タイトル未定2026/09/06 13:58
アイリーンは夏と別れた後、自分の部屋で魅惑した男性を椅子にし、体を撫で回しながら呟いた。
「さて、疫病神と呼ばれている人物がどこにいるか分かったかしら?」
すると、土下座をして控えていた女が答える。
「はい、アイリーン様。疫病神と呼ばれている女は、現在学園外の図書館におります」
「ふーん、図書館ね。なら、今すぐここに連れてきてくれるかしら? 夏の情報を集めている奴らにも、作業をやめてそちらを優先するよう伝えなさい」
「かしこまりました、アイリーン様」
女は立ち上がると、その場からすっと姿を消した。アイリーンはつまらなさそうな顔を浮かべる。
「ねぇ、何か楽しませてくれないかしら?」
そう言いながら、魅惑されている男性の体に淫らに触れ始めた。男性は困惑しながら声を漏らす。
「あっ、アイリーン様……おやめください」
「ふふふ、かわいいわね。……でも、楽しくないわ」
アイリーンは立ち上がると同時に指先から攻撃を放ち、男性を撃ち抜いた。部屋の中に血が飛び散る。
「汚れたから片付けて頂戴。……あぁ夏、あなたはどんな風に壊してあげましょうか。今から考えるだけで……」
興奮に体を震わせるアイリーン。どこからともなく現れた数人の配下が、手際よく死体を回収していった。
同じ頃、拓海もまた自身の部屋で、授かった力を試そうとしていた。
気絶している生徒たちを縛り上げて近くに待機させると、そのうちの1人の顔をビンタして叩き起こす。
「起きろ」
目を覚ましたその人物は、混乱しながら尋ねた。
「拓海……大丈夫なのか? アイツは……って、なんで僕は縛られてるんだ?」
「あぁ、僕は大丈夫さ。それよりも、なぜ縛っているかだって? そりゃあ決まっているだろ。力を試そうと思ってね。まずは君で試させてもらおうか、副部長」
拓海が笑顔で頭に手を差し伸ばすと、副部長は慌てて声を張り上げた。
「拓海、待て! 待て待て、何をするんだ!? いったいどうした、一度話そう!」
「話すことなんて何もないよ。大丈夫、死にはしないさ。ただ人格が完全に壊れて生まれ変わるだけだ。僕のために生まれ変われることを光栄に思え」
拓海が手に魔力を込めると、副部長はこの世のものとは思えない叫び声を上げた。その凄惨な悲鳴に、周囲で意識を失っていた生徒たちも次々と目を覚ます。
「何が起こってるの!?」
「いったい何が……!?」
部屋中に恐怖の声が響き渡る。
拓海が手を離すと、副部長の顔つきが一変していた。声も低くなり、恭しく口を開く。
「拓海様、これからあなた様に忠誠を!」
そう言って膝をつく副部長を見て、拓海は満足げに笑った。
「成功か。中々に面白い力だ! ならお前に命じる。疫病神と呼ばれている女性を連れてこい。奴は現在、いつもの図書館にいるはずだ。その間、他の奴らも同じようにしてやる」
「了解いたしました」
立ち去る副部長の背中を見送り、残された者たちは絶望に打ちひしがれる。拓海は狂気的な笑顔を向けた。
「大丈夫さ、君たちは僕に尽くすために生まれ変われるんだから」
その後もしばらくの間、部屋には苦悶の叫び声が響き渡り続けていた。
また別の部屋では、1人の人物がブツブツと呟きながら怪しげな作業をしていた。その横で誰かが通信を繋ぐ。
「チルチット様、聞こえますでしょうか?」
画面が映し出され、チルチットが姿を現した。
「うまく潜入できたようだな。して、何か用があって連絡してきたのだろう?」
「この場所の襲撃について、良き日時が見つかりましたので報告に連絡いたしました」
「ほう? いつが良い?」
「2週間後です。勇者育成本部の最高責任者と学園長が大事な話をするとのことで、この場を離れるそうです。学園長がいなくなれば、戦力はかなり激減するかと」
「ほう。そこの学園長は魔族界にも知られているほどの奴だ。アイリーンには結界の件を頼んだが、あれは保険だ。そのまま殺されるか、戦力を削ってくれればと思っていたのだが……なるほどな。ならば2週間後……いや、その翌日だ。その時にお前が結界を解除し、我々が通れるゲートを作れ。それまでに俺も力を取り戻しておく。アイリーンには何も伝えるな」
「了解いたしました。では、また何かありましたら連絡いたします」
通信を切ったその人物は、部屋の入口へ向かい、指をパチンと鳴らした。すると、先ほどまでブツブツと言っていた人物が意識を取り戻し、何事もなかったかのように作業に戻っていく。
(さて……まずは面白いことになっているアイリーンと、あの力を授けた人物が狙っている『疫病神』という人物を助け、あの奴隷だった子と『夏』という人物に近づくとしますかね)
その人物は静かにその場をあとにした。
そして、それらの出来事が起こる少し前のこと――。
学園長室では、ママス学園長が怒号を上げていた。
「ふざけるな! そんな話は聞いてない!」
『これは決定事項ですよ。勇者育成本部は“夏”という人物の指導・教育を行うことに決定しました』
「意味がわからない! なぜそのようなことを!?」
『あなたが一番よく分かっているのでは?』
「知らない! それに夏を引き渡すことはできない。一度、話し合いの場を……」
(……どこで夏の秘密がバレた? このままでは利用されてしまう)
思い悩むママスに、通信の相手は冷淡に告げる。
『ふむ……仕方ありませんね。引き渡していただく方針は変わりませんが、話し合いの場は設けてあげましょう。2週間後、勇者育成本部にて待っています』
そう言い残し、通信は途絶えた。ママスは頭を抱えて呟く。
「……紅からバレたか? 紅は勇者育成機関からこの学園に編入しているからな。それ以外には考えられない。はぁ、あの時に夏の秘密を話すのではなかった……」
側に控えていたマルコスが静かにフォローを入れた。
「紅に悪気があったわけではありません。あの機関がおかしいだけです。……しかし2週間後となると、その間は学園が手薄になりますね」
「……確かに。だが、直接会って話さなければならない」
学園長室には、重々しい空気が流れていた。




