ」


「ん? ああ、これ?」


 ふと月明かりに照らされたルミタリスの方を見ると、頭に小さな黒いリボンが結ばれていた。

 角の根元に添えられるように結ばれたそれは、ささやかな装飾でありながらも彼女の美しさを引き立てている。


「このリボンはマナに貰ったんだよね」


「は!? マ、マナ……?」


 ルミタリスの口から飛び出た予想外の言葉に、エルドランは瞠目する。

 まさか……マナはもう魔王軍によって。

 ドクンと波打つ心臓を押さえ、エルドランは問いかける。


「おい……。お前、それってまさか」


「ふふん。ビックリしたかな?」


「――!」


 ――やはりコイツは敵だ、信用してはならない。

 エルドランは後ずさりし、ルミタリスの方を睨む。

 マナはもう処刑されてしまったのか?

 エルドランはそう敵意の目を向けるが――


「――君の牢に寄った後、実はマナの牢へも寄っていてね。女の子同士だからかな、話してみたらすぐに意気投合してさ」


「……はあ?」


 軽い口調でそう呟くルミタリスに、思わずエルドランは情けない声を上げた。

 ……じゃあつまり。


「お前、マナとも仲良くなってたのか?」


「うん。驚いたでしょ」


 たしかにマナは誰にでも分け隔てなく接するタイプではあるが……まさか二人がそんな仲になっていたなど思ってもみなかった。

 何はともあれ、マナが処刑されたわけではないことを知ってエルドランは安堵する。

 

「じゃあリンヴルとも?」


「……それは叶わなかったよ。接触を試みはしたが、魔王と仲良くする気はないから出て行けと」


「――! そうか、まあリンヴルはそういう奴だ」


 リンヴルは陽気でパーティーの中でもムードメーカーだが、仲間に対する想いと愛の真剣さは誰にも負けないほどの情熱を持っている。

 きっとこの戦いに関しても負い目を感じており、負かされた相手と馴れ合いなんてしたくないのだろう。


「……いつかはリンヴルとも仲良くなってみたいけど」


「何の冗談だよ。お前らは俺達のこと処刑するんだろ、いつかなんて無いぞ」


「うん。……そうだね」


 冷たくそう告げると、ルミタリスは少し肩を落として暗い表情を浮かべる。

 エルドランにはその表情の意味が理解できなかった。

 自分達にとって脅威である勇者を排除できるのだから、魔王軍にとってこれ以上に喜ばしいことはないだろうと。


「……多分、君達の処刑はもうじきだよ。タイミングに関しては参謀のリーメに一任してある」


「ああ。一刻も早く殺したいって思ってるだろうからな」


 その言葉に、エルドランは動揺することなく淡々と答えた。

 ルミタリスの顔からはやはり笑顔が消えている。


「もっと喜べよ。俺たち勇者が消えればもう魔王を狙おうなんて奴も暫くいないだろうし、お前らも過ごしやすくなるだろ」


「うん……そうだね。ロベルティ領は安泰、パパの言いつけも僕は守ることができる」


 自身に言い聞かせるようにルミタリスは小さく呟く。

 しばらく薄暗い牢の間に沈黙が流れる。

 ――その沈黙を打ち破ったのは、いつもの無邪気で元気な声色へ戻ったルミタリスであった。


「そうだよ、嬉しいさ! 君達を倒して、僕はまた魔王としての格が上がる。ふふん、まあ君たちの実力は褒めてあげるよ。僕をここまで追い詰めたことは誇りに思いなさい、直接この僕に戦いを挑んできたのは君達が初めてだからね」


「――! ……ふん、生意気なやつだな」


 いつも調子に戻ったルミタリスを見て、エルドランは少し安堵する。

 勇者と魔王は敵同士、これでいいのだ。


「……ねえ、エルドラン」


「何だ」


「旅はさ、楽しかった?」


「……? いきなりなんだよ」


 ルミタリスの唐突な問いかけに、エルドランは目を丸くする。

 彼女の問いかけの意味は分からないが――問いの答えなら出ている。


「広大で多種多様な種族の生息する国々、自然豊かな山々、雄大な海、自由で開放された空。俺達はこの人生の中で、色んな場所を旅した。まだまだ行きたかった場所はあるが……楽しかったさ」


「――!」


 エルドランはルミタリスの問いにハッキリと答えを出した。

 その言葉を聞き、ルミタリスの心はざわめく。

 ――途方もなく長い年月を魔王城で過ごしてきた。

 欲しいものは全て手に入り、何不自由ない豪華絢爛な生活。

 しかし、その生活で心の奥が満たされることはなかった。

 もしこの心を埋めるピースがあるとすれば、それは――


「――あのさ、エルドラン!」


「……? どうした、急にでかい声出すなよ。ビビるだろ」


「僕は――」


「――監視中に失礼いたします、ルミタリス様」


 ――二人の会話が、無機質なドアの開閉音にかき消される。

 牢に入室したのは、魔王軍の参謀であるリーメであった。


「……? どうしたのリーメ。こんな遅い時間に珍しいね」


「はい、ルミタリス様。幹部会議の結果、そこにいる憎き勇者エルドラン・イラリオの処刑日が決定いたしましたのでお伝えしに参りました」


「――え」


「処刑日は明後日の早朝。リンヴル・パルマ、マナ・ジュベルの処刑も同日に取り行うこととします」


 広大で多種多様な種族の生息する国々、自然豊かな山々、雄大な海、自由で開放された空。

 ルミタリスが頭の中に描いた幻想的で自由な旅路は、一人の優秀な参謀の淡々とした通告によって掻き消されることとなったのである。


 

 



 


 

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