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双子姉妹と異世界  作者: ひろろ
夏 学園編
34/45

第十一章:不穏な胎動と、結集する力


 授業の合間の休憩時間。夏は、隣で熱烈な視線を送り続けてくる学園No.2に対し、意を決して声をかけた。


「あの……授業中ずっと見られていると、集中できないのですが」


 シルクは悪びれる様子もなく、夏の頭をポンポンと叩いた。


「ごめんごめん。私のことは気にしないで」


「気にしないで、って無理ですよ。それに、頭を叩かないでください」


「わかった、わかった。……あ、そうだった。私、この後マルコス先生に呼ばれてたんだった。お昼には戻ってくるから、食堂で待っててよ」


 シルクは嵐のように去っていった。

 それを見送る夏の元へ、先ほど言い争っていた「混血の少年」と「自称勇者の少女」が歩み寄ってくる。


「……大丈夫やったか? 凄い気に入られてるな、あんた」


「……あなた何者なの? あの気難しいシルクの側にいられるなんて。もしかして、あなたも勇者?」


(また魔族に話しかけられた……。それに、この女の人は一体何なの?)


 夏は複雑な思いを抱えつつも、努めて冷静に答えた。


「大丈夫よ。少し変わった人だとは思ったけど……。あ、お名前を聞いてもいい? 私は藤木夏、夏って呼んで」


「俺は西黒魔(にしくろま)。母親が魔族で父親が人間の混血だ。黒魔って呼んでくれ。よろしくな、夏」


「私は、勇者の響野紅(ひびきのべに)と申します。好きに呼んで構わないわ。ところで夏、あなたはどこの教会の勇者ですの?」


「紅……それ、どういう意味? 教会の勇者って?」


 夏の問いに、黒魔が「あんまり気にしない方がいい」と苦笑するが、紅は得意げに説明を始めた。


「教会の勇者っていうのはね、幼い頃に教会のお偉いさんに選ばれ、厳しい訓練を乗り越えた者だけがなれるのよ。その証がこれよ!」


 紅が手の甲をかざすと、そこには赤く脈打つような不気味な紋章が現れた。


(異世界人専用の刻印と酷似してる……。でも、それじゃないの?)


「それ、大丈夫なの? 痛んだり、能力が制限されたりしない?」


「刻まれた時は酷く痛んだけど、今は問題ないわ。制限なんて聞いたこともないわよ」


 紅が証を消した後、夏は心の中で鈴に問いかけた。


(鈴さん、あれは異世界人の刻印ではないのですか?)


『……分からぬ。酷似しているが、教会の勇者などという話、私の生きていた頃には無かった』


 その時、目の前で黒魔が手を振った。


「大丈夫か? 聞いてる?」


「やめなさい黒魔!」


 紅の叱咤で我に返った夏は、慌てて二人を促した。


「ごめんなさい、考え事をしてて。……さあ、授業が始まるから席に戻って」


「まあ、これも何かの縁だ。近くに座らせてもらうぜ。シルクもいないことだしな」


「私もそうさせてもらうわ」


(一人にはなれそうにないわね……)


 夏は溜息をつきつつも、午前中の授業を今度こそ真面目に受けることができた。


 昼休み。夏は黒魔と紅を連れて食堂にやってきた。席に着くと同時、茜が血相を変えて駆け寄ってくる。


「主様、お待たせしました!」


「あ、茜。……あれ、桜はどうしたの?」


「桜なら、朝に出会った人にサークルの勧誘をされて、話を聞きに行きましたよ」


 その瞬間、夏の脳裏にククリスの言葉――能力を奪われる異世界人の噂――がよぎった。

 嫌な予感が全身を駆け巡る。夏は椅子を蹴るように立ち上がり、一目散に駆け出した。


「主様!?」


「ちょっと夏、どこ行くのよ!」


「おい、追いかけなくていいのか?」


 呆然とする茜に黒魔たちが声をかける。茜はハッとして、全力で夏を追い始めた。


「……私らも行くわよ」


「ああ、あんなに深刻な顔されたら放っておけねえ」


 黒魔と紅もまた、夏の背中を追って走り出した。

 夏は当てどなく校内を走り、叫んだ。


「桜! どこにいるの!!」


 しかし返事はない。焦りが恐怖に変わろうとしたその時――どこからか、何かが倒れるような鈍い音が響いた。夏は迷わず、その音のした方向へ牙を剥くように向かった。


 一方、夏を見失った茜は絶望しかけていた。


「主様! どこですか、主様!」


 そこへ黒魔と紅が合流する。


(この人たちは……主様の友達? 今は頼るしかない!)


「一緒に探してくれますか? 私はもう一度、食堂付近を探します!」


「分かった、ならまたここに集合だ」


「混血に従うのは癪だけど、今は協力するわ」


 三人は手分けして捜索を開始した。

 その頃、用事を終えたシルクが上機嫌で食堂に到着していた。


「さてさて、夏はどこかしら?」


 しかし夏の姿はない。代わりに、夏を探して右往左往する生徒たちが目に入る。


「何かあったのかしら? ……って、それより、何か用?」


 一人の生徒がシルクに近づいてきた。


「ええとこにおった。人目のない場所で、人攫いみたいなことがあったんや。跡をつけようと思ったけど、一人じゃ危ないと思ってな。シルク、手伝ってくれ」


「嫌よ。私は夏と食事をするんだから、他の人に頼んで」


「そうか……。あんな可愛い転入生の女の子、大丈夫やろか」


 その言葉を聞いた瞬間、シルクの手がその生徒の肩を掴んだ。


「転入生の女? ……待ちなさい。そこへ案内できるのね? 気が変わったわ、案内して。それと――」


 シルクがパチンと指を鳴らす。

 次の瞬間、遠くで夏を探していたはずの茜が、一瞬にしてシルクの目の前に現れた。


「えっ……? 何が、一体何が……」


 混乱する茜に、シルクが冷徹に言い放つ。


「あんた、夏を探してるんでしょ? なら一緒に来なさい。場所、分かったから」


「なっ……」


「聞こえないの? 夏のところに行くよ! 置いていくよ!」


 シルクの圧倒的な覇気に押され、茜は必死にその背を追った。


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