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双子姉妹と異世界  作者: ひろろ
夏 学園編
33/45

第十章:蹂躙される尊厳と、暴発する怒り

 

「さて、行きましょうか」


 昼休み。予定通り姿を現した眼鏡の女性と男子生徒に促され、桜は茜と分かれた。


「じゃあ、行ってくるね!」


 手を振る桜を見送る茜の胸には、かすかな違和感が芽生えていたが、今は主様に報告することが先決だった。

 桜は二人の案内に従い、学園のメインエリアから遠く離れた別棟へと足を踏み入れる。


「あの、ずいぶん離れた場所なんですね。どんなサークルなんですか?」


「それは部長からお話しします。私たちが勝手に口にすることは禁じられていますので」


 眼鏡の女性の冷ややかな返答に、桜の背筋に冷たいものが走った。隣の男子生徒は、先ほどからずっと小刻みに震えている。サークル名すら明かさない不自然さ。


(……おかしい。やっぱり、引き返そうかな)

 不安が限界に達し、桜はその場に立ち止まった。


「あの、やっぱり遠慮させてもらいます。お話を聞くと言ったんですけど、気が変わりました」


「あら、そうなの?」

 女性が足を止め、ゆっくりと振り返る。その瞳に宿ったのは、隠そうともしない「悪意」だった。


「けど、ここまで来て『辞める』なんてことが許されると思う? ……ほら、捕まえなさい」


 女性の合図と同時に、物陰から多数の生徒が這い出してきた。叫ぼうとした桜の口が力任せに塞がれ、腕を後ろにねじ上げられる。


(嫌……助けて、夏! 助けて……!)


 抵抗虚しく、桜は暗い校舎の奥へと連行されていった。

 その様子を、人目のない柱の影から見つめる視線があった。


「なんや? こんな物騒なことしてる生徒がおるんか。……とりあえず、様子を見るか」


 謎の人物が呟くと同時に、その姿が空気の中に溶けるように透明になり、連行される一行を追い始めた。


 桜が連れてこられたのは、寂れた一室だった。椅子に縛り付けられ、周囲を見渡すと、同じように拘束された生徒たちが何人も並んでいる。


「ようこそ、異世界人サークルへ。あなたたちには、ここへ勧誘されるだけの価値がある」


 眼鏡の女性が、厳重な箱の中から「首輪」を取り出した。


「私たちが聞きたいのは『入ります』の一言だけ。……では、一人ずつ始めましょうか」


 一人目の生徒の猿ぐつわが外される。


「ふざけるな! こんな横暴が認められるか!」


「……躾が必要なようね」


 女性が首輪を装着した瞬間、それは魔法の隠蔽により姿を消した。直後、その生徒は喉を掻きむしり、椅子ごと転げ回って悶絶し始めた。

 声にならない悲鳴。ガタガタと震える椅子。その惨状に、桜の脳裏に「奴隷」としての記憶がフラッシュバックする。


(こ、刻印……!? いや、あんな思い、もう二度と嫌……!)


 恐怖に支配された他の生徒たちが次々と「入ります」と涙ながらに屈服していく。だが、女性は容赦しなかった。従った者にも首輪をはめ、気絶するまで苦痛を与えて「躾」を完了させていく。


 ついに桜の番が来た。猿ぐつわが外され、女性が歪んだ笑みを向ける。


「ふふふ。あなたは直前で逃げようとしたわね。余計な手間をかけさせてくれたわ……一際入念な『躾』が必要かしら?」


 桜がガタガタと震え上がると、女性はその反応を逃さなかった。


「その過剰な反応……もしや、あんた『異世界人専用の刻印』を刻まれているわね? ――この女の服を引き裂きなさい。体の隅々まで確認するわよ」


「やめて!!」


 桜の絶叫が部屋に響き渡る。無慈悲な手が彼女の服にかけられた、その時――。


「何をしてるのよッ!!!」


 轟音と共に扉が蹴り破られ、怒りに燃える夏が飛び込んできた。

 だが、眼鏡の女性は動じない。


「編入生か。見ての通りよ。……動かないことね、さもなくば、この者たちがどうなるか」

 女性が指を鳴らすと、首輪をはめられた生徒たちが一斉に激痛に襲われ始めた。


(異世界人専用の刻印……? そんなはずは)


 一瞬の困惑。その隙に、背後から迫った複数の生徒により、夏は床に押し伏せられた。


「さて、続きをしましょう。早くその女の服を引き裂いて、刻印を暴きなさい」


「ふざけないで! そんなのあるわけないじゃない!」


 夏は叫ぶ。刻印を消した事実は伏せたまま、必死に抵抗する。


「しらばっくれても無駄よ。この子の『躾』という言葉への怯え方は、刻印持ち特有のものだわ」


 桜の服は無残にも引き裂かれ、肌が露出した。だが、女性がいくら探しても、そこにあるはずの「呪いの証」は見当たらない。


「……おかしい。ないわね」


 ボロボロになり、涙を流す桜の姿。夏の中で、何かが音を立てて切れた。


(また桜を泣かせた……。私が守るって言ったのに。……りん、あれを使うわ)


『ダメだ! 夏、踏みとどまれ!』


 鈴の制止を無視し、夏が禁忌の力を解放しようとした、その瞬間。


 部屋の空気が、一瞬で凍りついた。

 肺が潰れるほどの圧倒的な重圧。コツ、コツ、と静かな足音が廊下から響く。


「……何をしてるのかな?」


 低く、底の知れない声が部屋に響き渡った。


「夏の姿が見えなくて、この子が慌ててたから探しに来たんだけど……この状況、どういうことか説明してくれる?」


 そこに立っていたのは、怒りすら超えた「無」の表情を浮かべる、あの人物だった。




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