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双子姉妹と異世界  作者: ひろろ
夏 学園編
32/45

第九章:牙を剥く「同胞」と、最悪の変装者

 

 夏が教室に入ると、全方位から突き刺さるような視線を感じた。それを強引に無視して窓際の席に座る。

 ふと前を見ると、机に顔を伏せて寝ている生徒の首筋に虫が止まっていた。夏は気になり、つい手が動く。

 ――パチン!


「いっ、なんだ……!? 突然叩いて、喧嘩売ってんのか!?」


 飛び起きた生徒が振り返る。その頭には小さな魔族の角が生えていた。


(魔族……! くぅ……)


 夏は嫌悪と葛藤しながらも、潰れた虫がついた掌を見せた。


「……虫が止まってたの。反射的に叩いちゃった。ほら」


「確かに……悪かった、すまない」


 彼が気まずそうに謝っていると、一人の女子生徒がツカツカと歩み寄ってきた。


「あなた、気をつけなさい。その男は魔族と人間の混血。何をされるか分からないから、気安く話さない方がいいわよ」


「なんだと!? お前こそ、『私は勇者だ』なんていい加減な吹聴をしてる勘違い野郎じゃないか!」


(混血の少年に、自称勇者の異世界人……本当に色んな人がいる。でも、私の隣で言い争うのはやめてほしい。……案外、仲がいいのかも?)


 騒ぎが大きくなったため、夏は席を立ち、他の空席を探した。すると後方の窓際で、一人の女性が激しく手招きしている。


「やっと来たわね。私はククリスの友達よ。隣に座りなさい」


「え、あ、はい。失礼します」


 夏が腰を下ろすと、周囲の視線が「戦慄」に変わった。先ほどの二人までもが絶句して夏を見つめている。


「……あの、一つお尋ねしたいのですが。あなたはここのプリンセスか何かですか?」


 男の問いに、隣の女性が噴き出した。


「くふ、ははは! 違うわよ、プリンセスって何よそれ! ははは、待って、面白すぎる……!」


(疲れる……まだ授業すら始まっていないのに)


 ようやく笑い終えた彼女は、優雅に髪をかき上げた。


「ああ、笑った。ククリスがあなたを気に入った理由が分かったわ。私は学園ナンバー2の『シルク』。みんなが驚いているのはね、私、今までククリス以外は隣に座らせなかったからよ。……座ろうとした不届き者は、全員魔法で攻撃して追い払っていたから」


(えっ……大丈夫かな、このシルクって人、怖い……)


「怖いと思ったでしょう? 大丈夫、あなたには何もしないわ。そんなことしたら、ククリスに殺されちゃうもの」


 授業が始まっても、シルクのまじまじとした視線は止まらず、夏は全く集中できない時間を過ごすことになった。


 一方、別棟の教室に到着した桜と茜。


「主様と違う授業か……」


「茜、仕方ないよ。放課後には会えるんだから」


 二人がそんな会話を交わしていると、食堂で声をかけてきたあの男子生徒が、息を切らして駆け寄ってきた。


「あの! 良かったら、僕たちのサークルに入りませんか?」

「あ、さっきの人。あれはサークルの勧誘だったんですか?」


 桜の問いに彼が頷くと、茜が冷ややかに口を挟む。


「突然ね。転入初日の桜を勧誘して、私や主様を誘わないのはなぜ?」


「あ、それは……」


 彼が言葉に詰まると、後方から眼鏡をかけた知的な雰囲気の女性が現れた。


「ごめんなさいね。この子、見た人誰にでも声をかける癖があるの。気を悪くしないで」


「そう。なら、私たちが誘われなかったのは納得ね」


 茜が納得する傍らで、桜が興味深げに尋ねた。


「あの、そのサークルって何をするところなんですか? お話だけでも聞かせてもらえますか?」


 桜の言葉に、勧誘の男子生徒がわずかに体を震わせる。それを隠すように、眼鏡の女性が前に出た。


「気になりますか? なら、お昼休みの前に別室でお話ししませんか? すぐに終わりますから」


「茜、いいかな?」


「私はお昼になったらすぐに主様に会いたいから、お断りするわ。主様には、桜が遅れるって伝えておけばいい?」


「うん、お願い」


「では、お昼前にお迎えに参りますね」


 女性は愛想よく微笑み、男子生徒を連れて去っていった。


 人気のない場所まで戻ると、眼鏡の女性の表情が一変した。


「あんた、自分の立場分かってんの? 私の手を煩わせるんじゃないわよ。あのままだとボロが出てたじゃない」


 彼女は男子生徒の胸ぐらを掴むと、力任せに地面に投げ捨てた。


「ごめんなさい、ごめんなさい……!」


 転がる彼に、女性は容赦なく何度も蹴りを叩き込む。


「謝る暇があるならボロを出すな! 私じゃなかったらこの程度じゃ済まないぞ。私の責任問題になったらどうするつもりだ!」


 激しい暴行の末、彼女がその場を去ると、男子生徒は地面に蹲った。そこを通りかかった一人の生徒が、慌てて駆け寄る。


「大丈夫!? 先生をすぐに呼んでくるから!」


 だが、助けを呼ぼうとした生徒の腹を、蹲っていたはずの男子生徒の手が貫いた。


「……けっ、役を演じるのも楽じゃねえな」


 先ほどまでの怯えた様子は消え、男の口角が吊り上がる。


「だが、チルチット様が言っていた『刻印を刻んだ女』を発見した。このまま泳がせて、彼女が言う『主様』とやらを探し出す。そいつが、刻印を消せる能力者に違いねえからな」


 男が死体を影の中へ放り込むと、一瞬で飲み込まれた。

 次の瞬間、影の中から「殺されたはずの生徒」が何事もなかったかのように這い出てくる。


「普段通りに過ごせ」


 死霊術か、あるいは擬態か。偽物の生徒は主の命を受け、音もなく教室へと戻っていった。


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