第八章:異世界人の檻と、トップランカーの密談
夏がククリスの胸で泣きじゃくっていた夜。学園の別の場所では、ある「会合」が開かれていた。
中心に立つのは、昨日の試験会場にいたあの男だ。
「今日、新入生の試験が行われた。その中に、僕らと同じ異世界人の女がいたんだ」
男の報告に、周囲の者たちが色めき立つ。
「マジかよ! なら入学早々、僕らの『異世界人サークル』に加入させなきゃな」
「そうよ、久しぶりの異世界人だもの。絶対に仲間に引き入れましょう」
沸き立つ周囲をよそに、奥の方で一人の人物がガタガタと震えながら、消え入りそうな声を上げた。
「あの……その……」
「黙れ。お前が話に入ってくるな」
男が冷酷に言い放った瞬間、震えていた人物が突如として喉を掻きむしり、悶絶し始めた。
「いつ見ても凄いわね。その隠蔽魔法付きの『奴隷の首輪』……」
「けど、良いのか? 学園ナンバー5のお前が、こんな真似をして」
「バレなければ問題ないだろ。これを知っているのは、ここにいる幹部とお前たちだけだ。それに……何でもない」
男は冷たく言い切ると、床にうずくまる人物を見下ろした。
「とりあえず、明日あの女を勧誘する。断るようなら連れ出し、無理やり首輪をつけるまでだ。……勧誘には、コイツを利用するぞ」
翌朝。
目が覚めた夏は、布団の中に自分以外の「体温」があることに気づいた。咄嗟に布団を剥ぎ取ると、そこにはククリスが平然と眠っている。
(……話を聞いてもらって、泣いた後の記憶がない。そのまま寝落ちした? でも、なんでククリスが私の布団で寝てるのよ!?)
混乱し、彼女を起こそうとしたその時。
「夏、おはようござい……」
最悪のタイミングで扉が開き、茜と桜が立ち尽くした。
「あ、あ、主様……!? す、すす、すみませんッ!」
「夏……ごめんなさい、お邪魔でした……っ!」
「待って、待って! 勘違いしないで、これには訳があるから!!」
必死に叫ぶ夏の声で、ようやくククリスが目を擦りながら起き上がった。
「んん……何よ、朝から叫んだりして。……あ、もう朝なんだ。おはよう、夏。……えーっと、誰だっけ?」
その後、寮の食堂で事情を説明し、ようやく二人の誤解を解くことができた。しかし、食事を終えたところで、一人の生徒が桜に近づいてきた。
「あの、もしかして昨日転入してきた方ですか?」
「えっ、あ、はい。そうですけど……何か御用でしょうか?」
桜が戸惑いながら答えると、その生徒が「実は……」と口を開きかける。
「行くわよ。あんたと茜は別棟のクラスでしょ? 急がないと遅刻するよ」
ククリスが強引に会話を遮った。
「主様、またお昼に! 桜、行きましょう」
「あ、あの、すみません……また後ほど。失礼します!」
茜に引かれるように桜は去り、夏はククリスの背中を追いかけた。
「ククリス、どうしてさっきの子の話を遮ったの?」
「んー? 何、知りたい?」
「そりゃ知りたいわよ。昨日も思ったけど、ククリスって性格悪いよね」
「性格悪いって……酷いなぁ。昨日、あんなに私の胸で泣きじゃくってたのに?」
「それは言わないでってば!!」
顔を赤くする夏をからかいながら、ククリスは真面目な顔に戻った。
「……教えてあげる。昨日、試験を見てた男を覚えてる?」
「覚えてる。……それが何?」
「彼は、あの生徒を使って桜を『異世界人サークル』に勧誘させようとしたの。昨日の試験で、桜が異世界人だってバレたからね」
「異世界人同士の集まりなんでしょ? なら何で遮るのよ」
「悪い噂があるのよ。表向きは親睦会だけど、裏では――異世界人が持つ『固有能力』を奪う研究がされている、ってね」
夏は息を呑んだ。
「奪う……?」
「そのサークルに所属していた生徒が、能力を失った状態で発見されているの。学園が調べても『そんな奴は所属していなかった』としらばっくれられ、記録も消されている。だから、無闇に近づくと危険だと思って止めたのよ」
夏はククリスの耳元で、囁くように尋ねた。
「……ククリスは、異世界人なの? 心配してくれてるってことは……」
ククリスはいたずらっぽく笑い、「さて、どっちかな? また今度教えてあげるよ」と答えると、唐突に窓から飛び出し、姿を消した。
「ちょ、ククリス!? 授業は!?」
呆然とする夏を残し、彼女は行ってしまった。
窓から離脱したククリスは、自分の寮へと戻ってきた。
「何、昨日から私のことを追いかけて」
誰もいないはずの場所に声をかけると、一人の女性が姿を現した。
「……貴方が気にしてる『夏』という子が気になって。昨日の戦闘、実は私も見てたのよ。マルコスと理事長、そして貴方は気づいてたみたいだけど」
「何、夏に何かするつもり? そんなことしたら許さないよ。やっと私を楽しませてくれそうなのが入ってきたんだから。……それとも、NO.2のあんたが、まだ見せてない力で私を楽しませてくれるの?」
「そんなことしないわよ。ククリスに勝てる人物なんて、まずこの学園にはいないと思うから」
「白々しい……。話はそれだけ?」
「私も、とりあえず今からその夏と一緒に授業を受けようと思って。大丈夫、本当に何もしないから」
女性はそう言い残して消え去った。
「……さて、ようやくゆっくり寝れる。昨日は夏のせいで結局一時間も寝てないんだから」
ククリスは大きな欠伸をすると、布団へと潜り込み、深い眠りにつくのであった。




