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双子姉妹と異世界  作者: ひろろ
夏 崩壊編
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 第ニ章:蠢く陰謀と、隔離された「疫病神」

 


 解呪の儀式を終えた夏が自身の教室へと戻ると、後ろの窓際の席に座っているククリスとシルクの二人が目に留まった。目が合うと同時に、シルクがひらひらと手を動かす。


「夏、こっちにきな」


 手招きに応じ、夏は二人の向かいにある空いた席に腰を下ろした。


「どうも。それにしても、ククリスが授業に出るの、初めて見たんだけど……」


 夏の素直な感想に、ククリスは面倒くさそうに視線をそらす。


「本当は、今日も出ないつもりだったんだけどね……シルクに捕まったから仕方なく出てるだけ」


「ククリス、授業をサボると卒業できないわよ!」


 シルクが窘めるように身を乗り出した。


「それに、近いうちに学園のNOを決める試験があるって言うのに……何も準備してないでしょう?」


「……別に、準備なんてしなくても問題ないわよ」


 ククリスはどこ吹く風といった様子で呟く。そのやり取りを聞いていた夏が、疑問を口にした。


「そんな試験があるんですか? っていうか、そもそも私、この学園のNOが誰なのかすら知らないんだけど……。知っているのはククリスとシルクだけ。あとは、あの桜を酷い目に遭わせた『異世界人サークル』の部長さんがNO5ってことくらいで」


 するとシルクが、「それなら」と学園の頂点に君臨するNo.7までの人物たちを簡単に教えてくれた。


  * **NO1:シルク**

  * **NO2:ククリス**

  * **NO3:比嘉斗真(ひがとうま)** [男性]

  * **NO4:黒猫爽子(くろねこさわこ)** [女性]

  * **NO5:藤拓海(ふじたくみ)** [男性]

  * **NO6:アイリーン** [女性]

  * **NO7:ランディ** [男性]


「拓海とアイリーンは、注意した方がいい。悪い噂があるからね」


 ククリスが、少し声を潜めて付け加える。


「拓海がどんな奴かは、何となくこの前の件で分かったと思うけど、アイリーンも気をつけなさい」


 夏が神妙に頷いたその時、タイミングよく教師が教室に入ってきた。三人は前を向き、午前の授業が始まった。


 午前中の一通りの授業が終わり、夏は席を立ち上がった。茜と桜が待っている食堂へ向かうためだ。夏は荷物をまとめながら、シルクとククリスに声をかける。


「今から食堂に行くんですが、二人はどうしますか?」


 すると、シルクは机に突っ伏したまま、気怠げに片手だけを挙げた。


「私はいい。後で部屋に戻って食べるから」


 その言葉を見越していたかのように、ククリスが自身の懐からいくつかのパンを取り出して机に並べた。


「午後からの授業、サボるつもりでしょう、シルク? そんなことだろうと思って、パンを持ってきたわ」


 シルクは呆然とパンを見つめ、それからククリスを仰ぎ見る。


「ククリス、あんたは私の母親か何か……?」


「授業をサボろうとするあんたが悪いのよ」


 二人の息の合ったやり取りに、夏は思わず笑みをこぼした。


「ふたりの邪魔をしたら悪いですね、失礼します」


 そう言い残し、夏は足早に食堂へと向かった。


 その頃、桜と茜の二人もまた、食堂へと向かって廊下を歩いていた。桜が隣を歩く茜の顔を覗き込む。


「茜、大丈夫? 物凄くしんどそうに見えるけど……」


「……ククリス様の訓練が、ちょっと厳しくてね。今朝も、朝早くから『体力がなきゃ話にならない』って言われて、ずっと走らされていたの……」


「そっかぁ、大変だったね」


 そんな会話を交わしながら角を曲がると、前方の廊下が何やら騒がしくなっていることに気づいた。人だかりの向こうから、鋭い怒声が響く。


「お前、早く学校辞めちまえよ!!」


「この、疫病神が!」


 見ると、壁際に一人の人物が追い詰められていた。髪が長く、一見しただけでは性別が分からないその人物の周りを、数人の生徒が取り囲んで罵声を浴びせている。


 見かねた茜が助けに入ろうと一歩踏み出した。しかし、壁際にいた人物は差し伸べられそうになった他人の手を拒絶するように振り払うと、そのまま脱兎のごとくその場から走り去ってしまった。


「あ、おい! 待ちやがれ!」


 疫病神と罵っていた生徒たちが、逃げた人物を追いかけようと一斉に走り出す。彼らがちょうど茜と桜の横を通り抜けようとしたその瞬間――。


 茜が、すっと静かに片足を突き出した。


「うわっとぉ!?」


「ぎゃふんっ!」


 勢いよく走っていた生徒たちは茜の足に見事に引っかかり、派手に転倒して床に転がった。茜は彼らの一瞥もくれることなく、何事もなかったかのように歩き出す。


「桜、行こう。主様が待っているわ」


「あっ、うん!」


 二人はそのまま、足早にその場を立ち去った。


 後に残された生徒たちは、痛む体を擦りながら起き上がり、忌々しげに辺りを見回した。


「クソッ! 何なんだよ、邪魔をしやがって!」


 周囲の野次馬たちの視線に気づき、さらに顔を真っ赤にする。


「見るな、お前ら!」


 彼らは怒鳴り散らしながら、恥を隠すように慌ててその場から逃げ去っていった。


 一方、その騒動を遠巻きにじっと観察している「とある人物」がいた。その者は影から冷徹な視線を送り、低く呟く。


「あの二人と、先ほどの奴は使えそうだな。……そしてNO5の藤拓海を利用し、あのチルチット様の奴隷であった女を捕縛すれば、きっと喜ばれるであろうな」


 不穏な笑みを浮かべ、その人物は音もなくその場から姿を消した。


 その頃、「疫病神」と呼ばれた人物は、学園の裏庭へと駆け込んでいた。激しく息を切らし、「はぁ、はぁ、はぁ……」と苦しげな呼吸を漏らす。


 ようやく呼吸が落ち着いてくると、その人物は自身の左手をじっと睨みつけた。


「この腕の痣が……、痣さえなかったら……。こんな、こんな、こんなことにならないのに……!」


 衣服の袖を捲り上げたその左手には、禍々しいドス紫色の痣が、皮膚を覆い尽くすように広がっていた。その人物は呪わしげに痣を見つめた後、深く息を吐き、それを隠すようにしっかりと手袋をはめ、再び歩き出した。


 場面は変わり、活気に満ちた学園の食堂。


 夏たちは無事に合流を果たしていた。そこには、自称勇者を名乗る響野紅(ひびきのくれない)と、人間と魔族の混血である西黒魔(にしくろま)も同席しており、賑やかに食事を囲んでいる。


 一通り食事が進んだところで、茜が思い出したように切り出した。


「あの、この学園で『疫病神』って呼ばれている人がいるのですが……なぜそう呼ばれているのか、主様はご存知ですか?」


 その言葉に、真っ先に反応したのは紅だった。箸を止め、真剣な面持ちになる。


「……彼女に会ったの?」


「会ったというか、いざこざに出くわした際に声を聞いたの。彼女はどうしてそんな風に呼ばれているのかしら?」


 茜の問いかけに、紅と黒魔は一瞬、重苦しい視線を交わし合った。


 紅は周囲を警戒するように見回すと、他の生徒に会話が漏れないよう、手際よく周囲に「遮断の魔法」を展開した。空間がかすかに歪み、内側の声が外へ聞こえなくなったのを確認して、紅は静かに口を開く。


「……それが、なぜ彼女がそう言われ始めたのか、実は私たちも詳しくは知らないの。本当に、いつの間にかそう呼ばれ始めていたのよ。ただ……噂では、彼女の体には妙な痣があって、それを見た者が次々と病気に倒れたとか……」


 隣で腕を組んでいた黒魔も、神妙な顔で頷き、紅の言葉を継いだ。


「俺も実際のところはよく知らないんだ。けど、確かに奇妙な痣があるっていうのは事実らしくてな。それを目撃した奴らが、次々と謎の病にかかったって話は、嫌でも耳に入ってくるな」


 肉親や親友すら遠ざけるその「痣」の正体とは何なのか。遮断された結界の中で、一同は言い知れぬ不気味さに包まれるのだった。


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