第5章 路地裏の遭遇と、ケオンの願い
食事処を出た冬とクレアは、広場から遠くに見える舟を眺めていた。
「ようやく、バイーンという場所に行けるね。その、サンボルト・マミーってどんな人なのです?」
冬の問いに、クレアは答えた。
「マミーは、最上級魔族の中でも唯一の変異魔族かしら」
「変異魔族? それはどういう事?」
「簡単に説明すると、魔族の特徴である翼は黒い翼だが、マミーの翼は左右で色が違い右が黒で左が白、更に片翼は長さがバラバラの白い翼かしら。まぁ、変異魔族は他にも何人かはいるが‥マミーみたいな変異はいないわ」
「想像がつかないわね。それで‥そのサンボルト・マミーって人は女性なの? 男性なの?」
すると、クレアがジト目で冬を見た。
「冬、妾がいるのに‥もしかして男性だったらそっちにいくの?」
「違うわよ‥多分」
「多分って何?」
「‥私だってか弱い女性だから、男性だったら気になる年頃なの。別に、やましい訳ではないよ! それは断じて」
「本当かな? まぁ、いいわ。マミーは女性よ。それよりも‥‥先程から、コソコソとついてきている連中がいるのだけれども」
冬はハッとして周囲を警戒した。
「‥‥やっぱりですか? もしかしてクレアが魔王ってバレてるから?」
「いや、それは無いと思う。ホワイトドラゴンと冬のお陰で魔力が充分だから、軽めの隠蔽魔法を使ってる。強くない奴には、気づかれない筈よ」
「そうなの? けどそれなら何が目的なんだろう?」
「分からないな。とりあえず、あの路地裏まで走り、捕縛して聞いてみるのが手っ取り早い」
二人が走り出し、路地裏に逃げ込むと、尾行していた者たちは慌ててその後を追いかけた。
路地裏に入り、辺りを見渡して男たちが毒づく。
「糞、見失ったぞ!」
「だが、何処に?」
「分からない‥けど近くにいるはずだ。手分けして探すぞ」
男たちが分かれていく中、一人の人物がその場に残り、辺りを探り始めた。
「‥何処にいきやがった」
男が呟いた瞬間、低い屋根から冬が飛びかかり、そのまま男を押し倒した。
「何が目的? 話せば手荒な真似はしない。それに、叫んでも誰も来ないわよ。結界を張って貰ったから」
(魔法で能力強化して貰ってるけど‥屋根から飛びかかるのは怖いわね。このまま話してくれればいいのだけど)
だが、押し倒された男は不敵に笑った。
「まさか、この程度で捕縛したなんて言うなよ。こんなものはこうだ」
男は冬を逆に押し倒し返し、形勢を逆転させた。
「形勢逆転だな、女。もう一人の女は何処だ? けど、俺たちの目的はあんただよ。抵抗せずに来ると言うなら手荒な真似はしない」
「‥そう。狙われていたのは、私なのね。クレア!」
冬が呼ぶと同時に、男の首元に冬から借りた短剣が押し当てられた。
「お前こそ、油断しすぎよ。死にたくなければ、何故冬を狙ってるのか理由を話しなさい」
男は観念したのか冬を解放し、両手を上げた。
「話すから、殺さないでくれるのか? まだ死にたくないんでね」
冬は立ち上がり、男に問い詰める。
「なら、話してください! 何で私が狙われてるのか」
「‥あんたのその痣。ホワイトドラゴンの卵を収納する痣だから、卵を持ってる可能性がある。だから、ウチのボスから捕縛してこいと命令を受けたんだ」
クレアが問い返す。
「‥なるほど。仮に、卵なんて持っていなかったとお前が証言すればどうなる?」
「証言したところでボスは聞き入れないだろう。それに、卵を収納できる痣がある手なんて今では凄く貴重で、闇市では高値で売れる。切り落として行かないと、逆に俺が殺される」
冬はふと思い、男に聞いた。
「‥あの、そんなにこの痣の事に詳しければ‥孵化のさせ方とかも知ってますか?」
男は目を見開いた。
「‥‥まさか、卵を収納してるんだな、その口ぶり。こりゃまた‥偉い事になったな‥」
「知られてしまったからには、このまま逃がす訳にはいかないわね」
クレアが殺気を放つが、男は続けた。
「孵化の仕方は知ってるさ。実を言うと‥俺も若い頃にその痣を持った異世界人と共に過ごしてたからな。教えてやってもいいが、条件がある」
「条件? 私達は、船で早くバイーンに向かわなければならないから、簡単な事しかできませんよ?」
「船で行くのは無理だ‥この船着き場はボスが管理している。だがこれは好都合か‥俺の条件は、ボスを始末する事だ」
「ボスを始末するって、殺すの? 話し合いで解決とか出来ないのですか?」
冬の言葉に、男は首を振った。
「‥‥無理だな。俺の彼女だった異世界人は、ボスに異世界人専用の刻印を刻まれ、殺されたんだ。だから俺は潜入し、時を待ってた。それに‥今、お前達を追いかけていた者達も、その刻印を刻まれ人質とされている。だから従うしか無かった。‥解呪は無理でも、その刻んだ者を殺せば能力は使えないが、自由に過ごせる。だから、ボスを始末したい」
クレアが口を開く。
「‥その異世界人専用の刻印を刻んだボスとやらは、魔族か?」
「いや、人だよ。何でも最上級魔族や、貴族達からその刻印の刻み方を学んだそうだ」
「最上級魔族がね‥‥」
冬は心配そうに寄り添った。
「クレア‥‥大丈夫?」
「大丈夫‥だけど、妾の言った事を守らぬ愚か者達は許さない。たとえ同胞であってもね」
冬はケオンを見た。
「クレア‥‥とりあえず、この人の条件を受け入れませんか? 私は‥始末なんてしたくない。けど‥聞く限りでは、生かしておいてはいけない人なのかもしれない」
「分かったわ。とりあえず、受け入れるとして‥先ずはお前たちに妾の正体を明かすから、妾達を追いかけていた人物をここに連れてくる。それまでここで待ってなさい。それと、男。冬に何かすれば許さないからな」
「分かったよ‥それと、俺はケオンだ」
男が名乗ると、クレアはその場から離れ、残りの仲間を捕縛しに向かったのであった。




