第六章:魔王の正体と、冬の決死行
路地裏でケオンと二人きりになった冬に、沈黙を破ってケオンが問いかけた。
「‥あんた、異世界人なのか? あの、クレアって言う魔族に刻印を刻まれてんのか?」
「異世界人なのは正解よ。けど、私はクレアに刻印を刻まれてないわ。そもそもクレアは、人間との和平を望んでるの」
「はあ? どいう事だ? 魔族が和平を望んでる? あのクレアって言う魔族は何者なんだ?」
ケオンの疑問に、冬は首を振った。
「‥それはクレアが話すと言ったから、私が答える訳にはいかないわ。それに、戻って来たみたい」
その言葉通り、クレアが残りの追っ手を捕縛して戻ってきた。地面に優しく降ろされた仲間たちは、ケオンを鋭く睨みつける。
「俺たちを売ったのか?」
「‥最低な人ね、貴方は」
罵倒を浴びせられたケオンが必死に弁解する。
「違う! この人達が、ボスを始末するのを手伝ってくれるんだ。だから、お前達をここに連れて来てもらったんだ」
「待て、待て。何故そうなった?」
「信じてもいいの?」
戸惑う彼らの前に、クレアが一歩踏み出した。
「その前にケオン、妾が何者かを教えると言ったのを覚えているかしら? 今から、貴方達に見せていた仮初めの姿を解除するわ」
クレアが隠蔽魔法を解いた瞬間、路地裏に真の威圧感が満ちた。その姿を目の当たりにしたケオンたちは、腰を抜かさんばかりに驚愕した。
「冗談だろ‥? ま‥ま、魔王エリーズ・クレア!!!」
「‥嘘だ、嘘だ、嘘だ! 死んだ筈だろ? 俺達をどうする気だ!」
「殺さないでください、お願いです! 謝りますから、追った事を謝りますから!」
(‥皆の驚き様は凄いな。クレアって凄い魔王なんだって改めて思わされるわ)
冬が感心していると、クレアは穏やかに告げた。
「どうもしないし、殺しもせぬ。そう怖がるでないわ」
冬も彼らを落ち着かせようと、つい余計な言葉を付け足してしまった。
「皆様、大丈夫ですよ。クレアは甘えん坊だし、人間との和平を望んでるので」
その「甘えん坊」という単語に、クレアが即座に食いついた。
「甘えん坊だと? 冬の方がそうではないか! 妾と接吻する時、凄く甘えた目をしておるのだからな」
「な、な、な、違うわよ! して、してないんだから、そんな目! クレア、無し、無し、この話しは無しだよ!」
「そっちが先に言うからだ」
呆然と立ち尽くすケオンたちの前で、主導権争いを始める。
「‥あの、落ち着きました? それと‥‥今の会話は出来れば忘れてもらえると助かります」
冬が赤面しながら頼むが、三人の叫びが路地裏に響き渡った。
「出来るか! 魔王と何してるんだ!」
「無理だろ! 魔王と接吻なんてあり得ないだろ!」
「何してるのですか! 魔王と!!」
その後、クレアは自身が封印されていた経緯や、和平の願いが陰謀で潰えたこと、そして異世界人専用の刻印など作っていないことを真摯に話した。
「なんだよそれ‥‥信じられない。けど、異世界人の冬と一緒にいるのを考えれば、本当なのかもしれないな」
「‥‥嘘だらけじゃないか。王や貴族共の好き勝手な世界じゃないか」
「頭がパンクしそうね」
衝撃の事実にそれぞれが思いを口にする中、クレアが本題に戻した。
「さて、話は済んだわ。これからどうやって、あのボスを始末するかを考えなくてはならないわね」
ケオンが情報を共有する。
「ボスは、滅多にあの場所から離れません。けど時折人質を確認しに行ったり、新しい人質を確保した際に刻印を刻む為に一人になる事があるんです」
女性の仲間も続けた。
「その時以外は、取り巻きたちと酒を飲んでるわ。けど、既に何人か知らない人物達を確保していて、玩具にする為に近いうちに刻印を刻むらしいの」
それを聞いた冬が、大胆な提案を口にした。
「‥なら、私が捕まって刻印を刻まれる瞬間を狙えばいいのでは? 刻印を刻まれるように、私がボスを誘導するの」
「危険だ! もし間に合わず刻印を押されれば、一生背負って生きなきゃならないんだぞ!」
「ダメよそんなの! 認められないわ」
ケオンと女性は反対するが、もう一人の男は違った。
「俺は賛成だ。ボスが一人になる瞬間こそが最大のチャンスだ。それ以外だと戦力的に厳しい。それにボスを始末してしまえば、寝返る者達もいるかもしれない」
クレアは冬の瞳をじっと見つめ、その真意を言い当てた。
「冬‥‥正直な事を話して。その刻印のリスクを負おうとしているのは、姉の夏という人物がいるのではないかと、調べるつもりで言ったのではないかしら?」
「‥‥うん。既に何人かの知らない人物達が捕まっているなら、夏がいる可能性がある。その前に確認したいの。ダメ?」
「きっと反対しても、無駄なのだろうな‥‥」
「うん。これだけは、クレアの頼みでも譲れない」
クレアはしばし考え、取引を持ち出した。
「‥‥三日おきの約束を、今回反対しない代わりに、今回だけ二日後にしてくれるなら、認めましょう」
「‥‥卑怯よ!」
「「「何の話だ? 三日だの二日だの」」」
ケオンたちが困惑する中、クレアが「それは」と口を開こうとした瞬間、冬が慌てて遮った。
「分かった、分かったわよ! 今回だけだからね! この話しはもう終わり!」
こうして、冬自らが囮となる危険な作戦が、正式に採用されることとなった。




