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双子姉妹と異世界  作者: ひろろ
冬 バーイン道中編
39/45

第ニ章:竜の遺言と、魔王の寿命

 


「‥わ、わ、私がクレアの代わりにはならないでしょうか?」


 震える声でそう告げた冬に、竜は凄まじい威圧感を叩きつけた。


「弱き者がふざけているのか!!」


 冬はその圧力に耐えきれず、その場に腰を抜かしてしまう。


「ほら見たことか。この程度の威圧感で腰を抜かすような弱き者よ。そんな者を血肉にしたところで意味がないのだ。さあ、引き渡すと断言せよ」


 だが、冬は引かなかった。


「‥渡せない!! 渡せないよ。わ、わ‥私を殺して取ればいいでしょ!」


(この弱き者‥‥なぜそこまで魔王を庇う? 絶望しているはずなのに、なぜ抗うのだ)


 竜は心に浮かんだ疑問を、そのまま口にした。


「弱き者よ、なぜそこまでしてエリーズ・クレアを庇う? 何故そこまで抗う」


 冬は恐怖に震えながら、叫ぶように答えた。


「今、クレアを失えば何か、何か取り返しのつかないことが起きる気がするから! それに‥‥彼女は、私の、私の、初めてを奪ったの!!」


 極限の恐怖から、口が勝手に「いらないこと」まで喋ってしまった。


「‥始めに言った理由は分からんでもないが、後半の『初めてを奪った』とはどういう事だ?」


 竜は、なぜか興味津々な様子で身を乗り出した。


「いや、あの‥その、えっ? えっ!? あの、今のは聞かなかったことにできませんか?」


「出来ぬ。言わなければ、魔王を血肉に変える。話せ」


 冬は(何で馬鹿なことを言ったのよ、私の馬鹿!)と心の中で絶叫しながら、顔を真っ赤にして打ち明けた。


「それは‥その、あの、奪われたのは‥‥その、初めての、その、キスなの」


「なんだ、接吻のことか。てっきり、初体――」


「うわぁあぁあ!!! なに、何を言おうとしてるのですか!! 竜がそんな事を言わないで!! イメージが壊れるから!!」


「なるほどな‥。弱き者よ。いや、『初の子』よ」


「‥‥あの、弱き者でいいです。なんかその呼び方恥ずかしいので、弱き者でお願いします」


「うむ。なら弱き者よ‥‥話を聞いてなお主に、私の願いを託そうかと思う。私が生きねばならぬ理由だ」


 竜の空気が一変し、真剣なものとなった。冬もまた、居住まいを正す。


「‥聞いてみないことには分かりませんが、話してもらえませんか?」


「私が生きねばならぬ理由。それは――」


 竜は背後から、大切そうに一つの白い卵を取り出した。


「‥この子が生まれ、成長を見届けねばならぬのだ。だから、強い者の血肉が必要だった」


(‥凄く大切な理由。もし血肉を得られなければ、それは叶わない‥‥)


 冬が言葉を失っていると、竜はその表情を読み取ったように言った。


「その表情、迷っているのか? だが、私は決めたのだ。――弱き者よ、お主にこの卵を育ててもらおうとな」


「はぁっ!?」


 冬は素っ頓狂な声を上げた。


「いや、いや、何でそうなるのです!? 無理です、無理です! だって竜の卵ですよね? 私、人間ですよ!?」


「そっちの方がおも‥いや、良いのではないかと思ってな」


「今、面白いって言おうとしてませんでしたか!?」


「何を言う弱気者よ。私がそんな事を言おうはずがなかろう。さて、どうする?」


 冬は(普通に考えて無理だよ‥。でも、そうしなきゃ間違いなくクレアが食べられちゃう)と葛藤し、決断を下した。


「‥分かりました。その提案、受け入れます。けど、貴方も私達と一緒に来てもらいますからね。いいですか?」


 しかし竜は、無言のまま卵を冬の前に置き、眠っているクレアを掴み上げた。


「待って、話が違う!! 嘘だったの!?」


 腰が抜けて立ち上がれない冬は、叫ぶことしかできない。


「‥嘘ではない。魔王エリーズ・クレアは、このままでは確実に死ぬ。だから、私の残された生命を彼女に注ぎ込む」


「どういう事です‥? クレアが死ぬ? 冗談でしょう?」


「‥弱き者よ、何も分かっていないのだな。お前は異世界人か。教えてやろう。魔族は常に魔力の残量に気を配っている。なぜなら、魔族は魔力を使い切れば死亡するからだ」


 冬は衝撃を受けた。


「えっ? でもクレアは、魔力を吸い取り続ける封印の中に長い間いたんです。その時に死んでいるはずじゃ‥?」


「‥お前は彼女が何故最強と呼ばれているかを知らぬ。彼女は無限に近い魔力を保有しておる。だが、その魔力も封印で吸い取られ続ければいずれは底をつく。そして、今がその時だ」


 竜は冬を真っ直ぐに見つめ、残酷な、しかし温かな真実を告げた。


「異世界人よ。お前を守るために‥‥彼女は魔力を使い果たしたのだ」


 と。



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