第十二章:冷徹なる断罪と、強さへの渇望
「私は聞いているの。この状況は何かな? 答えられない?」
低く、氷のように冷たい声。重圧の主が学園No.2のシルクだと気づいた瞬間、眼鏡の女はその場にへたり込んだ。
「な、な、何でここに……っ」
「答えなさいよ」
女は震える頭をフル回転させ、咄嗟に言い訳を吐き出した。
「こ、これは、その……そこの女に刻印があるというから、消せはしなくても、隠してあげようとしたんです! でも抵抗されたので、仕方なくこんな状況に……」
――パァン!
乾いた音が響くと同時に、座り込んでいた女の足が「何か」に撃ち抜かれた。
「う、うぐ……うあぁぁああっ!!」
悲鳴が上がる。夏も、周りの生徒たちも、何が起きたのか理解できず言葉を失った。
「私は嘘が嫌いなの。抵抗されたからこうなった? なら、周りの人たちがなぜ気絶しているのよ。あんたたちが何かしたんでしょう? さあ、答えなさい。私、待たされるのは好きじゃないのよね」
シルクが指を動かそうとした瞬間、女は狂ったように叫んだ。
「わ、分かりましたから! やめて、やめてくださいシルク様!」
女は、学園No.5の指示で異世界人を勧誘し、不可視の首輪を付けるよう命じられたことを白状した。最近の「能力奪取事件」との関連も、シルクの冷徹な瞳が射抜いていく。
そこへ、息を切らした学園No.5の男子生徒が現れた。
「これは……一体何が起きているんだ!」
「あんたが指示したんでしょう?」
シルクの問いに、No.5は心底驚いた顔を見せた。
「僕が指示した? 何を言っているんだ、心当たりすらない!」
眼鏡の女たちが
「冗談ですよね、指示したじゃないですか!」
と詰め寄るが、No.5は冷たく言い放つ。
「誰だお前たちは。僕は君たちなんて知らない。まさか……最近の事件はお前たちの仕業か!? ふざけるな、何が目的だ!」
「捨て駒、ですか……私たちは……」
女たちが絶望を口にした瞬間、彼女たちの体が突如として激しくのたうち回り、一斉に意識を失った。
「なっ……おい、僕に罪をなすりつけるなんてふざけるな! 絶対に犯人を見つけ出して制裁してやる!」
叫ぶNo.5を、シルクは冷ややかな目で見つめる。
(……出来すぎているわね。仕込みかしら?)
しかし、後から駆けつけたサークルの幹部たちが名簿と写真を提示し、
「彼女たちは名簿に存在しない、全く知らない人物だ」
と証明したことで、現場は混乱に包まれた。
「……確かに。まあいいわ、後は先生たちの仕事ね」
シルクは、ボロボロになった桜を抱きしめている夏の側へ歩み寄った。
「……ごめん。私がもう少し警戒していればよかった。あなたたちをこんな目に合わせた奴らを、私は許さない。協力できることがあればするから」
夏は虚空を見つめたまま、静かに首を振った。
「……自分を責めないでください。元は、私が躊躇しなければよかったんです。……シルク、お願い。今は桜と二人きりにさせて」
「分かった。私の寮の部屋を使いなさい。一人部屋だから。落ち着いたら教室においで」
シルクが指を鳴らすと、夏と桜の姿はその場からかき消え、静かな部屋へと転送された。
その様子を、茜は拳を血が滲むほど握りしめて見ていた。
(主様のあんな顔……見たくなかった。私がもっと早く気づいていれば……今の私では、ダメだ……!)
「あの……!」
茜は、立ち去ろうとするシルクの肩を掴んだ。
「私を強くしてください。何でもします。主様に、二度とあんな顔をさせたくない……。だから、お願いします!」
シルクは足を止め、茜をじっと見つめた。
「……いいわ。少しだけ鍛えてあげる。本当はこんなことしたくないんだけどね。私の手加減、怪我だけじゃ済まないわよ?」
「それでも、お願いします」
「いい返事。じゃあ、今からやるわよ。ついてきなさい」
茜は迷いのない足取りで、シルクの背中を追った。
遅れて到着した黒魔と紅は、周囲から事情を聞き、激しい怒りと後悔に震えていた。
「なんだよそれ……ふざけんなよ!」
「勇者の私が、気づけなかったなんて……。夏、大丈夫かしら……」
二人は沈痛な面持ちで、その場を後にした。
一方、現場から少し離れた廊下。
あの「震えていた男子生徒」が、不敵な笑みを浮かべて壁に寄りかかっていた。本人はとっくに身代わりを作り出して逃げ延びている。
「人間にも悪い奴がいるもんだ。あの学園No.5の馬鹿を利用すれば、チルチット様の為になるか」
彼は別の学生の姿へと滑らかに擬態すると、何事もなかったかのように人混みへと消えていった。




