第三章:ホワイトドラゴンの遺志と、繋がる熱
冬は、クレアと出会った時のことを必死に思い出していた。
(そういえば……出会った時も、彼女はふらふらしていて、突然キスをしてきた。「妾の絞り取られた力を持ち合わせている」なんて言っていた気がする。あの時はキスの衝撃で頭がいっぱいで、忘れていたけれど……)
サザレやレオルドリッチも、何かを話していたはずだ。
深刻な表情で黙り込む冬を見て、竜は静かに問いかけた。
「何か思い当たる節があるようだね」
「……クレアに出会った時、私の体には彼女の絞り取られた力が残っているって、キスをされた後に言われたの。私はその時、パニックで……。でも、あれがクレアの魔力補給だったんだ」
「彼女がそう言ったのなら、そうなのだろう。……弱気者よ。そしてクレア。お前たちは互いにもっと話をすべきだった。今回の件は、どちらにも非がある」
クリス・ロックは諭すように言い、最後通牒を突きつけた。
「この話は終わりだ。どうする、弱気者よ。クレアを助けるか、助けないのか」
「助けたいに決まってる……! だけど、そうすれば貴方は命を落とす。私には、こんな大切なこと決められないよ!!」
冬の叫びに、竜はどこまでも穏やかに答えた。
「私はこの子が孵化し、元気に育てばそれで良い。長く生きた中で、お前のような異世界人は初めてだ。魔族や人間以外の種族のために、これほど悲しんでくれる者は。……弱気者よ、クレアを助けなさい。そして、よく話しなさい」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
冬の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。竜はクレアを抱えていない方の手で、優しく冬の頭を撫でた。
「泣くでない。弱気者よ、お前の名を教えてくれないか」
「……わだじは……ふじぎ、ふゆ……っ」
「ふじきふゆ、か。良い名だな。私はホワイトドラゴンの、クリス・ロック。ふゆ、私の大切な子を頼みます。――では、今からクレアを助ける」
クリス・ロックの手が離れ、両手でクレアを包み込む。同時に、その体が神々しい光を放ち始めた。冬はそのあまりに清らかな光景を、泣きながら目に焼き付けた。
光が収まると、クリス・ロックは静かにクレアを地面に下ろした。そして、卵に優しく頭を当てる。
「成長を見届けられなくて済まない。冬がちゃんと見届けてくれるはずだ」
最後に、冬へと視線を向けた。
「後のことは任せましたよ、冬。クレアとも、よく話すのですよ」
それが最期の言葉だった。言い終えると同時に、クリス・ロックの体は真っ白な骨と化し、地面に崩れ落ちた。
「ぐりず・ろっぐざん……っ。わだじ、見届けるがら。ぜったいに、あなだがしてぐれだごど、わずれぜんがら……っ!」
冬はしばらくその場で、声を上げて泣き続けた。
やがて落ち着きを取り戻した頃、クレアが目を覚ました。赤く腫れた冬の目を見て、彼女は愕然とする。
「冬……目が腫れている。それに、竜の骨に、卵……? 妾は魔力を使い切ったはずなのに、なぜ生きているのだ? 魔力が、かなり補給されている」
冬は、隠すことなく全てを話した。
「……そんなことが。ホワイトドラゴンは、妾が封印される前には乱獲されて絶滅寸前だった。生き残りがいたのだな。異世界人を憎んでいるはずなのに、お主に卵を託し、妾を助けるために命を……。返しきれぬ恩を貰ってしまった」
冬は俯き、絞り出すように言った。
「……クレア。あの、ごめんなさい。私、キスを拒んでしまって。ちゃんと話を聞いていれば、こんなことにはならなかったのに」
「いや……妾もちゃんと説明すべきだった。冬が屋上に行った後、サザレたちには話したのだ。冬の体内に、妾の魔力が生成され続けていることを」
冬は目を見開いた。
「えっ? 私の中に、クレアの魔力が?」
「仮説だが……冬は能力を持たずに召喚された。あの鎖から漏れた魔力が、何も持たぬ冬の体内に流れ、定着したのではないか。城に着いてから、体が揺れる感覚があったのだろう?」
「……確かに、あった。あれがそうだったの?」
冬はしばらく真剣な表情で考え、意を決して顔を上げた。
「……クレア。魔力補給のことなんだけど。……その、毎日やるのは少し抵抗があるから、三日おきになら、魔力補給してもいいよ」
クレアは驚きに目を見開いた。
「……いや、だが冬が嫌なら別の方法を考えればいい。しばらくは大丈夫だ。無理はしなくていいのだぞ」
「ダメだよ。また今日みたいなことが起こるかもしれない。……大丈夫。恥ずかしいけど、クレアを死なせないためなら、頑張るから」
クレアは沈黙した後、愛おしそうに冬を見つめた。
「分かった。だが嫌なら断ってくれ。……それで、これは今日からか? 今から、接吻してもよいか?」
「えっ? ……うん。いいよ」
冬が小さく頷くと、クレアはゆっくりと顔を近づけ、二人の唇が重なったのであった。




